第七十九話 メドレー予選
全国総合体育大会、水泳部門愛知県支部大会は二日にわたって行われる。俺たちの世代は小学校の頃からレベルが高く、新記録を作ることもざらにあっただけに、この大会では各高校の勢力図が激変する可能性がある……と小倉さんが言っていた。俺たち一年は、去年までの勢力図を知らないのでよくわからないが。その中でも例年と変わらずダントツの優勝候補が豊玉高校らしい。ほんと東三河から消えてくれ。消えてください。お願いします。
「審判長注意。審判長は豊橋北高校水泳部顧問、小倉俊郎先生です」
……県大会でもあなたが審判長ですか。まだ隠された権力があったんですね……。
「かっ飛ばせー、はーまーちゃん!」
「野球じゃないから!!」
県大会一発目の種目、400メドレーリレーの応援をする北高は、緊張感に包まれながらも声出しはしっかりしていた。地区大会の成績だと、北高の順位は十位。ぎりぎりで決勝に進むことはできるものの、東海大会出場はできない。選手の頑張りに期待だ。
「マサーーーっ!!!エロい!!」
「応援しろよ!?」
一泳の背泳ぎ、片山がバサロでスタートダッシュ。しかし敵もさる者、片山でも差ができない。豊玉高校や中央大中京高校の選手には引き離されるほどだ。……これが東海、ひいては全国レベルなのか……!
「池山先輩!頑張れーーっ!!」
二泳は平泳ぎ、池山先輩。おそらく次期部長となる、現時点で、平泳ぎ北高最速の選手だ。いずれ松ちゃんが抜くのだろうか。ぜひ抜いてほしいが、今は意地でも離されないようくらいついてください。
「部長!意地の見せ所です!」
三泳、バタフライ、部長。去年東海大会に出ただけあって、差を少しずつだが縮めている。現在の順位は十位。しかしまだ予選だ。この調子でいけば決勝に駒を進められる。前の組の十一位よりはよさそうだ。なぜならこちらには秘密兵器が残っている。
「浜ちゃん!決めろ!」
「越えろ!」
「何を!?」
「音速の壁を」
「越えたらやばいから!死ぬから!物理的に無理だから!」
「そこをなんとか」
「頼んでどうにかなる問題じゃねえ!」
「いいから応援しろよ」
つまり、浜ちゃんがいる以上、最後は盤石なのだ。このレースも八割くらいの力で臨んだ結果、見事に十位。東海出場のチャンスを得ることに成功した。
「この調子で決勝は八位以内だぞ!」
実際問題としては厳しいだろう。しかし、可能性は十分あるところまで実力は拮抗している。先輩達のためにも、がんばれ、片山、浜ちゃん。