第二十話 大戦
体育のための着替えは、男子は教室、女子は更衣室で行うことになっている。だから体育の授業後は、一時的に教室が男子だけになる。
この日の体育の授業後、俺はソフトの後片付けをさせられたので、教室に戻るのが遅くなってしまった。鼻歌(<モンゴル800>の<小さな恋の歌>)まじりに教室に戻ると、何やら中が騒がしかった。扉を開けると、大声で議論が行われていた。
「女子のパーツで一番重要なのは胸だ!!」
「何を言っているんだ!!尻だろう!!」
……本格的に転校を考えようかな……。
そこそこ仲のいい大林(鉄道、車マニア。演歌でNHKのど自慢に出場経験あり。特技は覆面パトカーを見破ること……らしい)に事情を聞いてみたところ、清水ら一部の男子が女子の体でどこを重要視するかという話をしていたのが白熱してしまい、クラス全体に飛び火したそうだ。……しょうもないことにここまで熱中できるのはある意味称賛に値する。もっと別のところにその力を注いでほしいが。
「議長、我ら<ムネン老師軍>に発言の機会を!」
なんだそのどこかから怒られそうなネーミングは。
「認めます、どうぞ」
「ムネン老師様、お願いします」
「よろしい」
……ムネン老師って義人かよ!何やってんだあいつは……。
「我らは女性とは生命を育む神聖な存在と考えておる。女性はその胸で幼子を生き延びさせ、
成長を支え続ける……まさに胸こそが我ら人類、いや哺乳類にとどまらない数多くの生命を育てる要と言っても過言ではないだろう……このことからも我らが胸に興味を持つことは必然である。よって女性の最高のパーツ、それは胸である!!!」
わーっとムネン老師軍から歓声が上がった。盛り上がってるところ悪いが、早く制服に着替えさせてくれ。次は昼休みとはいえ、汗かいた体操服のままではいたくない。
「<シリ仙人>勢にも発言権を!議長!」
「どうぞ」
「シリ仙人様、あなたにかかっています」
「わかっていますよー」
今度は石井か。大活躍だな、水泳部は。
「生物というものはー、お尻からうまれるものだよねー。それだけでなくてー、生き物は陥入が進むことでー、生物の形を形成していくんだけどー、その陥入場所というのがー、お尻なんだよねー。つまりー、人間も生物である以上ー、最初に形作られてー、生命を産み落とすー、お尻に興味を持つことはー、至極当然なんだよねー。だからー、女性にはー、お尻に一番関心が向くんじゃないかなー」
うおーっとシリ仙人勢から感動の声が上がった。周りのクラスに迷惑だな、これは。
「そろそろ時間ですので、議決を取りたいと思います」
議長がそう言うと、クラス内は静まり返った。
「議決は当初の予定通り、<ムッツリ師範>に一任します、よろしいですね?」
異議なし、と声を揃えてみんなが言った。
「では<ムッツリ師範>こと三井、議決をお願いします」
……俺かよ!!!こんな二つ名がつくことになろうとは……悲しくて死にそうだ。
「お願いします」
なぜに。
「早くしろ……それとも不能か?」
いらっときて、つい叫んでしまった。
「俺は太もも派だ!!」
「……………」
クラス内が静まり返った。
結局議論はうやむやのうちに終わった。……恥ずかしさで死にそうな俺を残して。
「三井、ドンマイ」
「お前は頑張ったよ」
「気にするな」
「……頼むからもう忘れさせてくれ……」
……引っ越したい……。
ついに二十話到達です。感想とか意見、要望などお待ちしています。