第十六話 話
「明日からプール掃除だ」
強面の水泳部顧問、小倉先生はそう言うと、続けて掃除方法、分担、終了まで一週間ほどかかることなどを説明して体育教官室へと帰って行った。相も変わらずいるだけで強烈なプレッシャーをかける人だ。
その帰宅途中。
「なあ旦那、俺たちは結局明日何をすればいいんだ?」
「今の説明の間何聞いてたんだよ……?」
「いや、隣のテニスコートで名勝負が繰り広げられてたから」
プールの隣にはテニスコートがある。そのため筋トレ中にもボールが入ってきて迷惑をするときがある。そのことを先輩に言ったら「別にいーじゃん。入ってきたボールはもらっちゃうし」という返答が返ってきた。それは体のいい泥棒ではないのだろうか。
「それにしても小倉さんの前だぞ?怖くないのかよ?」
ちなみに俺はよそ見などできないと断言できる。ビビりと呼びたければ呼ぶがいい。俺は自分の身が第一だ。
「別に?」
その度胸と図々しさを少し分けてほしいものだ。かつての担任に「三井と杉田は二人を足して二で割ればちょうど良くなるのに」と言われたが、そんなことをしたら、こいつに吸収されて俺の自我は掻き消え、義人が二人になるのではないだろうか。
「……お前は大物だよ……」
中学の時同じような件で怒られたのを全く教訓にしていないのか。
「……で明日何するんだ?筋トレ?」
……そもそも話の頭から聞いていなかったようだ。俺の親友は大物ではなくただの馬鹿だった。
最終的に一から説明すること五分。その後の会話。
「うわー、面倒くせー。さぼるかなー」
「……首根っこをつかんででも連れて行ってやるから覚悟しとけ……」
「……すいません。やりますから急所は勘弁してください……」
うむ。説得がスムーズにすんでよかった。