プロローグ 宵闇の七番小路
真っ黒な影の中に、一人の少年が佇んでいる。
微かに光を孕んだ金の髪に、長い睫毛に縁取られ薄く開かれた空色の瞳。すらりと伸びた手足は細いが、しなやかな無駄の無い筋肉がついている。
何と美しいのだ。
その少年を見た男はそう思った。
男は長年美術品を専門に盗む泥棒であった。かつて絵描きを目指して挫折した、どこにでもいる男だった。芸術品を生み出す才能には恵まれなかったが、審美眼が優れていたので長年この仕事を続けることができた。
星も見えぬ暗い夜に、古く寂れた細い小路の中に降り立つ天使。
この光景を絵画にすれば、さぞや貴族共には売れるだろう。人間を商品に扱ったことは無いが、これほど美しいのなら今まで扱った名画や高名な彫刻にもひけをとらぬ。いや、これほどまでに美しいものは売らずにとって置くのが正解か。
なんにせよ、今しがた手に入れた絵画より価値があるのは確実だ。
盗人がその少年を、よくよく眺めた後に眉を顰めた。
作り物かと思う程に完璧な美貌の少年はどこにでも売っていそうな、薄汚れた安物の服を着ていた。
その服によって少年の美貌が損なわれることは欠片も無いが、アンバランスになっている事が盗人には不愉快だった。
もう少し手入れしたら極上の美しさになるだろう。
悪魔が潜むと呼ばれる歴戦の悪辣さえも通らない七番小路に、それこそ普段着を着た気安い姿で少年が居ることの不自然さも気にならぬほどに盗人は少年に魅了されていた。
少年は自らに魅了されて動けない盗人に近づくと、的確な動作で手にしたナイフを使い盗人の命を終わらせた。