第九十九話 東海
「明日はついに東海大会か……」
「部長、お疲れ様でした」
「まだ終わってないから。明日は今までに培ってきたもの、すべてを出しつくすつもりだ」
「頑張ってください」
東海大会はその名の通り、東海の選手が集まって競う大会である。愛知県大会、静岡県大会、三重県大会、岐阜県大会の上位八名(リレーは八チーム三十二名)のみの限られた選手だけが出場できる。そのため、この大会を目指して必死に努力する選手は後を絶たない。涙をのむ選手がほとんどだ。
「……なのにどうしてだよ……」
最初の種目、メドレーリレーを泳ぐ三重県の高校を見て、俺は言葉を失った。
「……こんな遅いタイムで……東海大会に出てるんじゃねえよ……」
初めの組に出たリレーチームのほとんどは、北高の遅い選手四人で勝負したとしても勝てる、その程度のレベルだった。三重県や岐阜県は水泳のレベルが低い、未開の地なのかもしれない。しかしそれならば、しかるべき措置を取るべきだろう。愛知県では県大会にすら出場不可能なタイムの選手が東海大会に出ているなど、愛知県で死に物狂いで練習してきた選手を冒涜している。県によって、東海大会の出場枠を変えるなど、方法はいくらでもあるのに……。
「まあまあ旦那、悔しがるなよ」
「……呆れてものも言えねえよ……」
あんなタイムでよくもまあ泳げたものだ。まあ俺が相手の立場でも間違いなく泳ぐが。悪いのは選手ではなくて、この馬鹿げた制度をそのままにしているお偉いさん方だしな。
「……よし、気を取り直して応援だ」
「第三組目だから決勝は難しいか……静岡県は強いな。愛知の方が上だが」
「そんなところでお国自慢してどうする。レベルが高いから県では北高は入賞してないんだぞ」
「そうだよな……そうだ、旦那!北高を三重県に移動させるのはどうだ!?上位進出間違いなしだ!」
「わーそれはいい考えだねー」(棒読み)
「真面目に聞けよ!?」
「聞く価値がないと判断しました」
「ひどっ!!丁寧語はやめようぜ!?」
その後の東海大会、北高はメドレーリレー十二位、浜ちゃんの自由形が二種目、十位(決勝進出)と十一位で終わった。全国大会は一定のタイムを切らないといけないため、北高での出場者はゼロ。しかし部長の晴々しい笑顔を見ると、悔いがないことがよくわかった。
お疲れ様でした、部長。北高水泳部は俺たちが継いでいくので、安心して見守ってやってください。