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片翼を失ったモノが求めるものは  作者: のぶのぶ
終わりの 始まり
7/25

彼女の最期の物語



華は刺されたショックと痛みで、歩道の端でうずくまっていた


刺された所から広がる紅く、そして黒い染み

それは一向に止まらない



痛みのせいか、周りの音よりも自分の心臓が脈打つ音が耳に響く


服を染める紅い血と一緒に、自分の中にある力も流れ出してるかのような・・そんな脱力感

それを感じつつも、得体の知れない何かが自分の中で広がって・・・そんな底の知れない恐怖が華を蝕んでいく



誰か助けて!



そう叫びたいのに、口を開いて出てくるのは


自分の荒い息と、口から溢れる鮮やかな紅い血



声も出せないのは、ショックから立ち直れないせいか、他にも要因があるのか・・

周りに人が居ないのは、雨のせいなのか、それとも障害事件の巻き添えになりたくないからなのか・・



自分を遠くから見ているような、やけに冷静な考えが頭の隅から聴こえる




「はぁ・・・・はぁ・・・・」


痛みをまぎわらすためか、息が荒く早くなっていく




「血が・・そして、その黒さは、アレに刺されてしまったのか・!?」


突如頭上から降ってくる声


見知らぬ男性が汗だくで見下ろしている


「・・はぁ・・だ・・・・はぁ・・・・れ?」


「あまりしゃべるな。それよりも、その怪我はナイフで刺された傷だな。すまないが、傷口を見させてもらう」


額の汗が流れるのもそのままに、男は早い口調でそう言って華のブラウスに手をかける


有無を言わさない男の言動に華は恐怖し、自らの血で紅く染まった手で男の手首を掴みつつ、弱々しいながらも首を横に振る


「・・ぃ・・・・ぁ」


「っ!」


男は華の行動に一瞬手を引きかけるが、何かを耐えるような表情で


「君のイノチにとって、重要な事なんだ! 時間が無いかもしれない、見せてもらうぞっ!!」



と、華の手首を少し強引に引き剥がし、ブラウスを大きくめくり上げる



白くほっそりとした腹部を、強引に引き裂いた縦長の傷


そこからは赤黒い血液が止まることなく流れ続ける




しかし、



男は別な事実に愕然とする



それは、彼女の傷跡から広がったと思われる黒い染み



まるで艶を消してしてしまったかのような漆黒




それは体液が流れる分だけ広がっていくかのよう


既に胸の下辺りまで広がっている




「くぅっ・・早いっ・・・間に合うかっ・・・」


男は華を歩道に寝かせると、黒い染みに右手を当て目を閉じる




「・・ぁ・・・・な・・ん・・で・・・・」



華は、自分の身体に起きている異変に頭が追い付かない


服を着るまでは、こんな染みなんて無かった


刺された所から広がってる!?


怖い・・怖い・・怖いよ、お兄ちゃん・・・・



でも・・

私は何で刺された?


監視から逃げたから?

いや、監視をしてる人から逃げた事は、もはや数え切れない


他には特に目立った事はしていないし、危険からは極力避けていた・・はず・・



何で気付けなかった?


直感力と危険察知には自信があった。その気になれば半径10km以内の敵意は察知できるけど・・さっきまでだって50m程度の常時発動型警戒はしてた。

・・でも、そんな気配は全く無かった



何で防御結界が破られた?


問題はここ。確かに私は防御障壁を展開させるのが苦手だ。しかし、普通の人はそんなものが有ることすら知らない

・・そのはずなのに!

体表10cmを薄い膜で覆う、常時展開型の防御結界は常にかけていたのに、それが破られた?


現実は、通り魔に結界を壊され、逃げる間もなくお腹を刺されて・・





「君・・念話は・・出来るか?」


華が思考の渦に呑まれていると、黒い染みに手を当てつつこちらを向いた男が問い掛けた


「・・・・」



念話

言葉を発することなく思いを伝える魔法


母から教えてもらった魔法の一つ。なんで、この人がそんな事を知ってる?

