第二十八話 姉弟
家でゴロゴロとしていたら、ゴールデンウィークで帰宅中の鬼神(本名、三井弘美。身長百五十センチ。この前の空手の大会で骨折しながら三位。その時はどこのマンガの住人だと本気で恐怖した。利き手の握力は五十五キロオーバー。ちなみに俺は四十キロ弱)に言われた。
「直樹(俺の名前)、あんた変になったね」
……盛大に椅子から転げ落ちた。
「……なんだって?」
まさか実の姉に変と言われる日がこようとは。
「いや、前から変ではあったんだけどさ」
以前から!?
「よけい変になったっていうか」
だいたいあんたにだけは言われたくない。
「学校で変な人とでもつるんでるんじゃないの」
心当たりが多すぎる。
「姉としては弟が心配なわけよ」
俺もあなたの将来が心配だ。二十も間近に迫ってきてるのに彼氏作ろうとしないし。
「それはあんたもでしょうが」
心の中を見るのはやめてくれ。確かに俺も彼女なんてものはいないが。
「やっぱりか」
……だからやめてくれ。
「どこが変になったっていうんだ?」
「テレビでバラエティ番組見ても冷めた目で見てるし」
もっとおもしろいのがすぐ近くにいるからな。作られた笑いには限界があるし。
「ドラマとかで笑うところなのになぜか涙ぐんでるし」
周りの人に苦労させられている人を見ると感情移入してしまって。
「びっくり人間とか見ても驚かないし」
リアルびっくり人間ってのは、内面がびっくりなんだとこの一ヶ月で学んだからな。
「変になったと自分でも思わない?」
……反論できない。
「……てことを言われたんだよ」
AKR(姉に恐怖する連合)会員、義人に携帯でこの話を報告した。
「旦那、きっとそれは旦那を心配してんだよ」
「そうだな、パシられる回数も大学行く前より減ってるし、姉ちゃんも成長してるんだな」
「俺のところも昨日珍しく<アニメイト>に自分で行ったんだよ。前は俺に行かせてたのに」
「大学行って心が広くなったんだな、きっと」
「そうだといいな」
「……悪い、姉ちゃんから呼び出しくらった。また何かやらされるらしい」
「俺もこれから<のだめカンタービレ>買いに行かされる」
「……お互いまだ大変だな」
「お互いにな」
「最後にいつもの言っとくか」
「そうだな、せーの」
「「いつかきっと見返してやる」」
情けない二人の声が重なった。
「……いつになるんだろうな……」
「……俺そんな日来ないんじゃないかと思う……」
「……そう思ったら負けだ……」
いつまでたっても姉に逆らえない、駄目駄目な二人だった。