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片翼を失ったモノが求めるものは  作者: のぶのぶ
終わりの 始まり
6/25

特jd対策第十六実験部隊No.6(後編)




彼は目覚めた



そこは白い部屋


彼は周りを見渡す



何も無い

あるのは白い壁と白い床



身体がだるい



動かすのが億劫だ



ふと、今何時だろうと疑問に思った



腕時計を見ようと左腕を上げる



腕時計があるはずの腕には、黒い見知らぬリストバンド



・・・・


こんなものしてたか?


それより、俺はなんでここにいるんだ?




思考は進む。



こんな服にいつ着替えた?

ここにどうやって来た?

眠る前もここにいたか?

そもそも俺は何をしていた?



疑問の答えが出ぬままに、新たな疑問が生まれ出でる



いつからここにいたんだ?

それよりも今日は何月何日だ?


・・いや、その前に・・・・






彼の頬に一筋の汗が流れる






そもそも・・俺は・・・・・・誰だ?




名前・・俺の名前・・なんだ? お、俺・・は・・・なんて名・・・・ま・・だっ・・・・た?






その疑問に辿り着いた途端、彼の視界は黒く閉ざされた。






まるで支えがなくなったかのように倒れた彼は、白く塗りつぶされた部屋で夢を見る




それはまるで映画を観ているような



彼の目の前に風景が広がる。



よく見ると、誰かが仕事をしている



仕事内容は分からないけれど、追い詰められている感じがするな



そう思った瞬間、一瞬で崩れ落ちていく光景。




また風景が広がる。



誰かが家に帰ると、奥さんが出迎え、足元に抱きつく可愛い男の子。


奥さんが何かを喋り、男の子が得意気に絵を見せる。



誰かの絵を描いたのかな?髭があるからお父さんかな?




そんな団欒の光景も、一瞬で崩れ落ちていく。




軍隊だろうか。厳しい訓練の中で築かれる友情もあるんだな。



崩れ落ちていく。



隣に座って勉強しているのは、さっきの奥さんに似てるな・・



崩れ落ちていく。



厳しい母親と父親の姿。あぁ、また怒られてる・・



崩れ落ちていく。



様々な光景や出来事が現れては崩れていく。

まるで誰かの記憶を辿るかのように。





この視線は、抱き上げられているんだな。目の前に笑顔を浮かべた女性の顔が近付く。




崩れ落ちていく。




先程の光景が崩れ落ちてから、辺りは暗闇が包み込んでいる。


もう終わりか?


