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第二十三話 開始

 ついにこの日がやってきた。

 できることならもっと後になってからのほうがよかった。

 せめて快晴なら抵抗も少しは軽減されるのに。(今日の天気は晴れときどき曇り)

 しかし俺たちには絶対に避けては通れない日。

 ……プール開きである。




「何をそんな悲痛な顔をしとるんだ」

 いいですよね、先生は水の中に入らずに、外から声出してるだけでいいんですから。

「本日の水温は十七度だ」

 いっそ殺してください。

「この前言ったようにたったの二キロでいい。簡単だろ」

 問題は距離じゃなくて温度と時間なんですけど。

「メニューは特にない。とにかく二キロ泳いで来い」

 ちくしょう、覚えてろよと心の中で毒づく。決して声には出さない。怖いから。

「では始めろ」

 ……逃げ出したい。



「石井、お前先入って」

「えー、いやだよー。僕は見た目通り寒さに弱いんだからー」

 石井は身長175センチだが、ひどくやせている。風が吹けば、飛ばされそうなほどだ。

「なら松ちゃん、GO!」

「頼む、勘弁してくれ」

「浜ちゃん、いつも泳いでるんだろ。なら一番乗りで飛びこんでくれ」

「心臓止まるわ!だいたい俺はいつも温水プールだから、十七度なんてありえん」

「よし、マサ(片山のあだ名。名前がまさとしなので、マサ)、君に決めた!」

「ポケモンじゃないんだから……もちろんまだ入らんよ」

 と一年でガヤガヤとやっていると、誰かに背中をつつかれた。

「……ん?どうした?」

 田村だった。

「……先輩達もう泳いどる」

 確かに先輩たちは、俺たち一年を無視して泳ぎ始めていた。

「先輩たちだけ先に泳ぎ終えるつもりか……」

「よし、こうなったらじゃんけんで入る順番決めるぞ!」

「わかった。最初はグー、」

 確率は七分の一(男子のみ。一年女子二人は本日欠席)だ。まあ一番にはならないだろう。




「……じゃんけんなんか嫌いだ」

 見事に一番に入ることとなった。

「みっちゃん、逝け!」

「漢字違う!」

 実際逝ってしまいそうな水温だけに、変に現実味がある。

「屍は拾ってくれよ……」

 水死体(死因は心臓麻痺)が浮かぶかもしれないから。

「早く入れ」

 ……みんなが冷たい。

「ちくしょー!」

 叫びながら入った。……足から少しずつ。飛び込みは危険なのでやってはいけない。

「……冷てえ……」

 心も体も。

「よし、みんな続けー!」

「「「おぉー!!!」」」

 みんな入って自分のペースで泳ぎ始めた。



 開始から五分後。石井脱落。

「先生!石井が真っ青でやばいくらい震えています!」

「許してやる。上がれ」

「………………」

「大丈夫か石井ー!死ぬなー!」

「なんだか眠くなってきたよ……」

「石井ーっ!」

 幸い、命とか体とかに異常はなかった。……あったら問題だが。



 開始から十分後。松田、片山相次いで脱落。

「……もう無理です……(寒さが)」

「……僕ももう駄目です……(もちろん寒さが)」

「上がってよし」




 開始から十五分後。田村脱落。

「……限界……(当然寒さが)」

「とっととシャワー浴びてこい」

「………………」




 開始から二十五分後。浜口完泳。

「……終わった……」

「よくやった」

「……死ぬ……」



 開始から三十五分後。俺、義人完泳。

「「…………」」(二人とも凍えて言葉が出せない)

「お疲れ」

「「…………」」(震えながらシャワーを浴びに行く)



 シャワーを浴びて、着替え終わった後。

「……人間寒さを耐えてると感覚なくなるな……」

「……俺泳いでる途中の意識ないわ……」

「……立ち止まったら余計寒くなるから泳ぎ続けてたほうがいいな……」

「……何メートル泳いでたかわからなくならん……?」

「……あー、それわかるわ……」

「……後途中で頭の中に変な音楽流れてきたな……」

「……生きてるって素晴らしいな……」

「……ごもっともだ……」

 一緒に臨死体験をしたことで、部員内での団結力が高まった。




「……これからこれが毎日あるのか……」

「……それを言うなよ……」

 




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