第四十九話 暇
ソフトの試合は明日までないので、調整は各自でやることとなった。清水ー深谷のバッテリーは嫌がる深谷を無理やり連れて、投球練習を行っていた。深谷、アーメン。
俺としてはやることもなく、かといって浜ちゃんのように部室に行って<エロ大魔王>(大富豪の発展版。うちの水泳部名物)をやる気分でもない。どうしたものか……。
「なら三井ー、ドッヂの応援に行ったらー?」
「……あれ、俺何か言ってたか?」
「うんー、つぶやいてたよー」
しまった。独り言なんて怪しい人の代名詞みたいなものじゃないか。この学校に来て毒されている気がしないでもない。気をつけよう。
「……で、ドッヂは今から試合か?」
「そうだよー、二回戦でー、相手は二年八組ー」
「じゃあ応援しに行くか。ちなみに義人どうしてるか知ってるか?」
「杉田なら部室で寝てるよー」
「そりゃあれだけ動きまわればな……ただでさえあいつ十時半には寝るのに」
「さあ応援に行こうー」
「はいはい」
試合会場の第二グラウンドに行くと、すでに試合は始まっていた。序盤ではあるが一年七組が優勢のようだ。
「おーい、三井連れてきたよー」
「誰に言ってるんだ?」
「いいからいいからー」
そう言って石井はどこかへと消えていった。石井の行動は謎が多いからな。いちいち相手してても無駄だ。よって気にしないことにする。せっかくなので隣の大林(剣道部。車、鉄道マニア)に尋ねてみる。
「うちのクラスでドッヂ強いのは誰だ?」
「……知らないの?」
「ああ」
「威張ることではないな」
「いいから教えてくれ」
「……藤村さんと菅原さん。どっちもハンド部で肩がいいよ」
「なるほどな……で、どれがその藤村さんと菅原さん?」
「……クラスメイトだろ、覚えてないのか……?」
「ああ。勿論」
「威張るなよ」
それでも大林は教えてくれた。
「ふむふむ。ライセンスのでっかい人に似ているのが藤村さん。カサゴ(海産の硬骨魚。棘が強い。美味)に似ているのが菅原さんだな」
「……言い得て妙だが、他の言い方はないのか……?」
「ない。俺はこれから、心の中であの二人を<ライセンス>と<カサゴ>と呼ぶであろう」
「……ごめんなさい、二人とも」
「大林が謝ることじゃないよ」
「……お前が謝ることだ」
試合は見事一年七組<凍傷の唇>が勝利。戦利品として<なんだかよさげなあだ名>を手に入れた。
「ほんとごめんなさい、二人とも」
「大林が謝ることじゃないよ」
「……だから三井が謝ることだ」