第六十二話 屋外
今日は大学の入学式なので早めに投稿。一人暮らしも始まり、すっかり新生活です。読者の皆さんも新生活がんばってください。
「おーい、みっちゃん。小倉号に乗った感想はどうだ?」
「……異空間にいたような気分だ……」
「イッシーとスギはどうだった?」
「結構快適だったよー」
「上々だったな」
「……この感想の違いはなんだ?」
「この二人だから小倉さんのプレッシャーの中、話ができたんだ。俺がどうこうできるレベルじゃない」
「……なんだその達観したような眼は」
「ようやく解放されたしゆっくりするかー」
「……大会はこれからだろ……」
気分転換にアップにでも行くか。
……油断していた。俺は寒さにだいぶ慣れてきており、しかも六月に入ったことで水温も二十度を越えるようになっていた。それが心の緩みにつながっていたのだろう。警戒というものを全くしていなかった。屋外の五十メートルプールがどれだけ冷たいかを知らないまま―俺は飛びこんでしまったのだった。その結果。
「冷てえーーーーっ!!!」
馬鹿みたいに叫んでしまったのだった。
「……大会主催者何考えてんだ……?こんな凍える状況でどういいタイムを出せと……?」
「旦那、情緒不安定気味だぞ。大丈夫か」
「大丈夫じゃねえよ。見ろ。石井なんかプールから上がっても一言もしゃべれない状況だぞ」
「…………」(凍えて死にそうになっている。唇真っ青)
「でも旦那、石井の朝のテンションはどこへ逝ったんだろうな」
「漢字違う!」
「同じようなもんだろ」
「本人が逝きそうな時にそんなこと言うなよ!」
「……みっちゃん、あんたも何気にひどいこと言ってるぞ」
「でもほんとタイム伸びないだろうな、このコンディションじゃ」
「待て、発想の転換をするんだ!速く水から上がりたいという気持ちでいけばより速く泳げるかもしれん!」
「それはいい考えかもしれんな」
「……それならー、そもそも入らないのが一番だよー、……」
「石井!死にそうな状態(凍死の危険)でネガティブなことを考えるな!」
「イッシー!もっといいことを頭に思い浮かべろ!」
「……いいこと―……?……ああー、ヤンデレがいっぱいだー……」
「それいいことじゃねえーーーっ!!」
この大会、北高は無難な成績を残し、なんとか死亡者ゼロで帰還できたのだった。
……俺はもちろん小倉号で帰還したのだが。しかも二日間なので、行き二回帰り二回の合わせて四回小倉号に乗車。……寿命が十年は縮んだかな……。
三井の記録…… 50自由形 29.80 自己ベスト更新
100自由形 1.07.55 自己ベスト更新