第九十七話 穴
「さあ盛り上がってまいりましたお菓子作り対決!」
「勝者の景品ー、三井の一日使用権は誰の手に渡るのでしょうかー」
「聞いてない!聞いてないぞそんな権利!?」
俺、売られてるのか!?しかも友人に!
「拒否権を!拒否権を要求する!」
「多数決ー。景品は三井の一日使用権でいい人ー」
「「「はーい」」」
「全員一致で可決!?俺の拒否権は!?」
「多数決ー。三井に拒否権が必要だと思う人ー」
「…………」(しーん)
「数の暴力!まあこうなると、薄々感づいてはいたけどね!」
「さあ、みっちゃんの一日使用権は誰の手に!?」
「…………」(ごごごごごごごご)
ああ!保護者のプレッシャーがひどい!保護者が勝ったら何をするかわかったもんじゃない!絶対に勝たせられない!
「大丈夫だ旦那。俺が勝つから何の問題もない」
「すごい自信だな。勝算はあるのか?」
「俺の作品を見ればわかる」
「作品?」
そう強調して出した義人のお菓子は、まさに作品と呼ぶにふさわしい、和菓子だった。
「……芸術作品みたいだな……」
「みたいじゃなくて芸術作品だ。和菓子もそうだが、菓子はまず目で楽しむものだからな」
「そういうものか。ただここまできれいだと、食べるのがもったいないな」
「食ってくれ。お菓子は食べてもらうことで初めて完成する」
「では失礼して……うむ、旨い。上品な味だ。中に入っているのはもちか」
「白玉団子のようなものだな。買うより作るほうが安い」
「旨いわ……これは。ただ、二人とも和菓子でかぶっちゃったな」
「そうだな」
「本当に杉田先輩って空気読めませんよね。可愛い後輩の意をくんでくださいよ」
「自分で言うことじゃないと思うんだけど!?」
「まあ、見た目、味では義人の方が上だったが、安さを含めて考えると互角でいいんじゃないか?」
引き分けなら景品はなし、ということで落ち着いてくれるだろう。ナイスジャッジ、俺。大岡越前も俺の裁きに文句をつけられまい。
「……というわけで、景品である俺の一日使用権は……」
「二人に与える、ということで」
「「「異議なし」」」
「墓穴を掘った!」
やっちまった!やっちまったよ、俺!
「旦那、俺の方は例の荷物持ちで」
「……またか」
まあ、義人のやらせたい事はだいたいわかる。よって問題なし。いや、問題はたくさん(倫理的に)あるんだが。それより問題は―
「……保護者、俺はお前を信じてるぞ」
不気味なほどにやけている保護者の考えていることがわからない。お願いだから変なことはやらせないでね!?
「先輩、大丈夫ですよ。大したことさせるつもりはありませんから。……ふへへへへへ」
何その笑い方!?不吉!物凄く不吉!!
「これにて一件落着ー」
「基はと言えば石井!お前のせいだろ!?責任取れ!」