第七十七話 終業
「……この伝統ある我が北高の歴史に傷を残さぬよう、夏休みとはいえ自覚をもった行動をトリ、部活動等の大会ではぜひ良い結果を残せるよう、精進すること。いいですね」
長々と空気を読まずに校長が長話をしている。終業式くらい短く終わってくれるんじゃないかと期待した俺が馬鹿だった。あの校長は、生徒はおろか教師陣でさえ話半分以下(おそらく一割弱)に聞いているこの現状を理解していないのだろうか。もし理解していないなら鈍すぎる。ラブコメの主人公かおのれは。全然もてていないけど。(校長は独身の上、今までずっと両親と暮らしている、いわゆる昔からのパラサイトシングルなのである……石井情報より)
「ふわああぁぁぁ」
見ろ。健三さんなんか、湧き上がるあくびを堪えようとすらしてないぞ。よっぽど暇なんだろうが、生徒の目の前にいることを自覚してくれ。みっともないし、教育上よろしくない。健三さんに言っても仕方ないけど。
「…………」
かと思ったら今度は素振りをし始めた。健三さんでもスポーツをやるんだな。見た目だけでは想像がつかないが、何のスポーツだろう。野球か?テニスか?ゴルフか?
「三井―、それは違うよー」
「何も言ってないのに違うとか言うな。今は校長の話中だとわかってるか?」
「三井だって話聞いてなかったじゃん―」
「無駄だからな」
「旦那、ぶっちゃけるなよ」
「……で、何が違うって?」
「健三さんのフォームをよく見てみなよー」
「…………」
右だけでなく左。上下斜めにも振ってる。はて、どこかで見たような……。
「……ってライトセーバーバトルの動きじゃねえか!!」
教師が何やってんだ!?
「ジェダイは常に鍛えないといけないんだよー」
「そう言いながらライトセーバーを出すな!常備か!?常備なのか!?」
「戦士のたしなみだよー」
「いつから戦士に!?」
「男は生まれた時から戦わずにはいられない生き物なのだよ」
「そう言ってる間に健三さんが虫の息に!?スタミナ少なっ!!」
インドア派にしても少なすぎるだろ!生きるために必要な最低限しか体力を持っていないのかあの人は!?
「フォースが足りない」
「フォースとかじゃなくて足りないのはスタミナだよ!!」
「……このように、日々の生活態度をこの夏休みで改めることで、一層学業に集中できることになります」
「まだ校長話してたの!?長え!」
「誰か!!救急車を!!」
「ええ!?健三さんが本当にやばそうだ!?虚弱体質ってレベルじゃねーぞ!?」
……このようにして、一学期は幕を閉じたのだった。健三さんは単なる疲労で気を失っただけで、無事だった。……なれないことするなよ、いい大人なのに。