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第二十九話 トランプ

 寒中水泳という名の拷問も今日の分は終了し、俺たちは部室でトランプ(田村が持ってきた)をしていた。ちょっと前までは泳ぎ終わった時には死にかけていたというのに、人間というものは成長するのだなあとつくづく思う。これからの人生に役立つ成長かどうかは微妙だが。

松田「次、何する?」

 今までやっていたババ抜きにも飽きてきたところだし、変えるか。

片山「ポーカーは?」

浜口「何か賭けるのか?」

田村「……小倉さんがいつ帰ってくるかもわからないのに、そんなことをするのは無謀」

おれ「……確かに小倉さんに見つかったら、えらいことになりそうだな」

 小倉さんはあんな顔して優しいとこがある(最近ようやくわかってきた)ため、賭けごとを見つかっても停学などにはしないでくれると思う。……ただ、翌日の練習は死人が出ることになりかねない。そういう意味での<えらいこと>だ。

杉田「銀行は?」

松田「ルール知らん」

浜口「七並べは?」

おれ「スペースが狭すぎるな」

田村「……神経衰弱」

杉田「それもスペースがないな」

石井「なら大富豪はー?」

松田「いいな」

片山「いいね、でも人数多くない?」

 水泳部一年男子は総勢七人。確かに大富豪をやるには多いかもしれない。

石井「階級も増やせば、おもしろくっていいんじゃないー?」

おれ「大富豪の上ってことか?」

杉田「あと大貧民の下だな」

浜口「そうだな、面白そうだ」

 全員意義はない様子だった。

松田「なら階級名はどうする?」

片山「まず大富豪の上だね」

杉田「<神>だな」

 種族をも超越!?

石井「いいねー」

おれ「いいのか!?平民→富豪→大富豪ときて、次が神だぞ!?明らかに言いすぎだろ!?」

浜口「いいな」

片山「いいよ」

松田「異議なし」

おれ「みんな目を覚ませ!奴らのペースに巻き込まれたら駄目だ!」

 階級名<神>に反論していると、田村に背中をたたかれた。

田村「…………」

おれ「た、田村……。お前はわかってくれるよな……」

田村「……俺も賛成」

おれ「うわあああああああ」

 最後の砦も崩壊した。よく考えたら田村も北高生だった。

杉田「旦那、トップは<神>でいいな?」

おれ「……好きにしてください……」

 なんかもう疲れたよ……パ○ラッシュ……。



 廃人みたくなった俺を無視して会議は続いた。

杉田「大貧民の下はどうする?」

浜口「一番上が<神>だからな……」

片山「インパクトが欲しいよね」

 ……そんなものいらないから妥当なところで落ち着いてくれ……。

石井「ひとつ思いついたよー」

杉田「よさそうか?」

石井「結構ねー」

松田「おいおい期待持たせるなよ」

田村「……それでその階級名は?」

石井「階級名はー」

 ……階級名は……?

石井「……<エロ大魔王>だよー」

おれ「待てえええぇぇぇい!!!」

 突っ込みを入れるために、俺復活。

おれ「<エロ大魔王>って何だよ!?<神>の反対にしたいなら<魔王>だけでいいだろ!?<エロ>の部分の意味がまったくわからん!平民→貧民→大貧民ときて最後だけ<エロ大魔王>って!?

ビリになった人可哀想にもほどがあるだろ!トランプで<エロ大魔王>呼ばわりされる人の身にもなってやろうよ!?」

杉田「お疲れ、旦那」

石井「それでいいー?」

 無視ですか。俺の突っ込みは。

松田「オッケー」

浜口「異議なし」

片山「おもしろいね」

田村「……よし」

石井「というわけだけど、三井はいいー?」

おれ「……好きにしてください……」

 民主主義なんて嫌いだ。

 



 その後の会議で、<神>は<エロ大魔王>と三枚トランプを交換すること、ローカルルール(八切りや階段革命など)を使用すること、<エロ大魔王>がトランプを配ること、水泳部内ではこのゲームを<大富豪>ではなく<エロ大魔王>と呼ぶことなどを決めた。……<エロ大魔王>、権力低っ!

杉田「じゃあ始めるか」

 ちくしょう、この鬱憤を<神>になって晴らしてやる。





松田「<エロ大魔王>はトランプの切り方がエロいなあ」

浜口「<エロ大魔王>は配り方もエロいなあ」

おれ「……ちくしょう……」

 部室には、見事<初代エロ大魔王>を襲名した俺の姿があった。<エロ大魔王>は何をするにもエロいと言われなければならないらしい。……いじめだ。

おれ「次は絶対のし上がって<神>になってやる……!」

杉田「はやく配りたまえ、<エロ大魔王>」

 義人に顎でこき使われることになるとは……。恐ろしいゲームだ。




 ちなみに<エロ大魔王>はこの後北高水泳部の恒例行事となった。

第30部分にしてようやく60分……。一話二分の短い小説ですが、まだ続けると思うので読んでやってください。

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