第十四話 姉
昼休み、俺、義人、石井の三人で昼食をとっていると、石井がこんなことを聞いてきた。
「そういえばさー、三井と杉田ってー、兄弟姉妹っているー?」
俺と義人は、二人同時に昼食を食べる動きを止めた。……いや、動けなくなった。
「……アネナンテイナイヨナ、スギタクン?」
「……ソウダヨ。アネナンテイキモノハ、イナイヨ、ミツイクン?」
しばらくしてから、俺たちは少しばかり現実逃避をしてみた。
「ふーん、二人ともお姉さんがいるんだー」
……残念ながら、石井にはばれてしまったらしい。
「……ナニヲイッテイルンダ、イナイヨ?」
義人はまだ抵抗を続けているようだ。
「いるんでしょー?」
「……イナイヨ?」
「悪あがきはやめなよー」
「……ナンノコトカナ?」
「いいなー、お姉さん。姉萌えでー」
「なんだと!?お前、実際に姉がいる気持ちがわかるか!?日々怯え、パシリに使われる気持ちが理解できるとでもいうのか!?」
「やめろ義人!お前の気持ちはわかるが、石井に罪はない!」
「……わかったよ……」
そう言うと義人は疲れ切ったように椅子に腰かけた。
「……姉萌えなんていうのは、姉がいない奴らの幻想にすぎないんだよ……」
屍のようになりながら、義人は語った。
「……幼少のころから姉の影に怯え、力づくで言うことを聞かされる……。……これが、現実なんだよ……」
「力づくってー?」
何も知らない石井が尋ねた。
「……義人の姉さんは、柔道の有段者なんだよ……」
むせび泣く義人の代わりに、俺が答えた。
「でもそれはー、一例にすぎないよねー。三井のほうはどうなのー?」
「……うちのは空手の黒帯を持ってるんだよ……」
護身術の技を試させろと言われ、三日文字を書けなくさせられた記憶が頭をよぎった。
「でもー、性格がよければー」
「……弟に少女マンガ(<赤ずきんチャチャ>と<おこじょさん>。両方とも全巻)を買いに行かせるのを、優しいと呼べるのか……?」
「……」
「だが今、俺たちの姉は大学生活のため下宿している……。ようやく俺たちにも、平和が訪れたんだよ……」
だから過去のことを思い出して泣くのはよそう、義人。輝かしい未来を喜ぶんだ……!
「でもゴールデンウィークにはー、帰ってくるんじゃないのー?」
「……うわああああああ」
「大丈夫か、義人!気をしっかり持つんだ!」