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愛しの白雪姫  作者: 小山 洸
白い出戻り姫とバイクに跨ったKYな王子様
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私の日常


「おはようございます、妖精先生」


笑顔でそう挨拶をしてくれる我がクリニックで働く若いベテラン(?)の万千子まちこちゃん。どこから突っ込んでいいかわからない。現在、四月二日午後七時を少し回ったところでございます。クリニックは午後六時からなので遅刻といえば遅刻だが、税務署や保険支払基金とのやり取り、月初なのでいろいろな支払い、今日は昼には仕事を開始していたので正確には遅刻ではないぞ。


「・・・・お疲れさまです。アドミン関係終わりましたっと。今日も頑張って、診断させていただきます、っと。患者さんとカルテをこちらに送ってもらえます。・・・あと、三十路を超えた独身女を捕まえて“妖精先生”は恥ずかしすぎるのでやめてください。」


「えぇ~、そんなどっかの指輪のお話とか小人の大冒険に出てくる人みたいな容姿しているくせにぃ」


・・・ぐうの音も言えない、そして私に古傷にどばっっと塩をふるこのコメント。はぁ…。そうなのだ、私は普通の容姿ではない。万千子ちゃんが言うように、どっかの指輪の話に出てきそうな容姿をしている・・・真っ白なのだ。しかし耳は尖がってない!間違いなく人間だ。ついでに、純粋な日本人、カテゴリーはヤマトナデシコだ!!


私の“特殊な容姿”には理由がある。

私は、先天性白皮症、つまりはアルビノである。別に病気ではない。


人よりも紫外線に弱く、視力も弱い。今でこそ自分の肌に合う強力な日焼け止めとローションを塗りまくり、視力もコンタクトで矯正しているから外出も普通にしているが昔はそうもいかなかった。繊細だった若いころはだいぶ悩んだし、恥ずかしながら我が儘を言って田舎の祖父母のもとに引き籠った。いつの間にか、あの頃の自分が何だったのかと思うほど太太しい女になったのは否めないけど。

そういう時期があったから、いまだに容姿の事はちょっとした鬼門である。


「万千子ちゃん、いつも患者さんたちの前で妖精先生なんていうから、この冬、予防接種用の特別診療の時に、“いい年した医者が原宿系気取って”ってとか患者さんの親に嫌み言われ手結構凹んだんだから。」


「へぇ?、そんな嫌みを言う患者がここにくるんですか?だったら、他の病院で予防接種ウケればいいのに。」


万千子ちゃんの顔が、恐ろしく凶悪にゆがむ。…コワっ。


私が子供のころは学校で予防接種を受けることができたが、予防接種法が改正されてからは任意での摂取になったのでこの地域の学校では予防接種をしなくなった。そのかわりに保健所の代行という形で、うちの診療所で毎年秋口に十日間ほど、特別に午後から診療所を開けて予防接種投与期間を設けている。地域行政の方から配られている予防接種を受けることのできる場所の一つにあげられていて、比較的働くお・・・・・・さん達が子供たちを連れてきやすい時間に予防接種時間を設けているのでクリニックは非常に忙しくなる。かかったことのない病院でも、行政から配布されている病院のリストを片手に、仕事が休めないので子供には何が何でも病気にかかってほしくないという強い意志を持って子供を担ぎながら(文字通り)突進してくる保護者の多くは・・・だいたい私のこの容姿にギョッとする。運が悪かったりすると、予防接種の前から、私の容姿にビビった子供に泣かれたりして、…まぁ地味に凹むようなことが発生しやすい期間なのだが、時々パンチの効いたコメントを吐かれてノックアウトしそうになることもある。


「兎も角、上の名前だと、院長と紛らわしいのはわかるから、せめて敬先生にして。妖精先生は…とーてーも恥ずかしいから。そんな風に言われて喜ぶ年齢でもないしさ。」


「りょ~かいで~す。」


万千子ちゃんは口調はユルいしあれだけど、非常に思慮深い看護師さんだ。ああいう風に気のない返事をするときは反省している時。きっとここから先は、ちゃんとしてくれるはず。その証拠に私の好きな紅茶の茶葉を棚から出しているし。お詫びのしるしに彼女特製のチャイを入れてくれるんだろう。優しいからなぁ、彼女。


「さ、今晩もよろしくお願いいたします。さぁ!診察頑張るぞ~」

気合を入れて白衣を纏う。


「そうですね、今日は出足はそんなに患者さん多くなかったんですよ。でも、桜の満開宣言が出たところで、しかも降水確率ゼロの金曜日。夜中の急患が多そうな雲行きだそうですよぉ~。予報士のお母さんによると」


