吸血鬼と魔王様
夕です!
「そうだ!」
建物の陰でヴィストは大声で言った。
「……っと、見つかる、見つかる」
自分で突っ込んで、ケタケタ笑う。
「一緒にいるからだ、あいつらが。1人ずつに分ければいいのだ!」
そしてもう一度ケケッと笑うとフードを被る。
翼も引っ込める。
「まずは…やっかいな黒髪からだな」
その頃、寮では…。
「っくし!!……」
カナタは大きなくしゃみをした。
「どした、カゼか?」
「さぁ…川に入ったからか?」
「かもな」
やっぱりみんなぼくの部屋に集まっていた。
「みんなーっクッキー焼けたよー」
バカ親父が両手に一皿ずつ大盛クッキーを持ってくる。
『わーい!!』
ぼくとカナタを除く3人の反応はこんな感じ。
「ウゼー」
ぼくはもちろん親父をギロッと睨む。
カナタは…
「……………」
何故かさっきから、黙り込んでいる。
「カナタ?」
「うん?何だ?」
「…別に」
「なんだよ」
またカナタはぼーっと何かを考え始める。
変なの。
『ごちそーさま!!』
「あ?もう食ったのかよ」
ガネルがへへっと笑う。
「リュカの親父さんって料理上手いよなー」
「そうよね」
「おいしかったです」
3人は口々にお礼を言って、親父は得意気に、また作るねーとか言ってる。
作んなくていーから。
再び、カナタをチラッと見るが、壁に寄りかかって真剣な表情をしていた。
~カナタside~
「じゃ、俺達帰るから」
手を振って、ガネル、レナ、リルは自室へ帰っていった。
「んじゃな」
俺も帰るか。
バタンとドアを閉める。
さーて、行くとするか。
あんのバカのとこへ。
「(ヴィスカ…?あれ、ヴィルド?…ビスコ?)あー何だっけ」
それにしても、なんで魔族がここにいんだ?
隣の部屋に入る。
そしてそのまま窓へ。
「よいしょっと」
窓枠に飛び乗り、魔武器を出す。
背中に【漆黒】…黒い翼が現れる。
「行くか」
ポンと窓枠を蹴って空中に飛び出す。
【漆黒】を羽ばたかせ、4階分の高さから、ふわっとなんなく着地した。
「せいこーう」
【漆黒】をしまう。
「よっしゃ、ビスコ捜そっと」
と、言ったものの…
「私はヴィストだっ」
「あ」
近くの木の上から、声が聞こえて殺気を感じた。
「し…しまった!!やるな黒髪、私を騙すとは…!」
「……………。(あ、そーだ。ヴィストだ)」
ヴィストは木の上からバッと飛び降りてきた。
まだフードを被っている。
翼もしまったまま。
「お前が1人になったところを始末してやろうと思っていたのだが…」
どこからかギオウがやってきて、肩に乗った。
『カナタ、こいつ馬鹿なのか?』
「あぁ」
『我もそう思うぞ』
あーぁ、ギオウにも言われてら。
「全ては…魔王様のために…」
「なぁ」
「なんだ?」
「とりあえず、場所変えないか?見つかるぞ」
ヴィストはようやく気づいたらしく、慌ててフードをさらに深く被った。
「転移でさ、森の辺りまで行こーぜ」
「わ、わかった。……逃げるなよ?」
「逃げるか。“───時間を繋ぎ我を導け───《転移》”」
先に詠唱して転移する。
後からヴィストがついてくる気配がした。
in森。
「ほう、ちゃんと来たようだな」
何故かビクビクしているヴィストが後ろから現れた。
「そりゃ来るだろ。ビスコと話してーし」
「ヴィストだ!!」
かるーくスルーする。
そしていきなり本題に入る。
「で、ヴィストはなんで俺を殺そうとしてるワケ?」
少し殺気を強くする。
ヴィストはビクッとなる。
「もちろん…魔王様のためだ」
「魔王様のためって?」
「それは…いいのか?言って、いいよな?私に殺されるだし…この世界に次期神が逃げ込んだらしくてな。そいつを処分するのだ。私達、魔族の王…ヴォルテス様のために…」
ブッ…と少し吹き出しかける。
……おもしれぇー。
「ヴォルテスってどんなやつ?」
「様をつけろ!!……それが私は知らんのだ。“魔王”というくらいだから…マッチョなんだろな」
「…ふ…ふぅん…」
マッチョねぇ…。
「じゃあ…強いのか?」
「当たり前だ!!私では適いもしないほどにな!!」
フフフフ…と笑う。
「ど、どうした」
今度は木の後ろに隠れそうなくらいビクッとする。
「じゃ…試してみるかぁ?」
「は…はい?」
にぃぃぃっこり笑う。
「俺が魔界の王、カナタ・ヴォルテス様だよ」
次は秋雨さん!