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十三話 職人たちとのこと

大変お待たせしまして、本当にすみません。ちょっと別のものにかかりきりになっていました…。なかなか終わらないもので、また間が空いてしまいますが、のんびり見守って頂ければと思います。

 次の日から、ぴたりと千鶴に顔を見せに来る貴族がいなくなった。王への謁見はむしろ増えているようなので、嵐の前の静けさとはこのことかと冷や冷やしつつ、束の間訪れた平和な時間を、千鶴は開き直ってめいっぱい楽しむことにする。


「へぇ……凄い、こんなに本格的なんだ」

「はいー。家付き猫や家付き犬は手先が器用なものが多いのですー。良い工芸品は高く売れますので。ここはほとんど王家の専属ですがねー」

「そっかぁ」

「ひひ、妃殿下!? こんなところまで足をお運び頂かなくても、こちらから向かいましたのに!」

「いえ。私の我侭です。どうしても城のステンドグラスを作った工房を見てみたくて」


 朔をおともに今日やってきたのは、城の広い敷地の端にある、ステンドグラスや装飾品を生み出したガラス工房だ。体育館ほどもある巨大な広間に、大きなガラス釜が四つ。

 部屋を隔ててステンドグラスを作る台と、出来上がったガラスに色や細かな装飾品をつけてランプや小物を作る作業場が並んでいる。

 今居るのは作業場の方だが、釜の部屋を広々見渡せるように巨大なガラスがはまっているために、まるで一つの部屋のように見えた。

 大勢の犬族や猫族が、忙しなく部屋を行き来しては作業をしている。ちらちらこちらに視線をよこす彼らは、作業中ということでかしこまった挨拶はしないでいいことになっているらしい。その代わりのように、ぐさぐさと視線は刺さりっぱなしだったが。


 城の豪華さから見てもとんでもなく高い技術を持っているとは思っていたが、こんなに本格的なものが出てくるとは思っていなかった千鶴は、その視線すら忘れて始終ぽかんと口が開くのを堪えている。

 朔が気晴らしにって連れてきてくれたけど、確実にそんな気軽に来ていいところじゃなかった……。


「こ、光栄にございます! ですが、生憎職人頭が出かけておりまして……」


 ぺこぺこお辞儀をするすらりと背の高い茶トラの猫は、困ったようにひげをしおらせた。朔が事前にアポを取っていたはずだが、伝わっていなかったのだろうか。

 

「大丈夫です。これだけの大規模な工房となれば、職人頭の方もお忙しいのでしょう? 急に来てしまってすみませんでした」

「い!? いい、いえいえそんな妃殿下にそのようなこと……!」

「千鶴さまー、困ってますのでほどほどにしてあげて下さいませー」

「いけない、つい癖で」


 とりあえず謝っとこうの日本人気質はそう簡単に抜けるものでもない。軽く下げていた頭を上げて、千鶴は恐縮しきりの茶トラに困ったような微笑を向けた。

 気さく過ぎるのはなめられるから止めろと再三あのやかまし兎に言われているが、千鶴は元々ここにいる職人達のほうが身近なくらいに一般人だから仕方ない。

 びびび、としっぽを膨らませる茶トラからそっと視線を外して、千鶴はあたりを見回した。

 いくつか置かれた机の上では、大小様々なステンドグラスが着々と作られている。隣で丸いランプに金具を取り付けている紫がかった長毛猫は、千鶴と視線が合うとびくっと大げさに肩を跳ねさせるが、以前厩舎の猫達にされたように、怯えた目はしていなかった。

 どうやら、あの場にいた犬猫たちがその後自分の知り合いたちに千鶴の事を話したようで、今ではこうした「貴族でない獣人」達には、それ程過剰に反応されなくなってきている。