お母さんとは、私の母。このクリニックの看護師長的役についているんだけど、一番高齢で、お母さん気質というか、自分の事すぐ「お母さん」と呼ぶので、あだ名も“お母さん”になってしまった。やだぁぁ、お母さんの予報当たるんだよね。


「・・・うぅ・・・頑張ります」

今日も長い夜になりそうだ・・・




両親の運営するこのクリニックは今でこそ午後六時から十時まで、午後十時以降電話で要事前連絡という特殊な診療時間、診療科目も広範囲の救急外来特化型クリニックなんてことになっているが、祖父が開業した普通の町医者だった。しかし、昔から急患であればほぼ年中無休でどんな時間でも受け入れていた。


そんなある休診日に犬の散歩をしていた祖父が、たまたまコンビニの前で貧血を起こしている人見つけて、家に連れ帰って無理やり診察してみたら肺炎手前のインフルエンザ。怒りながら患者の話を聞いてみると、仕事が休めずまた病院行ける時間はほとんど救急病院しか開いてない時間で、ここまで拗らせたと聞いたもんだから、『スーパーだって二十四時間開いていて、正月三箇日だってみんな働いているご時世。病院も今まで開けていなかった時間に門戸を開いて診察すべきだ』と祖父鼻息荒く宣言し、島医者として離島医療に携わったことのある父は昔から現在医療の形に疑問を持っていたので、祖父の意見に激しく同意、意気投合、普通の町医者からクリニックにグレードアップし、今に至るのである。


私が中学に上がるころには、家族のほとんどは実家から自転車で十分の診療所に泊まり込みという形をとっていた。家にほとんどいない家族だったけど、他の一般家庭よりも私は大切にされていた子供だったと思う。朝食もお弁当も夕飯も母はいつも仕事の合間に作ってくれていたし、誕生日だ、結婚記念日だ、バレンタインデーだ、お盆だ、正月だというときは時間を作ってみんなでお祝いした。風邪を引けば、スケジュールをやりくりして誰かしら家に一緒にいてくれた。慌しい中にも家族の暖かさと幸せがあった。だからか、人間関係や見た目の事で苦しんだ時も、忙しい家族に心配をかけれないと遠慮をしたがために悪化をさせて、かえって家族を悲しませることになったんだけど…。


ともかく夜型診療所の我が家クリニックは、夜しか時間が作れない患者さんや子供が急病の時の駆け込み診療所となっていた。しかし、夜間・深夜の救急外来は人件費などがかさみ、非常に儲からない仕事。でも、その役割を担う人がいなければ、落とささなんくても良い命さえ失われてしまうような仕事。経営は厳しいし、体力的にも厳しい。元々町医者で、地域の学校の健康診断の問診や予防接種などもしていたので、いまも行政からの医療アドバイスや依頼(予防接種の事とかね)はいただいているし、父なんてクリニックの運営の為に総合病院にアルバイトしに出てたり、母清掃業者顔負けの掃除のスキルで診療所を毎日ピカピカにしているし(そのために看護師なのに掃除の資格取ったしね)、私だって専業農家を営む祖父母から自営業の運営、計簿の付け方などを教わっていたので、職種のだいぶ違う経営だけどあの経験と知恵を使って、父があまり得意ではない部分の運営やアドミン、いろいろ金策頑張ってますよ。ムフフ。ザ・家族経営?


フリーの時間ゼロ。


ついでに医者だけど安月給。


医療に携わっていると“別れ”と直面することが多い。


それでも、目の前の人が最後に『満足』してお別れができるように、そしてその家族が一分でも長く充実した家族の時間を過ごせる手助けができて、そして心安らかにお別れが出来たなら、それが私のボーナス。


出会いなんてないわよ~、枯れているわよ~。いろいろ。


でも、この容姿で生まれてきて、まともに付き合ってくれる知人・友人はごく少数、ついでに言えばすっかり俗にいう“魔女”ですよ。


飲み会なんて行ったことないですよ。合コン?なんですかそれ?


でも、この忙しい生活は充実していてそれなりに楽しんでいる。


決して負け惜しみではない!(たぶん)



「満開宣言・・・花見シーズンかぁ…」

ちょっと世の中が羨ましい。夜桜見ながら美味しいお酒とおつまみ…うん、うらやましい。でも・・・


「今日何人運ばれてくるでしょうね。急性アルコール中毒患者」


「・・・とりあえず、診察の合間に関連備品を追加発注しよう。」


「・・・は~い、敬先生。今晩乗り切ったら、朝焼け見ながら桜の下で酎ハイ飲みましょうね~、お付き合いしますよ~」


私より七つも若いはずの万千子ちゃんに頭をなでなでされながら、診察室に入っていた。


さぁ、お仕事の時間です。


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