第十九話 親睦
この日の作業はプールの内壁に塩素を塗ることだった。と言っても個体の塩素をそのまま塗るのではなく、バケツに水を張り、その中に塩素を溶かしてブラシで塗る。塩素はプール全体に塗るので、壁と底の隅々まで塗らなくてはならないので注意が必要だ。
この作業は一度だけでなく乾いたらもう一度やる。これが終われば後はプールに水を張るだけなので、気合いを入れてやるようにとの部長のありがたい訓示で説明は終えられた。例によってだべりながら作業を始める。
松田「水泳部の親交を深めるのにはどうすればいいと思う?」
田村「なんだ突然。どうかしたのか?」
松田「いや、水泳部の仲を深めるにはどうすればいいかと思って」
片山「カラオケに行くとか?」
浜口「そういうことでいいのか?」
松田「そうだな、カラオケはいいかもしれんな」
杉田「でも先輩がゴールデンウィークに新入生歓迎会するって言ってたぞ」
おれ「そのときにカラオケもするかな?」
石井「そうみたいだよー」
松田「そうか……、ほかには何かあるか?」
浜口「昔話をするとか」
田村「昔話?」
浜口「昔話と言うと語弊があるか……。要は俺たちの小、中学校時代を話そうってことだよ」
片山「過去を話すってことだね」
石井「それは好都合だねー」
田村「好都合……?」
おれ「ごめんなさいどうか勘弁してくださいお願いしますそれだけはっ!」
田村「……どうしたんだ三井、その土下座するんじゃないかってほどの勢いは……?」
松田「悲壮感にあふれまくりだな……」
杉田「旦那の過去はトラウマの宝庫だからな。ただでさえネガティブだし」
浜口「やめにするから元気出せよ」
杉田「また嫌な思い出でも思い出したんだろ、大丈夫か?」
おれ「……ありがとう……」
石井「残念だねー」
松田「別の意見はあるか?」
片山「うーん……、あだ名をつけるっていうのはどうだろう?」
田村「いいんじゃないか?」
おれ「……」(あだ名に関するトラウマを思い出してる)
浜口「よし、反対意見はないな。まず俺のは何かあるか?」
杉田「アニマル」
浜口「却下」
松田「まさる」
浜口「却下」
石井「文句つけすぎだよー」
浜口「今の二つは問題あるだろ!」
片山「もう昔みたいに浜ちゃんでいいんじゃない?」
浜口「……何かほかには?」
石井「<モーレイ>っていうのはー?」
浜口「なんかかっこいいな、それ。どういう意味だ?」
石井「ある魚の英名だよー」
浜口「なんて魚だ?」
石井「ウツボ(硬骨魚。口、歯が強大。性質は凶暴で激しく噛みついてくる)だよー」
浜口「……浜ちゃんでいいです……」
その後も一人一人あだ名をみんなで考えていった。最後の一人、俺。
田村「<保護者>はどうだ?」
浜口「<ツッコミ>も捨てがたい」
片山「<ストッパー>でもいいんじゃない?」
おれ「……意味は……?」
浜口「もちろん<スギ>(義人のあだ名)と<イッシー>(石井のあだ名)に対する位置付けだ」
おれ「……何で俺のあだ名は役割なんだよ……」
結局俺が泣いて頼んだので<みっちゃん>という平凡なものに落ち着いた。
……小学校の時みたくならなくてよかった……。