そんな疑惑が一瞬胸をよぎる

しかし、男がお腹に手を当ててから、少しずつ痛みや恐怖といったものが和らいできている

・・もしかしたら、この状況を変えてくれるのでは?と思い始めた華は小さく頷く



【突然の無礼、すまなかった】


【許さない・・なんて言いたい所だけど】


男は眉間にシワを寄せ、何かを耐えるかのような表情で、傷口から広がった黒い染みに手を当て続けている


何かを知っていてるのに、それを伝えたくない

そんな男の表情は、父が兄に向けていた顔に・・とても良く似ていた



この人は何を知っているのだろうか。私に 何を 隠しているんだろうか?



【貴方は誰? 何者?】



【俺は、ある施設で実験動物にされていた。そんなやつに名前なんて無いさ】


そう言って、彼は自虐的に笑う



【まぁ、強いて言うなら・・キミと同じかな?キミも使えるんだろう?念話とか、魔法みたいな特殊な力をさ】



そう語る男の言葉を、華は上手く飲み込むことが出来なかった


【まあ、そんな事はどうでも良いんだ】


男は顔から笑みを消す


【キミのお腹から広がる黒い染み。これは】





何かを言いかけた男が、何かの気配に気付いたのか後ろを振り向く



遠くに見える人影


誰もいない歩道を悠々と歩いてくる





【あいつか、コレを撒いたのは・・】



【コレって・・この黒い染みの事?】



【そうだ。あいつは、その黒い染みを植え付けたヒトだ。あいつは最後の仕上げをキミにするつもりだ

いいか、俺が離れたら気を強く持てよ。負の感情に囚われるな。黒い染みが首まで来たら・・俺らには対処出来ない】



【え・・?】



念話でそう告げると、男はそっと手を離し


「設定対象指定、認識阻害、結界、対振動補正、多重障壁・・」


ギィィン・・ドガガガガッ


華の周囲を薄い膜が覆うと共に、半球状の厚い防御結界が現れる

更に、その周りを半透明な何かが歩道に突き刺さっていき、幾重にもなって華の周囲を覆っていく


「いいか、気を強く持てよ! たとえ俺がどうなったとしても!」


そう言い放つと、男は人影に向かって駆け出した



堅固な障壁のせいか、男の姿は100mも行かない内に霞んで消えてしまう



男の無事を祈りつつ、再び広がる痛みと恐怖に向き合う



我慢出来ない痛みじゃない


怖さもあるけど、あの人が戻ってくれば何とかなる・・そう思えば大丈夫


そう思うと、なんだか少し気が軽くなった気がする



会ったばかりの人なのにね


少し、お兄ちゃんに雰囲気が似てるかも




そんな事をぼんやりと考えていると・・・・・・



ジグンッ!


唐突に激しい痛みが華を襲う



「ガッ・・・・・・アア・・」


全く無防備に、その痛みが意識に流れ込み・・それを受け入れられないレベルと判断した脳が、華の意識をブラックアウトさせていく










どれくらい時が経っていたのだろう


数秒か、数分か、それとも・・・・



少しぼやける視界


まばたきしても、何だかスッキリしない



そういえば、あれほど痛かった身体は・・




痛みが無い!



嘘みたいに、痛みや違和感を感じない



そういえば、黒い染みもどうなっているんだろう



・・・・・・ん?



おかしい






動かない







首も。右腕も。手の指も



左腕も、右足も左足も足の指もどっちの膝も腰も身体も口も舌も何もかも何もかもが・・


動かないっ!!





あまりにも受け入れがたい事実



再び意識が遠くなりかける


「おい! おいっ!! 意識はまだあるか!!」



遠くへと進んでいく意識を、近くから聴こえた声が引き戻す


【この声はさっきの方ですか?】



【念話はまだ使えるか・・そうだ、さっき近くにいた者だ。身体は動かせるか?】



【いいえ、さっきから動かそうとしているんだけど、何だかどこも動かせなくって】


いまだぼやける視界の中に、さっきの男性が入ってきた


一瞬目を合わせた後、自分より下の方へ目線を向け・・その顔は無表情に見えた






【そうか】



少し間を開けて返ってきた返答と、無表情のままの彼


あぁ・・




華は、全て理解した



そう、全てを。





もう、駄目なんだと。





男目線で書こうと進めていたら主に華目線になりました。


次回は華と男目線・・要するに今回の続きです。

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