 びびられっぱなしだった今までを考えれば、格段の待遇アップだ。緩みそうになる頬を引き締めて、千鶴はその長毛猫に近付く。


「色ガラスのランプですか、綺麗ですね」

「はっ、はい! ありがとうございます!」

「模様に意味はあるのですか?」

「はい! こちらの白い模様が子孫繁栄、こっちの赤い花は家族の愛情、そこの二人の猫は恋人に贈るものです! この猫には実は悲しい言い伝えがありまして――」

「相変わらずロマンチストな……」

「にゃっ?」

「あ、いえいえ。それにしても、大型のものばかりですね。小さなものは作らないのですか?」


 どうも獣人は恋物語が好きらしい。くねくねしつつ嬉しそうに話す長毛猫を遮って指差した先のランプは、小さいものでも両手で抱えるくらいだ。もっと小型のランタンのようなものは、どこを見ても置いていない。

 城の照明もこのくらいの大きさのものばかりだったな、とふと疑問に思っただけだ。

 首を傾げた千鶴に、長毛はああ、と机の上のランプを撫でる。


「小さなものは光源として使えませんので。小さいと装飾のしがいも無いですし……」

「そこなんだ……。では、アクセサリーも作らないのですね」

「え……?」

「ガラスを使って宝飾品を、でございますか?」


 色とりどりのガラスを見て、千鶴が真っ先に思い出したのは、昔連れて行かれた美術館で作ったトンボ玉だ。細かい作業になるが、物によってはとんでもない価格で取引される。ランプの出来から言っても、ここの職人達が作ったものならいい出来になるだろう。

 もったいないな、と猫の踊るランプを見つめる千鶴に、今度は長毛猫のほうがぽかんと口を開けた。ついでに、後ろで事の成り行きを見ていた茶トラが突然話に食いついてくる。


「え、ええ。こう、棒に色ガラスを巻きつけて丸くしたものに、上から他の色ガラスで模様を描いて……繋げれば綺麗だと……」

「にゃにゃん! それは……素晴らしい! 素晴らしいです! 手の空いている者! ちょっと実験するからついて来い!」

「思うんですが、って茶トラさんが暴走してる……」

「すみません……。主任、腕はいいんですがちょっとガラスが好きすぎる所がありまして……ずっともっとガラスたちを小柄で美しい姿にしてやるんだと言ってて。妃殿下の案は素晴らしいアイデアですよ」

 

 苦笑気味の長毛猫に、どたばたと部屋の奥へ行ってしまった茶トラの猫を視線で追いかけていた千鶴は同じような顔をした。

 ふっくりした口元をアヒルのようにとんがらせた長毛猫の顔が可愛らしくて、つい無意識にその顎の辺りを指先でくすぐる。


「そうだといいんですが。見たところ、ビー玉はあるんですね。これも、クラックビー玉にしたら綺麗だと思うんですが」

「にゃ、くら……? あの、ひでん、か」


 籠の中に山と入ったビー玉を指差しながら、千鶴の手の動きは止まらない。


「ビー玉を焼いてから急激に冷やして、ヒビを入れたものです。昔祖父に焚き火で作って貰いました。コーティングして日にかざすととても綺麗で――」

「にゃ、にゃん、それはすてき、じゃない……あの、にゃ、なんというテクニシャン……!」

「千鶴さまー。そろそろ手を離して差し上げないと、その方床に伸びちゃいますようー」


 突然触れられたことに驚く暇もない。絶妙な指使いに悶絶する長毛猫と、ぎょっとしながらもちょっと羨ましそうに見つめている他の犬猫たち。

 顎から耳の横、頭の後ろと指を動かして、思い出の中の記憶を呟いている千鶴は、長毛猫がとろんとろんになって喉を鳴らしているのにも気付いていない。

 もうどうにでもして、と彼がくったり伸びきった辺りで、ようやく朔のストップがかかった。


「あ、ご、ごめんなさい。さわり心地が良くて……」

「はー、はー……。妃殿下、とんでもない手腕をお持ちで……私、違う世界が見えました」

「構わないのでしたらいくらでも触らせて頂きますよ?」

「是非!」


 汗を拭うふりをする長毛猫に、千鶴はにこりと微笑む。その申し出に、反射的に彼はこくこくと頷いていた。心得たとばかりに千鶴の手が伸び、彼が冗談ですと言う前にその体は千鶴の手でわしわしと撫で繰り回される。

