第三十話 宿題
県立豊橋北高等学校―通称北高は、県内公立校では五指に入る進学校である。県立高校であるがゆえに、他県から成績のいい生徒を引っ張ってくるようなことはできない。それなのになぜ好成績を維持しているのか―答えは明瞭である。勉強量が多いのだ。他の一般高校に比べて宿題も多い。だから自分のような存在が出るのもやむを得ない、いや必然なのだ。悪いのは自分ではない。大学入試の合格率を上げるため生徒に無理難題を課す、今の教育制度がすべての諸悪の根源なのだ。
「だから宿題見せてくれ、旦那」
「何を言おうと宿題をやらんのはお前の責任だ。自分でやれ、馬鹿」
ゴールデンウィーク最終日。俺たちは午前中に小倉さんの地獄のメニューを泳がされた。その練習が終わった後、小倉さんは教師らしく尋ねてきた。
「お前ら、宿題終わっとるか?」
その言葉にわかりやすく反応を示したのは三名。浜口、片山(推薦入試組)と義人(一般入試組)である。視線を逸らして口笛吹くな。不自然にもほどがある。
「終わっとらん奴が何人かおるようだな……。部室解放しておくから、ここでやりたい奴はやってもいいぞ」
「先生!別にここでやらなくてもいいですよね!」
「浜口、片山、杉田はここでやれ」
「なぜに!?」
「四月の提出率が極端に悪いと佐藤先生(数学)から連絡があった」
「サッティー(佐藤先生のあだ名)め……」
「あと一人誰か残って勉強見てやれ。では今日はこれで解散」
残り四人で誰が教えるか相談したが、結局みんなで集まって、暇なときはトランプでもしておくということになった。さすがに四人では<エロ大魔王>はできないが。
一旦帰って一応自分の宿題を持ってくると、義人が理屈をこねて宿題を見せろとごねてきた。冒頭の会話がそれである。
「いいじゃねえか、減るもんじゃなしに」
「どこの不良だ、お前は」
「宿題が残ってしまった理由があるんです」
「話してみろ」
「ポケモン金にはまってしまって」
「いまさら!?」
「ニコ動にもはまってしまって」
「またかよ」
「<世界でいちば○NGな恋>にはまってしまって」
「……なんだそれは」
「エロゲー」
「お前は一人で全問とけ」
「そんな!?俺が何をしたというんだ!?」
「法律に触れる行為」
「それはともかく」
「ともかくじゃねえよ」
「宿題写させてくれ」
「より直接的になったな」
「で、写させてくれるのか?」
「わからんところはアドバイスしてやる」
「写させてはくれんのか」
「なんで俺が努力してやったものをお前に楽させてやらんといかんのだ」
「親友だろ」
「親友だからお前の力がつくようにしてるんじゃないか。何て友達思いなんだ、俺」
「……初代エロ大魔王が」
「貴様、それを言ったからにはただですむと思うなよ」
「何をするつもりだ?」
「お前の姉さんに「義人に聞いたんですけど体重百キロ超えてるって本当ですか?」と聞いてやる」
「やめてくれ!そんなことをしたら俺はミンチにされる!」
「なら謝れ」
「ごめんなさい」
「よろしい」
「それで写させてくれるのか?」
「それとこれとは話が別だ」
部室でわいわいと一時から六時まで勉強会をした結果、なんとか全員宿題を終えることができた。三人は詰め込みすぎて大変なことになっていたが、大丈夫だろう。
「義人、明日実力テストだな」
「……ポンペイウス、カエサル、クラッスス」
「がんばって平均以上取りたいよな」
「……オクタウィアヌス、アントニウス、レピドゥス」
……たぶん、大丈夫だろう。
友達がToHeart2を買ったそうです。受験が終わったからって調子に乗るな!まあ作者は国立の二次を受けてないので、もっと早く受験を終えているんですが。
京都のR大学に合格したので、同類がいたらメッセージください。