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片翼を失ったモノが求めるものは  作者: のぶのぶ
鳴動
11/25

命を守ること、命を懸けて守りたいもの

予想大外れ




「さて、次に13大隊の配置についてだが」



作戦の(かなめ)である我々実験師団の師団長が、各大隊に大まかな指示と意見のすり合わせを行っている

我々の存在意義が示せる最初の作戦のためか、各部隊とも士気は高く内容の濃い会議となっている



「対象となるのは9・・」



この作戦は、実験動物であるモルモットを、捕食者である蛇へと進化させる闘いだ

・・なんて言う隊長もいたが、それだけ重要度の高い作戦であるのは理解できる



「その部隊配置の中で、補給線が・・」



だが、俺に言わせれば鼠は鼠

今回の作戦も、鼠同士の喰い合いとしか感じない




「エリアリーダーへの確認に・・」




これも一つの狂気なのだろう


この狂気の渦に呑まれなかった俺は・・



「次に16大隊の配置について」



っと、次はうちか



「関東地区を11大隊と担ってもらうのだが、範囲は聞いているか?」


「はっ。既に該当エリアより資料を取り寄せ済みです」


当日の作戦行動前における注意点、作戦行動自体の流れ、撤収用車両の配備・配置・ルートなどの確認をしていく



「これで16大隊に関しては以上だ」



そういえば・・


担当地区エリアリーダーと接触後、該当者の簡単な説明と、ここ一年の動向を纏めたものを手に入れている


その中で一人気になる者がいた。



「師団長。質問があります」


「なんだ」


「東京都15区画の個体名Hですが」

「その事か。それは別室で話す。他には無いか?」


「はっ。特にありません」


・・・・


なぜだ? ここでは話せない内容か・・厄介だな




「では、次回のミーティングは作戦終了後だ。詳細な日時は追って連絡する。以上、解散っ!」




他の大隊長達が足早に会議室を退出していく








残されたのは、俺と師団長



「・・別室に行く手間が省けたな」


「ええ。そうですね」



二人は、顔を見合わせて笑う



「こうして話すのも久し振りだな。´音無´中佐」


「その人は死んでますよ、師団長。今の俺は、ゼロです」




「ふっ、そうだったな」



その名前を出してくれるのは、貴方だけですよ。師団長



「さてと、君には色々と伝えなければならない点がある」


「・・やっかい事ですね」


「あぁ、君にしか出来ない、と私は思う」



真剣な表情を浮かべ、師団長は続ける



「まずは、質問にあった排除個体Hの事だ」


「あの個体、監視が追えないほどの手練れとか。・・秘密でもあるのですか?」


「あぁ、その通りだ。あれは、初めて発現が確認された個体の娘と考えられている」


「あの・・槍ヶ岳の・・」


「そうだ」



槍ヶ岳の災厄

人類と特jdとの初接触及び初戦闘


国民には詳しく知らされてはいないようだが・・飛騨山脈に存在していたはずの槍ヶ岳は、今や巨大な大穴が開いているだけだ


あれを引き起こしたヤツの子どもとは・・



「そんな訳で、簡単には排除出来ないと考えた方がいい」


「分かりました。俺が立ち合えるように計画を見直しましょう」



危険な相手だ。あらかじめ分かっている強敵に、部下を当てる必要は、ない




「それと」



師団長が、手にしていた資料をめくり、東京都の部隊配置図を開く

その指は渋谷駅前辺りを指している



「丁度この辺り、11大隊に配備された´アレ´をここに向かわせ、強制的に魔獣化させる計画だ」

「なっ!!」


魔獣化・・そんな街中で・・

しかも強制的に行うと言うことは、アレを身体に打ち込むのか。そんな状態では敵味方の識別など・・



そうか、それが目的か



「見せしめ・・ですか」


「そうだ。国民への引き締め・・プレゼンにはいい場所・・との事だ」



師団長は拳を机に叩きつける



こんな状況を喜んで作りたがる人などいない


そもそも人を守る為の軍隊に所属しているはずなのに、人を害する作戦に手を染める・・



「国からの横槍は、ここに刺さったみたいですね」


「・・・・あぁ」



魔獣化した個体が自壊し始めるまで約5分

強制的ならば、自壊しているのにも気付かず暴れるのだろう


「通常作戦での目撃者排除と、そのパフォーマンス・・・・仕方無いと言える範囲を越える被害が出そうですね」


「全くだ」




「一応15区画からは外れているが、隣接している担当区画も多い。何があっても手出しをしないように伝えておいてくれ」


「仕方無くはないですが、分かりました。部下によく言っておきます」





重い話もあったが、細かいすり合わせや、情報交換等が雑談を含めながら進んでいく






「そういえば、キミが連れ出した例の´自称´なりそこない達は元気かね?」



そろそろ戻らねばと言って立ち上がった師団長が、思い出したかのように口にする



「彼らですか? 元気にやってますよ。個人の能力も申し分無いですし、指揮能力に優れています」



「ほう、そこまで良い拾い物だったか」



「ええ、士官不足な我が隊の救世主になってもらえました」



「それは・・良かった」



そう言って師団長は、笑いながら会議室から出ていった




師団長は笑う


寂しげに笑う



あの施設から、大量に捨てられる´廃棄物´



