第七十話 寸評
テスト週間だというのに、空気を読めない男性教師と専らの評判(主に水泳部員、その親からの評判)の小倉さんによって、水泳部は活動させられていた。そのため俺たちは今、教室から結構離れたプールに向かっている。もうすぐ県大会だというのも大きいが。俺は県大会出られないから、泳がなくても別にいいのに。かといってテスト勉強するつもりもない。一夜漬けでいいじゃない!……追試は嫌だけど。
「……面倒くさい……」
「おい旦那、それを言ってしまったら健三さんと変わらんぞ」
「そうだよー、将来あんな大人になっていいのー」
「なりたいわけあるか。断固として拒絶する」
あんなの(かなり失礼)になったら、世間からの冷たい目線を一身に浴びることになるじゃないか。北高だからまだもっているけど。……あの破天荒教師がなんとかなってるって……改めて考えると、恐ろしい学校だな。そりゃ世間から「魔窟」だの「カオスポッド」だの「一流の不良品」だの言われても仕方がないわ。
「そんな大人になったら、俺は生きていけん」
「……旦那の健三さんに対する評価が、よくわかったよ」
「でもさー、健三さんの性格になれるなら大丈夫じゃないー?」
「どういうことだ?」
「だってさー、他人の視線に無頓着になるんじゃないー?健三さんって我が道を行くタイプだしー」
「なるほど、そう言う考え方もできるか」
「なら旦那、健三さんみたいな大人になりたいか?」
「なりたいわけないだろう」
我が道を行くって、要は自己中心的ってことだろ。健三さんが損得勘定を抜きにして、他人のためにつくす姿が想像できん。
「……旦那って健三さんのこと嫌いなのか?」
「そんなことはない」
誤解してはいけない。俺は健三さんのようになりたくないだけであって、健三さんの生き方を否定するつもりは全くない。むしろ尊敬している。決してなりたくはないが。反面教師(してはならない見本)のようなものか。
「そうか。なら一安心だな」
「そうだねー。担任が嫌いだと面白おかしく生活できないもんねー」
少なくとも俺にとって、今の生活は面白おかしいよ。心労も多いし、俺の青春はこれでいいのかと疑問も出てくるが。
「さて、今日も泳ぐか」
部室に着き、扉を開けようとすると、背後から歌が聞こえてきた。
「つーきーのひーかーりにーみーちびかーれー」
歌を歌いながらママチャリで疾走する健三さんを見送り、義人が一言。
「なんでジャージ姿なんだ?」
「突っ込みどころそこじゃねえ!!」