第二十七話 寒泳
「なあ、今日はまだゴールデンウィーク中だよな、旦那」
「そうだな」
「ゴールデンウィークってのは休みだよな」
「そうだな」
「ならなんで俺たちは学校に向かってるんだ?」
「水泳部の活動があるからだろ」
「なんで休みなのに部活動があるんだ?」
「小倉さんの趣味だろ」
「ならなんで俺たちは水着を持ってるんだ?」
「泳ぐからだろ」
「まだ五月も始まったばかりだよな?」
「そうだな」
「ならなんで泳ぐんだ?」
「水泳部だからだろ」
「まだ水温二十度にも達してないよな?」
「そうだな」
「ならなんで二キロ以上も泳ぐんだ?」
「小倉さんの趣味だろ」
「小倉さんの趣味ってなんだよ」
「生徒いじめ……いや生徒を鍛えて立派にすることだろ」
「今いじめって言ったよな?旦那もそう思うよな?」
「生徒を鍛え、立派にすることが趣味なんて、なんて立派なんだー(棒読み)」
「無視!?いつもながらひでえ!」
「そんなことよりもう学校だ」
「つっこもうよ!「いつもながらって何だよ」みたくつっこもうよ!」
「今日は小倉さんのメニューらしいし大変そうだな」
「人の話を聞けーっ!」
「はいはい、いつもながらって何だよ。今日もがんばって泳ぐかー」
「何その<もうお前には付き合いきれない>みたいな態度!?」
「おおさすが義人。俺の考えることがわかるなんて。さすがに付き合い長いだけあるな」
「ほめられたのに全く嬉しくねえ!……いやむしろ、ほめられてないのか!?」
「お願いしまーす」
「俺を無視して部室に入ってる!?新手のいじめ!?」
今日も部活が始まる。
十五分後には部員ほとんどがプールサイドに集合していた。いじけていた義人もそろっている。現実逃避もほどほどにしてほしいものだ。
部室まで車(高級車アウディ)で来た小倉さんが、移動式の黒板にメニューを書き込んでいた。……不気味だ。
「旦那、ちらちらと<全力>とか<できないとやり直し>とかいう文字が見えるんだが」
「……気にするな、きっと幻覚だ」
「旦那まで現実逃避しようとするなよ」
「よしできた」
そう言うと、小倉さんは全員にメニューが見えるようにした。とりわけ目を引いたメニューは<全力で泳げ。ベスト+三秒以内で泳げなければやり直し>(自由形五十メートル)というものだ。
「……まじですか……」
浜口が悲壮感あふれる表情で尋ねていた。このメニューではベストが速いほど辛いだろうことは想像にかたくない。俺のベストは三十一秒、浜口は二十七秒弱だから四秒の開きがある。それだけに浜口はすがるようだ。
「まじだ」
「…………」
ドンマイ、浜ちゃん。
人間寒くなりすぎると麻痺して何も感じなくなる。その後また寒くなるが。そんな環境でも俺たちはなんとかメニューをこなした。そして最後のメニューをやりきった後、浜口を筆頭にみんな死にかかっていた。
「……やっと終わった……」
「……死ぬ……」
「……感覚が……」
「お疲れ、明日は九時半から。マッサージしとけよ」
そう言い残して小倉さんは車に乗って帰っていった。
「……明日もか……」
「……旦那、小倉さんの趣味って何かな……」
「……生徒いじめかな……」
「……俺もそう思う……」
二人目の感想を頂きました。うれしくてたまりません。こんな短い小説ですが、楽しんでくれる人がいて本当によかったです。5000アクセスも突破して絶好調な<ええじゃないか>はまだ続きます。感想、要望、批評などがんがん送ってください。