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片翼を失ったモノが求めるものは  作者: のぶのぶ
終わりの 始まり
8/25

終わりへと紡がれる言の葉



降りしきる雨の中


横たわる女性と、傍でうつむく男性



女性・・華の身体はピクリとも動かない。いや、動かせない



口すらも動かせない今、彼女は唯一使える念話で男に問い掛ける



【ねえ、黒い染みのせいなんでしょ? 身体中動かせないのは】




【そうだ】


【そっか、私、間に合わなかったんだね?】




【そうだ】


【私、これからどうなるの?】




【それは・・・・】




男は躊躇う


言葉にしてしまっては、彼女の思考を一気に絶望の淵に追いやってしまうだろう

しかし、彼女を救う手だては既に無い



彼女の染み・・魔獣化へと進行している証でもあるそれは、既に彼女の下顎まで達している


もって5分程度か・・



【辛いことを言うようだが、君の身体は】

【手遅れなんでしょ? 分かっちゃうよ、私の身体だもの】


男から伝えられるべき答えは、当事者から導かれる



なぜ、なぜにも・・


【あぁ・・・・・・そうだ。恐らく、君の意識が保てるのは5分程度・・だ】



なぜにも、こんなに、



【そう、そっか、だめかぁ・・わたし、だめ・・かぁ】



彼女には、こんなにも酷い・・あまりにも酷い結末しか無いのだろう






いつの間にか本降りになってきた雨が、二人を濡らす



華の目から溢れ出すソレは、雨の滴と重なり地面へとこぼれ落ちる






【ねぇ、意識がって事は・・身体が乗っ取られちゃうのかな、私】



【いや、簡単に言うと・・その黒い染みに理性が喰われて・・いわゆる、理性の無い化物になる】


本当は更に酷い状態になってしまうのだが、そしてその結末も・・・・




【わたし人間じゃなくなるの?】




【そうだ】


男の握りしめられた拳から赤い筋が流れ、雨と混じり合い、そして流れ落ちて行く


男にとっても、こんな結末は望んでいなかった。望みたくもなかった




【そっか】


華は、そっと目を閉じる





【じゃあさ、私を殺してくれる?】



【なっ】




男の思考が真っ白になる




【化物なんて・・私ね、そんな姿、私の・・私のお兄ちゃんに見せたくないのよ】




男は何も言わない、言えない




【意識が、もう保てなくなってきてるの。時間・・ないでしょ、ね?・・殺して。あなたならできるんでしょ?】



【・・・・・・】



【ね、お願い】




男はスッと立ち上がると、右手を前に伸ばす

何も無い所を握り、横に振ると、男の手には一本の刀が握られていた



【分かった】



男は静かに華を見下ろす



死を目前にしても、取り乱したりしない

自暴自棄になってもおかしくない状況で、冷静に死を依頼する


何故こんな女性が・・


生まれなんて選べない

それにしたって理不尽なのではないか?