 妙に気の抜けた悲鳴を上げている長毛猫の喉元を撫でていた千鶴は、妙な手触りに首を傾げた。


「長毛猫さん、毛玉が出来てる」

「ふにゃああぁ……。けが、ながいので……よくできるんですぅ……」


 困ったような彼のうめき声に、ばん! と唐突に扉が開く音が重なる。驚いて後ろを振り返った千鶴の目の先に仁王立ちしているのは、あの獅子王にも劣らない巨大な体躯の獣人だ。


「今戻ったぞ! いやー大量大量。ここんとこお城の姫さんが野菜食うからか多くて助かるわ! ……わう?」

「こ、こんにちは……?」

「職人頭!」


 肩に巨大な袋を担いでのっしのっしとこちらに寄ってきた獣人は、顔周りを覆う豊かで長い毛並みに、太い鼻筋。厳しいがどこか茶目っ気を感じるその顔は、熊とも戦えるという巨犬、チベタンマスティフに良く似ている。

 余りの迫力に、長毛猫の顎から千鶴の手が離れたことで、彼は今度こそ床にべしゃりと伸びた。


「誰だお前ぇ?」

「ちょっと頭! なに言ってるんです妃殿下ですよう!」


 ふんふん、と引き攣った顔の千鶴の匂いをかいでいる巨大な獣人、どうやら彼がここのリーダーであるらしい。

 巨躯に似合わずどことなく可愛らしい仕草で首を傾げた職人頭に、床に伸びた長毛猫が慌てて跳ね起きた。それにぽん、と拳だけで千鶴の顔ほどもある手を叩いて豪快に笑う。


「あーあー! そういやなんか言われてた気がするわ! 悪かったなぁ、えーと、妃殿下? ちょいと野暮用で出てて」

「かかか頭! もっとこう! 言い方ってもんが……!」

「ああいえ、構いませんよ。妃殿下なんて呼ばれていても、私にはなんの力もありませんし……」

「わう! そりゃ助かる。俺ぁ堅っ苦しいのが苦手でなぁ。なんでぇ、人間だって貴族連中がわーきゃー言ってるが、礼儀正しいいい嬢ちゃんじゃねぇかい。俺ぁ紅雷こうらい。ここにある工房の職人頭をしてるんでぇ。なんか欲しいもんあるか? 作ってやるぞ」


 がはは、と顔中をしわくちゃにした紅雷は、いかにも下町の職人といった様子だ。周りの職人たちが、千鶴と紅雷を見比べてなんとも言いがたい表情をしている。呆れ気味のその顔からして、恐らく貴族相手だろうがこの自由なスタンスは変わらないのだろう。

 いっそおろおろとそれを見ている長毛猫の方が可哀相なくらいだ。

 千鶴としては、小さい頃世話になった農家や猟師のおっさん達が始終こんな調子だったこともあって、むしろこのくらいの方が親しみやすくて助かる。

 後ろに控えた朔も、千鶴の顔が嬉しそうなのを見てか、にこにことへちゃむくれた顔を緩めて見守っていた。

 しかし、何が嬉しいのかぽんぽんと千鶴の頭をその大きな手で乱暴に撫ではじめた紅雷に、慌てたのは周りの犬猫たちだ。

 いくら本人が許したとしても、一応王族という事になっている千鶴に、流石にそれは、と言いたいのだろう。一番近くにいた長毛猫がその手にしがみつく。体格の差から休日のお父さんに構って欲しい子供のように、ぷらーんと腕に掴まるだけになってしまったが。


