第四十話 頼み
「杉田、確かあなたは古典の文法テストで赤点でしたね」
「はい、そうです」
「追試は受けたくないですよね」
「それはもう。できそうな気配が感じられないですし」
「それなら明日の朝七時半に職員室の私の机にきてください」
「何するんですか?」
「来ればわかります。あともう一人誰か呼んできてください」
「はい、わかりました」
「それでは頼みましたよ」
「……というわけで明日の朝一緒に来てくれ、旦那」
「……どう考えても面倒事を頼まれそうなんだが」
「いいじゃんか、貸しがあるだろ」
「貸しはあるかもしれんが、それを言ったら俺のほうが超過貸出だろ」
延滞料金も加算して、義人の信用バンクは破産寸前だな。
「それは置いておいて」
「それじゃ、別の人に頼んでくれ」
「三井直樹君は小学校五年生のバレンタインデーの時に」
「黙れ!!それを喋るんじゃねえ!!!」
学校で大声出しやがって。その忘れたい過去トップスリーに入ることを他の誰かに知られたらどうしてくれるつもりだ。
「今までも黙ってきただろ。だから手を貸してくれ」
「……わかった。その過去は一刻も早く忘れるように」
「善処する」
「忘れる気ないだろお前」
まあなんだかんだいって秘密にしてくれてはいるのだが。
そして翌朝。
「てめえ義人俺に手伝えと言っておきながら寝坊してんじゃねえーっ!」
「ドンマイ」
「お前が言うな!」
「いやー、谷川先生に土まんじゅう(円形の芝生。寝ころぶと浪人するという恐ろしい伝説がある)の芝刈り頼まれましてね」
「断らなかったんですか」
「だってあの先生柔道三段ですよ。英語教師なのに」
「暴力に屈したんですか」
「それより先生、この掃除手伝ったら追試なしにしてくれるんですよね!」
「はい、適当に小テストの点数いじっておきますから」
おい教師。それでいいのか。絶対いけない行為だろ。
「話は聞いたな、旦那。俺のために芝刈りに励むのだー、はっはっは」
うぜえ。
「……旦那、何を思ったのか知らんが、無言で喉突きは反則だろ……」
「うるさいわ馬鹿野郎」
「仲いいんですねえ」
「……先生、目の前でいじめが起きてますよ、助けてください」
「先生、朝のHRまであまり時間もないですし、てっとり早く済ませましょう」
「そうですね、三井」
「何この扱い!?ひどい!生徒いじめだ!」
自業自得という言葉を知らんのか、馬鹿。
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