そう思い、立ち上がろうとする。



彼は、立てなかった。



気付いたら、床を踏みしめる感覚が無くなっていた。


そもそも、自分が立っていたのかどうかも分からなかった。



気付けば、手の感覚も無かった。


よく考えてみたら、自分の意思で動かせる所など一つもなかった。



その事にショックを受けることもなく、彼はぼんやりと目の前を見つめていた。



そして、ふと



「そっか・・・・あれは、俺・・かぁ・・」



そう呟いた瞬間、妙に納得した表情の彼と、彼のいた世界は一瞬で崩れ去った。



そして、彼という存在は




この世から消え去った








「被検体686の意識消失」

「周囲魔素濃度上昇。現在4%」


「・魔・起動・・5・・・・」

「・・破・・・82・隊・・待・」


次々に入る報告に稲村大佐は、彼の映ったモニターを見つつ笑みを浮かべる


「ふふっ。きちんと生き残ってくださいよ?」



そして、違うモニターに目を向ける



白い壁がぼろぼろになった部屋

部屋の中央には、´人´だった´モノ´



身体組織が崩壊しているのか、少しずつヒトの形が溶けていく


「鍛え上げた自衛軍の精鋭ですら、成功率は30%といった所ですね」


一般人の場合の成功率は10%に届くか怪しい実験を彼らに施し、結果を求め続ける稲村大佐

その手元には、多岐に渡って行われた実験の様々なデータが届いていく


その日から、彼は


特jd対策第十六実験部隊の


No.6

【6体目の成功被検体】


となった。



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す



彼の脳裏には、あらかじめターゲットが記憶されている



そのターゲットを切り刻み、燃やし尽くせば、彼に与えられた今回の任務は達成される


簡単だ。ただ、殺せばいい


小雨の降る中、彼はのんびりと鼻唄混じりに歩いていく


♪♪♪♪~♪♪~♪~~♪~~


顔には薄い笑み



彼はゆっくりとターゲットとの距離を詰めていく





50m程先に、薄い青の傘をさした女性が歩いている



感知系の能力対策として、思考を一旦停止

訓練通り、天気の事をぼんやりと考える


同時に、歩きながら鼻に神経を集中


魔素と言う一般人には嗅ぎ分けられない匂いを感知する




彼は薄い笑みを貼り付けながら、ターゲットへと近付いていく



30m


これは本降りになるな



20m


ここに流れる雨水は、どこに向かうんだろう



15m


あ、何かを落としたな



右手に用意されたハンカチを持ち

彼はやや早足となり、彼女に近付く





8m


「あの、すみません」


小走り気味に右側から近付く



6m


「これ、



素早く後ろにまわした左手がナイフのグリップを掴む



3m


落とし



ナイフのグリップの底にあるスイッチを押して、刃を振動させる



1m


ましたよ?」



差し出した右手には、淡いブルーのハンカチ



「えっ!?」




振り向いて、右手のハンカチに目線を合わせた彼女に合わせ、左手に手にしたナイフを脇腹に向けて突き刺す



軽い衝撃



彼女を守る防御障壁に当たるが、彼はそのまま押し込む



パリン



激しく振動するナイフと、彼の増大された力によって、彼女を守る障壁は簡単に破られる


そして、その勢いを殺すことなく・・



僅かな手応えと共に、彼女の腹部へとナイフが吸い込まれる



彼はハンカチが落ちるのを気にせず、右手でグリップを捻る



ブシャァ



ナイフは振動を止め、その刀身に存在する小さな穴から黒い液体を噴出させる・・





声を掛けてから約2秒


彼にとっては、訓練通りの流れ作業に過ぎない作業ではあるが・・彼女にしてみれば、それは一瞬の事だったろう



彼女の白いブラウスは、ナイフの刺さった所から紅い、そして黒みを帯びた染みを広げていく


彼は、その様子を見るまでもなくナイフを引き抜き、切っ先を彼女の目に向け突き刺・・


せなかった



突如、彼の体を何かの塊が貫き、同時にナイフを持っていた手が下に落ちていた



彼は理解する前に後ろへ跳び、周りの状況と自分への被害を確認する


目の前には何処からか現れた化物2体。狙撃されたのであれば他に1,2体


ケース31と判断し、護衛の排除へと思考をシフトする


自分の身体・・頭・右腕・両足は問題無し。左腕は肘から下が無いが、まだ動かせる。胸の中心部が撃ち抜かれたが、まだ動ける



目の前の化物が両手を伸ばし首を狙ってくる


それを右腕で受け流し、´左腕´で化物の首を刈る



大きく開かれた目


反撃されるとは思わなかったのだろう。甘いヤツめ



目線を前に向けると、もう1体の姿が消えていた


彼はそのまま振り向かず、背後から来る気配へと左腕を´伸ばす´



肌色の3メートルもある刃は・・彼の左腕から生えているソレは、化物の身体を容易く切り裂き、アスファルトの道路をも抉る



2体の化物を無力化するのと同時に、1キロ以上も離れた狙撃者を確認する


素早く左腕を戻し、足元に落ちたままとなっていたナイフを拾い上げる



衝撃と共に、彼の右の視界が黒く塗り潰される



顔の半分がえぐれた彼は、手にしたナイフを化物へと投げつけ、自身もその方向に駆け出す





かなりの勢いで投げられたナイフだったが、標的の手前5m程で止まり、重力に従って落ちていく


そのナイフを横目で見つつ、8階建ての雑居ビルの屋上にいた化物のすぐ横に´着地´した彼は、防御障壁を繰り出すために両手を前に出したままの化物の首を容易く刈り取る


ガキン


化物の数十センチ前で弾かれる


反動で振り上げられた右腕を無表情に見つつ、予想以上の堅さに舌打ちする

続けて左腕を弾かれた空間へ打ち付け、弾かれた反動をも利用し右腕を叩きつけ・・それを数回数十回と繰り返す



バキン


小さいながらも確かに聴こえたその音は、彼の乱打を化物に近付けていく



バギン、バギン、バギン・・・・


十数秒ごとに聴こえる破壊音

彼は笑みを深くしていく




その音が20回程鳴り終えると、彼の攻撃は化物へと届き、ソレを切り刻む斬撃となる




液体のしたたる両腕を下に垂らす。ここでの作業を終えた彼は、狙撃が途切れた事から障害排除と判断

雑居ビルから軽やかに飛び降りると、ゆっくりとした歩調で彼女の元へ戻る






彼が彼女を刺してから


5分間の殺戮劇であった。




実験にて、人間の形状を保ったまま化物になった彼の目線は、ここで終わります。

ちなみに彼に発現している能力は、嗅覚強化、腕限定の形状変化及び硬化となります。

作中でのケース31とは・・

対象目的への作戦行動中、他の【特jd】からの襲撃を受けた場合 情報隠蔽の為、可能な限り速やかにそれを排除する事。

となります。


次回は、正確にはこの続き。次郎くんでも、華ちゃんでも、彼でも、我々でもない、そんな彼の目線でお送りします。

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