「職人頭ぁー!! それ以上は! それ以上は流石に!」

「なんでぇ、別になんにもしてねぇじゃねぇか。しかしお前ちっと太ったか? 重いぞ」

「そういう事じゃにゃんのですよー!」

「あの、別に構いませんから……うわっ?」


 二人のやりとりをいつまでも眺めているわけにもいかず、なだめようと一歩踏み出した千鶴の足に、ふにゃりと妙な感触がする。

 慌てて足をどけてみると、紅雷が担いでいた袋がいつの間にか床に転がって、そこから薄緑や青色の丸い物体が転がり出ていた。本格的に両手に猫と犬で休日のお父さんごっこをしている紅雷を横目に、千鶴はしゃがみこんでその物体を指でつつく。

 表面はつるりと滑らかで、触り心地はひんやりふにふにしている。手のひら大の固めのゼリーか水風船のようなそれに首を傾げた千鶴は、一つ手のひらに乗せて朔を振り返った。


「朔、これなに?」

「ああ、スライム餅ですねー。こんなにいっぱい初めて見ましたー」

「わう? なんだこれが珍しいのかぁ? こりゃスライムから獲れるスライム餅だぞ。ここんとこよく獲れてなぁ」

「す、スライムいるんですね……」

「草が好きな大人しい魔物ですよー。叩くとこれ落とすんですー。でもこんなもの、なにに使うんですかー?」

「な、長く伸ばして窓枠に使うんですぅ……隙間風を防いで、すべりを良くします……うえぇ」

「ああ、ゴムパッキン。どんな風にしてるのかと思ったら、こんなものがあるんだ」

「一度温めると柔らかくなって、冷やすと固まります……。一度冷やすとそのままの形と柔らかさで固定されるんですよ。ただ、窓枠以外に使い道があまりないのですけど」


 別に珍しいものではないらしく、振り回されて酔っ払いながらもすらすらと答える長毛猫の説明を聞きながら、千鶴は立ち上がってぷにょんぷにょんと案外さわり心地のいいそれを突きまわすが、そこで首を傾げる。

 これが本当に柔らかさを選べるのならば、もっと沢山の使い道があるはずだ。手始めに前から千鶴が欲しかったものが思い浮かび、彼女は長毛猫を高い高いして遊んでいる紅雷を見上げる。


「これ、劣化はしないんですか?」

「ああ? あー……あんまり暑い日が続くと柔らかくなっちまうこともあるが、水に漬けりゃあ直るし、まあ早々ねぇわな。あとは汚れに気をつけてやりゃあ特に問題も無ぇが、どうかしたかい?」

「人体、というか、肌に触れても特に問題ないんですよね?」

「ああ。食っても問題ねぇぞ。不味いがな!」

「千鶴さまー、どうしたんですかー?」


 いきなり食いついた千鶴に、面白いものを見るような目で紅雷が笑い、質問の意味が分からなかったらしい朔がぺたんと耳を伏せる。自分の思っていた通りの答えに、千鶴は目を輝かせた。


「じゃあ、ゴムブラシ……じゃない「スライムブラシ」作って頂けませんか!」

「は?」

「ここのブラシって、木の硬いのかふわっふわの柔らかいのしかなくて困ってたんですよー。あの櫛じゃ抜け毛が取りきれませんし、柔らかいのなんかもう何のためにやるんだかって感じで」

「スライムでブラシだぁ? また妙なことを」


 職人頭が首の辺りを掻きながら唸るのも分かる。ソラントで「ブラシ」といえば、薄い木の板を削って作る、等間隔で細い歯が並んだ簡単な櫛か、貴族達が毛並みを整えるために使う、現代の女性が化粧に使うようなほわほわと柔らかいものの二択しかなかった。

 木の板はそれなりに安価だが、値段が安ければ安いほど薄く強度が無いため、力を入れれば簡単に折れてしまう。おかげで貴族でない者たちの毛並みはお世辞にも良いとは言えない。

