第九十一話 見学
世間ではGWなのにうちの大学は休みなし……ひでえ
「先輩!せっかくの夏休みなんで遊びに……じゃなかった、見学に来ましたよ!」
「遊びに来たなら帰れ」
「保護者ちゃんいらっしゃい。ゆっくりしていってね!」
我が北高水泳部に、俺の中学の後輩が尋ねてきた。まあ小学校からの後輩及び同じ通学団(防犯とかのために一緒に登校、下校するシステム。高学年が低学年を引率していた)でもあったから、付き合いは義人と同様長い。その通学団で低学年の生徒を見事にまとめていたため、尊敬を持ってこう呼ばれていたのである。そう<保護者>と!
「まあ呼んでいたのは……っていうか呼んでいるのは俺と義人くらいなんだけどね(笑)」
「笑うなあ!先輩それはなんですか!?好きな子はいじめちゃう小学生の心理ですか!?」
「そんなわけないだろう(苦笑)」
「苦笑までするなあ!」
「で、なんでまた北高水泳部なんかに来たんだ?」
「だから見学ですよ」
「来年北高を受験するのか?」
「しますよ」
「大丈夫か?北高は結構レベルが高いぞ?」
「それって自慢ですか?」
「学力くらいは自慢してもいいだろう」
「せこいですね。今のままいけば受かると思いますよ」
「勉強できないイメージがあったから意外だな」
「努力したんですよ。目的のために」
「目的?なんだそれ」
「……先輩にだけは絶対に教えません」
「別にいいわ。言ったはいいけど興味薄いし」
「……もういいです」
「大丈夫か?北高はかなり変人率が高いぞ?」
「先輩がいるくらいですもんね」
なんてことを言うんだこの後輩は。
「俺は変人じゃないだろう。だよな、みんな?」
「……ふっ」
「……ぷぷっ」
「…………」(肩を震わせて笑いを堪えている)
「……まさか変人揃いの水泳部で俺を否定されるとは思わなかったよ」
切ない。
「この部活で先輩はどんな感じなんですか?」
「この水泳部唯一の常識人だ。だよな、みんな?」
「突っ込み」
「時々ボケ」
「常識人に見せかけて意外と流される」
「……要は愉快な人」
「なるほど」
「納得すんな!それにみんな、俺のことそんな風に思ってたの!?」
ショックだ!
「楽しそうな部活ですね」
「今の苛めの光景から何を見たんだお前は」
「女子の部員は少ないんですね」
「二人で五位だ」
「何言ってるんですか先輩。気でも触れましたか」
……事実を言っただけなのに。
「また来ますね!」
「見学は済んだのに何しに来るつもりだ」
「遊びに」
「ついに本性を現したな」
「またおいで」
「来ないでいい」
今日だけでもいろいろと心に傷を負ったのに、相手なんかできるか。