第十一話 自己紹介〜音楽編〜
我が北高では芸術関係の教科を音楽、美術、書道の三つの中から選ぶことになっている。入学の前に希望を聞かれ、その上でクラス分けをしたので、俺たちのクラスは全員が音楽選択となっている。その音楽の初回の授業で俺たちはある宿題を出された。それが<自己紹介を曲に乗せて歌うから作詞をしてこい>というものである。
俺は一週間じっくり考えて<大きな古時計>に合わせて自己紹介をすることに決め、作詞も平凡なものではあるが作り上げた。そこそこいいと自画自賛していたのだが、それはあまりに甘い考えでしかなかった。
そして発表当日。
「では、名簿の一番から始めて」
という音楽教師(女性教師。お笑いコンビ<ずん>の飯尾似)の木瀬先生の言葉から始まったこの自己紹介で、またしてもこの学校の生徒の異常さを知ることとなるのだった。
〜例1〜
「では始めて」
「はい」
……なんかギターとハーモニカ持ってるんですけど……。
「始めます」
……ゆずの曲に合わせて凄い速いテンポで弾き語りしてやがる……。
……なんだこのハイスペックさは……。
〜例2〜
「では次」
「わかりました」
そう言うとピアノの椅子に座った。さあ何の曲だ?
「じゃあ弾きます」
そう言って弾き始めた。
……ピアノも歌もうまいのに……。
……なぜ自己紹介の曲に<ラジオ体操第二>を選ぶんだ……?
〜例3〜
「次の人」
「はい!」
義人だ。こいつは何をするつもりだ……?
「やります!」
そう言ってギターを弾き、歌い始めた。
……<ハレ晴レユカイ>の曲にのせて……。
まあ、予想の範囲内だったかな……。
全く当たってもうれしくない予想だったが……。
その後も凄い手の動きをしながらピアノを弾き語る(曲はショパンの<夜想曲など)女子やアニソン(<勇気100%>や<バリバリ最強No.1>など)を歌う人たちがいた。選曲おかしいだろ。いや、ある意味そういう紹介にもなるからいいのか……?
ちなみに俺の歌は先生にそこそこの評価を受けたらしい。理由は「この中で数少ないまともな自己紹介になっていたから」だそうである。
……この学校にも普通であることを評価してくれる教師がいるんだな……。