 貴族は貴族で、木の櫛を使うのはプライドに反するとかで柔らかくコシのない化粧用のようなブラシで表面を撫でるだけだ。

 王に謁見ともなれば気合を入れて綺麗にしてくるようだが、千鶴はそれでも所々もつれた毛が気になってしょうがない。せめてもっと使いやすいブラシがあれば、と思っていたところに、この新素材は嬉しい収穫だった。


「木の櫛と違って皮膚を傷つけませんし、多分壊れることもそう無いですし、ごっそり取れるんですよ! 出来れば本当は金属のスリッカーか豚の毛のブラシ、あとコームでもあるといいんですけど……」

「にゃにゃ!? わたしのこの毛玉も、なくなりますのにゃん!?」

「ブラシがそろえば簡単に綺麗になれると思いますよ。ちょっと頑固な奴は切らないといけないかもしれないですけど……」


 獣人にとって、毛並みの美しさはそのまま財力や優雅さの象徴だ。なにより、割と彼らは綺麗好きでお洒落にも積極的。憧れのものが簡単に手に入るという千鶴の言葉に、周りの犬猫たちは、半信半疑ながら興味津々で千鶴を見ている。

 一生懸命身振り手振りでその「ブラシ」の良さを伝えようと頑張っている小さな人間に、紅雷はふむ、とひとつ頷いて、その頭にぽんと手を置いた。


「そんなにいいってんなら、いっちょやってみっか? 金属の櫛ってのも、面白れぇじゃねぇか!」

「本当ですか!」

「わう! ここの隣に金物の工房もある。そこも俺の管轄だ。もし上手くいったら、とんでもねぇことになるぜぇ!」


 目をきらきらさせてこちらを見上げる千鶴に、紅雷は相好を崩す。周りの部下達も職人としての好奇心に負け、緊張を忘れ、彼女が人間であることすら頭から吹き飛ばして彼女の話を聞いていた。彼は胸中で、ああ、星跨ぎの力とはこういうものか、と一人ごちる。

 堅物の騎士団長、白羽がこの少女に少しだけ目をかけていると聞いて、最初は何かの間違いではないかと思っていた。

 けれど、この小さな少女を見て、彼はその考えを改める。未知の知識も確かに面白い。けれど、その本当の力は、この警戒心のなさなのだと。

 どこまでも自然体で、自分達の輪の中にするりと入り込む。開けっぴろげに自分たちに好意を示し、仲良くしてください! と全身で訴えるその姿。

 警戒するほうが馬鹿馬鹿しく、攻撃を加えることを躊躇うほどに非力で小さな生き物。


 自分よりも小さいものに感心と庇護欲をかきたてられる獣人にとって、魔力も持たず、武器も無いくせに自分達に向かってくる「千鶴」という存在は、尽きない興味の固まりだ。

 貴族の連中は、その興味を恐怖として取ったようだったが。

 

「ああ! 職人頭! お戻りでしたか! 見てくださいこの「とんぼだま」! 美しいでしょう! 輝かしいでしょう! 妃殿下ー! 見てくださいこの輝き!」

「ああ、そりゃきらきらしてんなぁ」

「ふふふー。流石は千鶴さまですー」

「おう朔、お前ぇの妃殿下はすげぇな」

「もちろんですともー! これからもっと凄くなる方なんですからねー」


 奥の扉から鉄の棒にくっつけた小さなガラスを掲げて飛び出してくる大興奮の主任に、紅雷は呆れたように笑う。

 もふもふの胸を張る朔の頭をぐしゃぐしゃ撫でながら、紅雷はこれからのこの国を襲うことを思って天井を見上げた。

 星跨ぎは非力でか弱い生き物。けれど、その影響力は計り知れない。


 恐らく遠くない未来に、彼女はその力で持ってこの国を変える。


「その凄いところ、俺も見てみてぇもんだなぁ。――こらお前ぇ達! 職人頭の俺を置いて話を進めんな!」


 確信にも似たそんな予感を胸に、紅雷はわいわいと騒がしさを増していく輪の中に足を進めた。 

 

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