第八話 部員と顧問
「くらえー!」
「くらうかー!」
「死ねー!!」
「死んでたまるかー!!」
こんな物騒な会話がなされているのは、別に学級崩壊が進んでいるからではない。水泳部の親睦を深めるために行われているドッジボールでの声である。高校生にもなって、ドッジなんかにそんなに熱中するなという声が聞こえてきそうだが、全力で無視する。
「あと一人!」
「三井やれー!」
あと一人、松田(平泳ぎで県大会入賞の一年)が残っているが、俺の敵ではない。下半身に狙いを定め投げた球は見事に松田をとらえた。
「うわー、やられたよ」
「三井やるな」
「というか性格変わりすぎだろ」
「確かに」
「すげー笑ってたしな」
「修羅だな、修羅」
田村(個人メドレーで県大会出場、一年)や片山(背泳ぎで東海大会出場、一年)が話しかけてきた。
「……そんなに変わってたか?」
俺としてはいつも同じようにしているのだが。
「ああ。ドラゴンボールの作風の変化くらい変わったな」
……冒険ものからバトルものになるほどの変化か……。今度から自重しよう。
「それにしても部のメンバー凄いよな」
北高水泳部は三年四人、二年三人、一年九人で構成されているが、中、高含めて県大会に出場したことがあるのが大半である。特に今年の一年は中学時代、県で入賞したのが四人である。……俺は県にも出ていないのに……。
「小倉さん(顧問)が張り切ってるし、今年も練習厳しくなるぞ」
川本先輩(自由形で県大会に出場、三年)がそう教えてくれた。
「そんなに厳しいんですか、小倉さん」
「そうだな、自分にも他人にも厳しい」
「……五十過ぎてるのに凄いですもんね、筋肉……」
「生徒指導部長やってるくらいだしな」
「小倉さんは種目何だったんですか?」
「いや、あの人は高校球児だったらしい」
「へー、そうだったんですか」
などと話していたら、本人がやってきてこう告げた。
「明日から筋トレ始めるからな」
翌日部活に行くと、腕立て、腹筋、背筋、スクワットにチューブ引きと予想をはるかに超える量の筋トレをやらされた。
「そういえば、小倉さんは筋トレマニアなんだ」
「……そういう大切なことは俺たちが入部する前に言ってください……」