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第八十七話 潜る

「ラストは潜水で25メートルクロール。四十秒サークルで六本泳いで来い」

「……まじですか」

 今日もまたひどいメニューだ。殺す気ですかそうですか。小倉さんは間違いなく極度のSだ。



「明日は出張で部活に来れない」

 小倉さん、忙しいな。となると明日は休みか。やったぜ。

「そこで臨時に山本先生に来てもらうことになった」

 ……そういえば健三さんが酒につられて引き受けてたんだった。残念。

「山本先生たっての願いで、メニューは山本先生が組んでくれるそうだ」

 ……健三さん(虚弱体質。インドア派の代表格)に水泳の知識があるとは思えないんだが……。不安だ。でも楽なメニューにはなるかもしれん。

「以上だ。明日も欠席しないように」

 なるようになるか。



 翌日、部室で着替えてプールサイドに出ると、健三さんがいた。トロピカルな柄の水着(もちろん競泳用ではない)はまったく似合ってないと思いますよ。

「おはようございます」

「うぇるかむ」

「今日のメニューはどうなりますか?」

「あろはー」

「……距離的にはどれくらいですか?」

「おーいえー」

 ……絶望的に会話が成立しない。練習を見てくれる……いや、プールサイドにいるだけでいいんで、余計なことをしないでほしい。

「ふんふーん」

 鼻歌を歌いだした健三さんはほかっておいて、他の部員を待つことにした。……このままでは間が持ちそうにない。頑張れ、俺。



「皆さんきましたね」

 ようやく部活が始まる。メニューはどうするつもりですか?

「メニューはなんと、私が決めるんですよ。わーわー、いやっほーい」

 なに一人で盛り上がろうとしてるんですか。無表情でそれやられても不気味なんですけど……健三さんだし。

「というわけで今日は、潜水対決をします」

 ……悪寒が。

「ルールは簡単。潜水でどれだけ長く進めるかです。」

「山本先生、それはちょっと……」

 部長が抗議に出たか。当然だな。死人が出るかもしれん。潜水は危険だ。俺もかつて潜水勝負をして呼吸困難になりかけたことがある。その時は75メートルだったが……、やばい、あの時の恐怖がよみがえってきた。耐えるんだ、俺。今は言葉を出すこともできる。考えていることとやることが一致しないなんてことはもうないんだ。

「ねーねー三井ー、どうしたのー?」

「どうせまた旦那のトラウマに引っかかったんだろ。トラウマの貯金箱だからな」

 


「ではもういいです。勝手に練習してください」

 部長に説得された健三さんは、そう言ってプールサイドで不貞寝し始めた。子供ですかあなたは。

「旦那、トラウマはもう収まったか?」

 思い出させるな。

 


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