第三十九話 命名
「だんな、舌で嘗めろ」
「みついー、踏みつけろー」
「だんな、噛みつけ」
「みついー、暴れろー」
「だんな、毒ガスだ」
「みついー、悪あがきだー」
「……お前ら、ポケモンに人の名前つけるな!!」
今日は石井の家に義人と二人招待された。石井には兄弟姉妹がいないらしく、近くに年の離れた従弟(小学校低学年)がいて、時々遊びに来るくらいだそうだ。
……こいつの近くにいると変な菌が感染するから、近くに寄らせないほうがいいと提言すべきだろうか。
「何でだよ、別にいいじゃん」
「そうだよー、減るもんじゃないしー」
「俺の精神が磨り減るわ!特に義人!何でベトベトンに<だんな>なんてつけるんだ!?俺のどこが毒だって言うんだ!?」
「毒舌」
「…………」
旨いと思ってしまった俺は負けたのだろうか?
「それにベトベトンだけじゃないしな」
「……なんだって?」
ゲームの画面を覗き込むと、そこには<だんなA><だんなB><だんなC>……といったように<だんな>の文字が組み込まれていた六体が縦一列に並んでいた。……シュールだ。
「毒ポケモンとかギャラドスとか嫌な感じのやつばっかりだな……」
「それはあれだ、旦那。旦那のイメージ」
実に嫌なイメージを持たれていたものだ。まあ俺がポケモンに<義人>と名づけるとしたら、筆頭候補はメタモンだが。謎な感じが正にそっくりだ。対抗馬はアンノーンといったところか。
「石井も石井だ。バンギラスなんかに俺の名前をつけるんじゃない」
「えー」
えーじゃねえよ。悪っぽさ満載じゃねえか。しかも一体一体微妙に名前を変えるな。何だよ<ミツーイ>とか<ミーツイー>って。他のに紛れこませたらわかんなくなるような名前じゃねえか。
「まあいいや、イッシー、第二ラウンドは旦那なしでいくぜ」
「いいよー、かかってきなさいー」
「行けっ、<アヤノA>っ!」
「まてや」
綾乃とは義人のお姉さんの名前である。
「お前今度は姉シリーズか?」
「ああそうだ」
画面に映っているのはカビゴンである。初期ポケモンでは最重量として名をはせた、素早さの遅い眠ってばかりのポケモンの。それ以外にはカイリキー(力が馬鹿強いポケモン)やルージェラ(悪魔のキッスを使う気持ち悪いポケモン)などがいた。
「……知られたら怒られるんじゃないか……?」
「うるさいぞ、旦那。ゲーム内くらい使役者になってもいいじゃないか!現実であれだけこき使われてるんだ。罰は当たらないだろう」
「……天罰は下らないだろうが、人災に襲われないことは祈ってやる」
もちろん義人のお姉さん(柔道有段者。かなりの重量級らしい)による人災である。
「スギ、がんばれー」
対戦相手の石井にも慰められていた。姉の話をする俺たちは、人の目にはよほど可哀想に映るようだ。……実際悲しいし。
後日、義人のお姉さんが帰省した時に発覚して、義人が心と体に癒しきれない傷痕を残されることとなるが、それは又別の話である。