第六十五話 差
ついに来た。来てしまった。高校初の公式戦。そして俺のタイムでは県大会には出場できないので、新人戦までは当分ない、一年で二度しか出ることのできない公式戦である。
「狙うは自己ベストの更新だ」
「旦那、もっと望みは高く持とうぜ」
「そうだよー、もっと高く持とうよー」
お前たち泳ぐのが速い変人と、凡人である俺を一緒にするな。
「……で、お前らの具体的な目標は?」
「県大会出場だ」
「義人のタイムなら楽勝だろ。確か200バタフライは二分四十秒以内だよな」
「俺のベストが二分三十五秒だからな。疲れはあるが何とかなるだろ」
小倉さんが「北高の目標は東三大会ではない。県、東海大会だ」などと言って、調整練習をさせなかったため、疲れがたまっている。やめてほしいものだ。
「なら石井の目標は?」
「完泳+力尽きないこと、だよー」
「それ高い目標!?」
まあ石井にとっては死活問題なのだろうが。
「いいか、全員自己ベストの更新を目指せ。バテている状態で実力を発揮できてこそ、本番でもいつもの力が発揮できる」
俺にとってはこれが本番なんですが。何度も言うようだが、やたらハイスペックな皆さんと凡人の俺を同列に扱わないでほしい。
「東三大会二位の確保は至上命題だ。ベストを尽くせ」
「「「はい!」」」
俺は戦力にはならんが頑張ろう。応援くらいしかできんが。
「ところで先輩、どうして東三大会二位が目標なんですか?一位狙わなくてもいいんですか?」
「……世の中にはできることとできないことがあるんだよ」
「…………?」
「まあ最初の種目……メドレーリレーか……を見ればわかる」
「そうですか。うちも相当早いと思いますけど」
一年二人(浜口、片山)が加入したメドレーリレーは、県大会標準記録(これを上回れば県大会に出られる)を余裕で突破している。引き継ぎでミスがなければ、間違いなく県出場なほど速い。
「……見ればわかる」
「わかりました。見てみましょう」
「メドレーリレー一位、豊玉高校。なお、この記録は東三大会、県大会を含め新記録です」
「……なるほど。格が違いますね」
「なにせ去年全国三位だからな……」
北高のメンバーも県標準記録を悠々突破し、見事二位だったのだが、それでも豊玉高校とはかなりの差が開いた。何なのあれ?反則じゃない?
「速すぎでしょう」
「全国から選手を集めてるからな」
巨人か。傭兵集団ておい。
「先輩、一言いっていいですか?」
「いいぞ」
「……豊玉高校は東三河から出て行け」
切に望む。