第六十八話 中原中也
「期末テストが近づいてきましたねえ」
そうですね、健三さん。ですから、とっととテスト範囲まで授業を終わらせてください。
「梅雨ですねえ」
そうですね、健三さん。じめじめして嫌なのはわかりますが、テスト範囲まで授業を終わらせてください。
「雨ですねえ」
そうですね、健三さん。
「……授業面倒くさい」
ぶっちゃけちゃった!!この古典教師、言うに事欠いて「授業したくない」ってぶっちゃけちゃった!!
「というわけで、今日は授業をやめて別なことをします」
……どうせ何を言ったって聞き入れちゃくれないんだろうな……。
「中原中也、知ってますね」
中学の授業で聞いたな。確か詩人だったっけか。
「皆さんが知っているのは<汚れつちまつた悲しみに>の詩だと思います」
それだけしか知らないし。
「そこで今日は、この北高に入って汚れてしまったものを上げてください」
……候補がありすぎて困るんだが。
「では杉田」
「二次元に関してのプライド」
「具体的な理由は?」
「石井という好敵手と出会い、この件に関しては一番ではないと自覚したからです」
にやりと不敵に笑う義人と石井。アホでーす!ここにアホが二人いまーす!!
「次、清水」
「評判です」
「理由は」
「女好きですぐに告白する奴だという、根も葉もない噂が立っているからです」
事実じゃねえか。
「こんなに純情一途なのに!!」
どこが!?
「では次、菅原」
「心です」
「理由は」
「私、ショタコンになっちゃったんです!悪い仲間に毒されて!!」
安心しろ。それは他の人でなく、自分にほとんどの責任がある。
「昔は髭のある渋い男が好きだったのに!!」
オタクになったとかそういう話じゃないのかよ!!
「次、原」
「全てです」
「次、小坂」
原君のとこ流した!?スケールでかすぎだよ原君!!気持ちはわかるけど!!
「では最後に、三井」
「今までの常識。自分の存在意義。人を信じる心。能力差をあきらめない気持ち。現実を直視しようとする意志。教師の言うことは基本的に正しいという刷り込み。理不尽と戦おうとする信念。平均より高い力を持とうとする生き方。プライド。将来の希望。夢。などです」
「頑張って生きてください、三井。では授業を終わります」
……今のカミングアウトで頑張って生きていく自信がさらに減りましたよ。ファイト、俺。
明日から大学の授業が開始です。九十分も耐えられるんだろうか……。