もし普通の家庭に生まれていたのならば・・



いや、もし、なんて仮定など無意味か・・



男は、彼女に対する感情を追いやるかのように小さく頭を振り、しゃがみこむ

そして、華の目を見つめ頷く



【良かった・・あ、それと最後に一つだけ・・】





【・・・・・・・・・・・・】





男に伝える彼女の言葉



それは小さな願い



だが、決して叶うことの無い、儚き言の葉





【分かった、必ず伝えよう。この命に代えても】






男は刀を振り上げ






【助けられなくて・・・・ごめんな】






振り下ろす















冷たい雨は、天より落ちる




男は天を見上げ、目をつぶる














「あ、終わったっすか?」


雨に打たれるまま立ち尽くす・・そんな男へ、声が掛けられる



「・・サンか」



「っす」


後ろから現れサンと呼ばれた痩せ気味で長身の男は、まるで散歩途中で出会った先輩と後輩のように男へと話し掛ける



「あぁ、こっちは終わった。そっちの首尾はどうだ?」



男が浮かべていた先程までの悲痛な表情は既に消え、身に纏う雰囲気すら別人のようだ



「周り500mの目撃者っぽいのは排除完了っす」



「ふむ。予定より2分程早いな」


「まっ、俺って優秀っすからね」



・・・・・・・・・・



「あ、冗談っすよ?」



・・・・・・・・・・



「あれ?どうしたんっすか?」



・・・・2分・・か



「いや、何でもない。段取りを再確認していただけだ」



「流石っすねー・・ってか、灰塵抜いたんっすか!? うわー、そんなヤバかったっすか。魔獣化したコレ」


サンは男の持つ刀・・灰塵と呼ばれるその刀を見て驚き・・かつて華と呼ばれていた少女の亡骸を興味深そうに眺める


「そう・・だな」


「マジっすか、見たかったっすねー。あ、でも瞬殺だったろうし見てもしゃーない・・かっ!」



話途中でいきなり振り向き、背中に隠していたらしい鎌で、何も無い空間に向かって振り上げる



ギィィィィン



「・・っつー、しびれるってーの。もうちょっと優しく攻撃してくんないっすか?」



突如実体化した化物に向かって、サンは悪態をつく


化物は、弾かれた右腕の反動すらも利用して、左腕を伸ばしつつ振り抜こうとする



「ほーら、優しくないから・・・・真っ二つになっちまうんっすよ」



腕を振り抜くことは出来たが、伸ばした部分は根本から切り落とされ、首から腹にかけて真っ直ぐ切り落とされる





「これで2体目っと。しっかし、草刈り鎌で任務って・・ウププ」


「こらっ、シイ、やめなさい。・・ニイ、シイ。ただ今戻りました」



崩れ落ちた化物の後ろから、刀を鞘に納めつつ笑いを隠さない小柄な女性と、手に持ったタブレット端末でその女性を小突く、長身で眼鏡の女性が現れる



「排除任務ご苦労。ニイ、そちらの詳しい結果は移動中に聞く。ゴウの撤収準備は」


「はっ、既に《材料》は積み終わり、戻るのみと」


「では、直ちに撤収する。サン、シイ、遊ぶな。置いてくぞ」


「撤収了解っす」

「撤収了解でっす」


直前まで言い合いをしていたはずの二人が、見事なハモりを見せる



「前方警戒はニイ、右方はシイ、左方はサン、俺は後方だ」


「「「はっ!」」」



車の通る気配の無い2車線道路を駆け抜けていく4人



「ところで、例の´なりそこない´は、どうなったんすか?」



「No.6か。やつは暴走後に自壊した」



「そっすか・・ま、仕方無いっすね」


「やだねー、使えないの送られてくんのは」


「あんな´なりそこない´でも、我々の先輩だ。使えないなんて言うもんじゃないぞ」




前の3人が、それぞれ好き勝手に話し始める



後ろを走る男は苦笑いを浮かべた後、思い出したかのように振り返る




徐々に見えなくなっていく、先程まで立っていた辺りを静かに見つめる





(必ず・・伝えるからな。・・必ずだ)





男は何かを振りきるように前を向くと、何事もなかったかのように道路を駆け抜けて行く









彼らは自衛軍に所属する実験部隊

その名も《特jd対策第十六実験部隊》



副大隊長のNo.2ニイ

襲撃部隊長のNo.3サン

偵察部隊長のNo.4シイ

整備部隊長のNo.5ゴウ


そして、


駆けながら報告を聞く男は、その部隊の大隊長である


名前をNo.0 ゼロ と名付けられていた







ゼロ達が立ち去ってから5分もしないうちに、次郎君が現場に到着します。



では、謎解きを少し。


・No.2のニイがNo.6を先輩と言っています。


部隊長の名前は配属と共に決められたので、その通りの先輩です。

ただ、実質的な調整には失敗しており、万が一目撃者が残っていたとしても問題の無い´使い捨て´として配属されています。


あ、ゼロは特別です。一応最適合者として認識されてはいますが、実は特《機密事項により削除されました》な過去があります。



・サンの武器は鎌?


彼はちょっとした罰ゲームで、整備部隊が洒落で作った草刈り用の鎌 (震動機能搭載) を装備して任務に来ています。

実は、通常の鎌よりも草の根を取りやすく、一部の愛好家から商品化の要望が出るほど。

なお、見た目通りにリーチが短いので、戦闘を行う際は注意してください。



次回、数々の謎を置き去りにしたまま、ようやく次郎君の物語が動き始めます。


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