第八十四話 襲撃
両親がいないため、束の間の一人暮らし。せっかくなので普段はできないことをやろうと張り切っていた俺は、手始めに料理を作ろうとしていた。義人に教わった<ごっそりきんぴら>である。しかしフライパンを出そうとしたところ、チャイムが鳴った。気合いを入れてやろうとしているのに、空気読めよ。誰か知らんけど。
「おーーっす」
「おじゃましまーす」
「邪魔する」
「……きれいな玄関だ」
「うーん、アパートにしてはいいんじゃないー?」
……わが校の水泳部諸君でした。なぜこの場所が……?
「旦那。みんな連れてきてやったぞ」
貴様か。
「とりあえず言っておこう。帰れ」
「「「ひどっ!!!」」」
「なんだよ旦那。せっかく応援に来てやったのに」
「嘘だろ」
家事を手伝いに来たとは思えん。
「ねーねー三井の部屋はー?」
「勝手に入るな」
見られて困るものなどないが荒らしてほしくない。
「おー、片付いてるな」
「聞いてねえし!」
人の話は聞きましょうとガキの頃教えられなかったんですかあなた方は。
「将棋盤と駒があるな」
「しかもきれいで……本格的だな」
「ひい爺さんの形見だから本気で触らんでくれ」
しゃれにならないから。
「本棚には司馬遼太郎、藤沢周平、吉川英治……だれ?」
「知らないのかよ!?」
高校生なんだから一般常識として覚えとけ!ついでに一人頭五冊は読め!
「机の絵がドラゴンボールか」
「机を買ったのがガキの頃なんだから仕方ないだろ!」
「部屋にテレビもパソコンもないな」
「家族共用のがあれば十分だ。お前ら何しに来たんだよほんとに」
「みっちゃんで遊ぶため……じゃなかった、みっちゃんと遊ぶためだ」
「一文字でだいぶ印象変わるから!」
「じゃあ、みっちゃんで遊ぶために来たんだ」
「ぶっちゃけよった!浜ちゃん、訂正しておけよそこは!」
「まあ事実だし」
「なら帰れ」
「おお、なかなかの大画面テレビだな」
「ひとんちで自由散策してんじゃねえーっ!!」
「Wii持ってきたからやろうぜ」
「「「おーーーっ!!!」」」
「アパートだから!騒ぐな!!」
「「「おじゃましましたーー」」」
「二度と来るな!!!」
あの後、スマブラXで大いに盛り上がった集団は、夕飯まで要求して帰っていった。義人が手伝ってくれたからいいようなものの、夕飯よこせと言われた時には危うく手に持った包丁が滑って、誰かに刺さるところだった。危ない危ない。
「しかし嵐のような連中だった……」
さて、残った皿をどうしようか……。片付けくらいしろよ。招かれざる客だったのに。
数日後。
「えー、松ちゃん明日家で一人か」
……にやり。