そんな中から、師団長と俺が目を凝らして(すく)い上げた彼ら



掬い上げた指の隙間から、彼らがこぼれ落ちていくのをただ見つめることしか出来なかった



たった4人でも、救い上げられたのは奇跡だというのに



師団長は、落ちてしまった彼らの事も忘れていないのだろう





つくづくお優しい方だ。


















「ひまっすねー」


「お前は暇じゃないだろ」



あの会議から戻った俺は、部下の生存率を上げるため、次の日から各部隊に様々な状況下の訓練を課していた



突如鳴り響く笛の音


「状況終了ー!!」


戦場に響く下士官の声



どうやら、設定した状況下での模擬戦が終了したらしい

整列を促す声が、高台にあるこの天幕にまで聞こえてくる



横隊に整列させた部下が、サンに報告にやってきた


俺に気付くと慌てて敬礼をするが

「敬礼などいらん。いないものと思ってくれ」

と言うと、部下は再びサンの方を向き直し報告を始める



部下を先に戻らせ、

「行ってくるっすねー」

と出ていったサン



彼らの評価は、小隊長から聞いている限り問題無さそうだが・・少し見てみるか



丁度サンは、皆の前で訓示を行うみたいだ



サンは真面目な顔で皆の前に進むと


「市街地における戦闘状況終了。全小隊はこれより撤収準備っ。第四小隊は今回の敗因とその対策を1600までに俺に提出っ。各小隊長は1700に第3作戦室へ集合っ。以上!」




・・・・



「なんすか?」



いつの間にか戻っていたサンが、目の前に立っていた



「いや」




しかし、なんだろうか、この差は





「あー、俺達は隊長みたいに、実験前の記憶残ってないっすからね」



「・・」



「ま、羨ましいとかじゃないんすけど、せめて隊長の記憶に残るような話し方にしたいなーっと。あいつらと話し合って決めたんすよ」



・・



「隊長、俺達を拾ってくれてありがとうございます」



「そんな事、言うな」



「いえ、言わせてもらいます。本来ならば´なりそこない´と同様に使い捨てされても仕方のない状態でした」


・・・・


「それを拾ってくださり、名前まで付けてくださった。この恩は、私たちの身体がが自壊しきるまで貴方に忠誠を尽くす事でお返しできると考えています」


・・・・・・


「今回の作戦は、私達ならまだもつでしょう。しかし、次の、その次、またその先となったら・・いつまでお側にいられるか分かりません。しかし、隊長。貴方から貰った幸運は、この先ずっと私達に降り注いでくれる。そんな気もするのです。そしてその幸運を、貴方と分かち合い続けたいのです」




真摯な目がゼロを貫く




その眼差しに応えるかのように、ゼロは言葉を発する


「ありがとうな。そして」

「あっ、たいちょ~・・う? サンと何話してたの?」



いきなり掛けられた言葉に、ゼロの言葉は行き先を失う



「俺の幸運は、まだまだ続く!って話っすよ」


気持ちの良い笑顔で、シイに答えるサン



「あれ? そうなの? ・・でも、あんたの幸運は終わったわよ?」



それ以上の清々しい笑顔でサンに笑い掛けるシイ



「だって、あんた、賭けに負けたのよ? もしかして・・忘れてたとか?」



サンの笑顔が、空気が、止まる。




「賭け?」




ゼロの冷たく光る言葉と視線が痛い



シイの笑顔も、空気も、止まる。





「「えっと・・」」



「言い訳があるなら」


「シイが」

「サンが」


「聞かないぞ」




「「・・・・」」




完全にやってしまった二人



「よし。貴様らの好きな賭けをしてやろう。宿営地から山の上の無線中継所まで20kmある。往復5回、後に着いた方の武器、降格な」



思わずお互いを見合わす二人


「じゃ、始め。」


「うおおおおぉぉぉ!!」

「え、はや、こらぁぁぁ!」


一瞬出遅れたシイが不利か? などと思いつつ、二人の背を優しい眼差しで見送る




作戦日まで後2日


まずは死なないための行動計画を詰めないとな








と言うことで、前回の後書き大外れ。

筆が進んで長くなりました。

まぁ、内容詰められたし良かった。ですかね?


ひとまず恒例の謎解き。


・音無中佐?


ゼロがNo.0になる前の本名です。対外的には作戦行動中に死亡となっております。生前の階級は大尉で、二階級特進のため中佐に。

特jdの細胞を直接体内に埋め込み、体液を心臓に直接注入するという人体実験の結果、知識・経験・人格・記憶の欠損が無く、能力上昇が認められた最初の実験成功者。

彼のデータが取れたお陰で、実験成功率が6%程上昇したと言われている。

(作戦前の成功率は一般人9%、軍人31%)


・槍ヶ岳の災厄


軍事機密資料に該当する為、詳細を知る者は限られている。

ただ、松本駐屯地にて陸上自衛軍の第十二師団に所属する者が多数の死傷者を出し、所属するヘリが数機不明になった。と言うのが軍内の噂である。

以前は標高3180mの山であったが、現在では半径600m、深さ600mの巨大な大穴が存在するのみ。魔素濃度が高い為、長時間の滞在は出来ない。

なお、槍ヶ岳の周辺10km圏内は立ち入り禁止となっている。

(現地付近の常念岳、穂高岳、笠ヶ岳、黒部五郎岳が登頂禁止になっている)


以上かな。

取り敢えず次回は作戦後の状況か、我々さんの動きが出てくるかな。

誤字脱字、不明点は作者まで。

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