第六十話 同乗
初めてというのは何だって緊張するものだ。初めてではいつもの力が出し切れず、悔いを残して終わることも多い。それを克服するためには、日ごろの練習をしっかりとやっておくことも重要だが、大切なことをぶっつけ本番でやらないこと―場数を踏むことが必要である。
「というわけで、この土日は静岡で行われる大会に出場する」
小倉さんはそう言って話を終えた。
「まあでもー、僕たち中学で大会には出てるから―、初めてではないよねー」
「そうじゃなくて今年初の大会ってことだろ」
「ああそっかー、なるほどー」
「で、旦那。俺たちどうやって行く?」
「やっぱり電車か?みんなもそうだろ?」
「いや、俺とマサはうちの車で行くから別行動だ」
「浜ちゃんとマサはリレー二種目にも出るからな……疲れる電車は避けるのか」
「そういうこと」
「ほかのみんなは?」
「俺は電車」
「……俺は池山先輩の車に乗せてもらう」
「僕も電車ー」
「となると電車が多いか……。旦那、俺たちも」
「そうだ、言い忘れとった」
体育教官室に戻っていった小倉さんが戻ってきて言った。
「ストレッチ用の毛布とか運ぶから、一年の三人くらい俺の車に乗れ」
「…………」(電車組四人で顔を見合わせる)
「「「最初はグー!じゃんけんぽい!!」」」
「いよっしゃああ!!」
まっちゃんが勝利したため、必然的に小倉号に乗るのは俺、義人、石井の三人に。
「……なんだお前ら、そんなに騒いで……で、誰だ?俺の車に乗るのは?」
「三井、杉田、石井です!」
勝った喜びが冷めないのか興奮したまま、まっちゃんが報告した。
「わかった。その三人は朝五時半に正門前集合な」
「……わかりました」
捕虜になった敗残兵の気分だ。
「遅れたらただじゃ済まさんからな。覚悟しとけ」
小倉さんはそれだけ言い残して去っていった。
……三河湾にでも沈めるつもりですか?その顔で脅さないでください。
「まあ、あれだな!運が悪かったと思ってあきらめろ!」
「……まっちゃん、一言いいか?」
「なんだ」
「うぜえ」
「断ってから直接言う言葉じゃないと思うんだけど!?」
「うぜえ」
「うぜえー」
「スギとイッシーまで!?」
「一人勝ちしやがって……新月の夜道には気をつけることだな!」
「どこの不良だお前は!?」
「月の出てる日の夜道にも気をつけることだな!」
「俺、夜道を歩いたら必ず襲われるのか!?」
「むしろー、太陽が出てる道も気をつけることだなー」
「もはや外を歩けないじゃん!」
「いやー、最近事故が多いから―」
「ただのアドバイスかよ!優しいなおい!ありがとう!」
「その話は置いておいて……小倉さんと二時間一緒の車旅か……憂鬱だ」
「……ドンマイ」
「……田村はいいやつだな、ありがとう」
「……香典は出してやる」
「俺たちの死亡は確定済かよ!」