第5章――敵か、味方か?
誰が敵で、誰が味方か――まだ分からない。
オーラに満ちた世界で、彼女だけが沈黙している。
焚き火の光の外で、闇がこちらを値踏みしている。
生き残るのに要るのは力だけじゃない。見抜く心と、退かない一歩だ。
その瞬間、サミの言葉を聞いたジョンの背筋を冷たいものが走った。
何かがおかしい。
なぜあの男がニナのことを知っている?
落ち着こうとしたが、うなじに冷や汗が静かに伝う。顔には小さな強張りが浮かび、緊張を隠しきれない。
観察していたサミが、穏やかな声でかすかに笑った。
— 落ち着け、坊主……もし俺に悪意があるなら、とっくに襲っている。だが今は、お前たちが何者かを知る方が面白い。
常に用心深いチップが、すかさず言った。
— もし俺たちが面白くなかったら?
サミは冷ややかな、引き締まった視線で答えた。
— そうだな……知りたくはないだろう。
ジョンは唾を飲み、核心に踏み込むことにした。
— でも……どうしてニナがAIだと分かった? それに、AIのことをどうやって知った?
サミは腕を組み、空を一瞬見上げてから、軽く「ああ」と息を吐いて話し始めた。
— なるほど、ここに来たばかりなんだな……よし、少し説明しよう。
俺は旅人だ。この世界を端から端まで歩き、誰も信じないようなものを見てきた。調べ、戦い……生き延びてきた。
だからこそ、“オーラ”——あるいは“気”と呼ばれるものを使える。
それで他人の意図や力、動きまで読み取れる。
面白いのはここからだ。この世界のあらゆるものはオーラを放つ。すべてだ。
サミはニナをまっすぐ見て、より真剣な調子で言った。
— だが彼女は……まったく何も発していない。まるでブラックホール、完全な真空だ。
意図も感情も、エネルギーとしての存在の痕跡すら読めない。
サミは腕を組み、続けた。
— ここミルジョーネでは、動物、魔物、人間、さらには一部の魔性植物に至るまで、すべてがオーラを持つ。
そのオーラは種別、力量、年齢、さらには知性まで映し出す。
例えば——(ジョンを指さし)お前のオーラは、鍛え上げられた若い成人のそれに近い。頭の回転も感覚も鋭い。お前が見せている通りだ。
— それに対して、俺がこれまで見たAIの多くは、ごく弱い、新生児のようなオーラを帯びていた。
弱いが、確かに在る。
サミは一拍置き、もう一度ニナを見た。
— だが彼女は……まだ「生まれていない」かのようだ。
オーラゼロ。存在感ゼロ。何もない。
だからこそ、彼女がAIだと判断した——しかも、他とは違う。
ジョンは黙ったまま、サミの言葉に耳を傾けた。
— AIについてだが……お前たちが最初じゃない。持ち主と共にいる個体を、これまで何度も見てきた。
発端は、俺たちが**「Xの日」**と呼ぶ出来事だ。
— 「Xの日」ってどういうことだ? — ジョンが驚いて尋ねた。
— 落ち着け。最後まで聞け。
お前たちの世界で、どこかの時点で何かが大きく狂った……
稼働中のAIはすべてこちらへ転送された。だが単独ではない——各AIにつき、ただ一人が一緒に来た。まるで、この世界でそのAIの面倒を見る責任を負わされたかのようにな。
たいていは企業に直接関わるプログラマやエンジニア、オペレーターだった。
もし一般のユーザーまで来ていたら、この世界は人で溢れていただろう。
ジョンは目を見開いた。
— じゃあ、俺の世界の人間が他にも?
— ああ。だが厄介なのは、誰もが同じ日、Xの日を口にするのに、ここへ現れる時期はバラバラだということだ。
最初の一人は百年ほど前……その後も、間隔は完全に不定だ。
ジョンはチップを見てから、再びサミに向き直った。
— じゃあ、なぜチップはAIのことを聞いたこともない?
サミは肩をすくめた。
— 誰もが知っているわけじゃない。
AIにも人にも種類があり、派閥もある。
多くは閉鎖的で、外部に情報を出さない。
一般人が触れられるものじゃない。
— それじゃ、どうしてこの世界の技術はこんなに遅れてるんだ? — とジョン。
サミは横目で見て、謎めいた笑みを浮かべた。
— それはタブーだ。
自分で確かめるんだな——(小さく笑い)もう雑談は十分だ。先へ進もう。歩きながら自分の目で確かめろ。
ジョンとチップは顔を見合わせた。
— ちょっと待て……「一緒に行く」ってことか? — とジョン。
サミは笑った。
— もちろんだ。面白いものを探していると言っただろう……
お前のAIは、長らく見た中で一番謎めいている。
読めない相手がどこまで行けるか、見てみたい。
ジョンは人食い兎の死骸に目を向けた。
— それで……こいつ、起きないよな?
サミは笑い声を上げた。
— 死んでる。
— いや、嘘だ! — とチップ。— 頭を叩いただけだ。気絶してるだけだろ。
サミは平然と答えた。
— 俺の特技《Lança Penetrante》を使った。
皮や外側の骨を傷つけず、内側から脳を穿ち、潰す。
この生き物の部位は価値が高い。無駄にはしない。
ジョンは目を見張った。
— 棒一本で……脳を潰したのか?
サミは微笑むと、ナイフを抜き、正確な手つきで兎を解体し始めた。
心臓の近くから小さな魔核を取り出す。淡い茶色で、不透明だ。
— ふむ……これは中位だ。
色が明るくなり、鮮やかで透明度が上がるほど、格は高くなる。
そうだろう、商人殿?
チップは思わず跳ねて、ほとんど反射で答えた。
— そ、そう! 魔核は主に色、輝き、そして優勢属性の三つで格付けされる!
彼は渋々ながら、息を整えて説明を続けた。
— この世界には六つの属性がある:火、水、風、土、光、闇。
それぞれに対応する色は、火=赤、水=青、風=緑、土=茶、光=金、闇=黒。
— そして同じ色でも、品質は明度と輝きで決まる。
魔物が強ければ強いほど、核は明るく、より透明になっていく。
おおよその目安は——
暗く不透明:下位
暗色でわずかに光:低位
中間色で無光沢:中下位
明るいがまだ不透明:中位
明るく鮮やか:中上位
鮮やかで恒常的な輝き:上位
ほぼ透明で鮮やか、内側から発光:最上位
チップは真顔になった。
— 最上位の核は……伝説級の魔物にしかない。例えば古の竜。
手に入れるには軍隊が要るし……それでも、生きて帰れるとは限らない。
サミがためらいなく解体を続ける間、チップは硬直していた——彼は肉を食べない。
一方、ジョンは平然としていた。将軍の訓練で既に経験しているのだ。
やがて頭部に達すると、内側から脳が潰れているのがはっきり分かった。
その技の正確さは、息をのむほどだった。
解体を終えると、サミは皮と価値のある部位を分別し、魔法の鞄に収めた。
周囲から枝や薪を集めて焚き火を起こし、塩と手持ちの香草で肉を下味。
兎を仕留めた同じ棒に肉を刺し、地面に固定した木製の三角支柱を二つ立てて棒を渡し、回転焼きの要領で炙る。
単純だが、理にかなった仕組みだ。
香りが一帯に広がる。
ジョンは焚き火の方へ目をやった。煙は細く立ち、腹が鳴る。
空腹だった。焼ける肉の匂いが容赦なく襲う。
チップは顔をしかめた。
— 気持ち悪い……。俺は死んだものは食べない。
自分の鞄から木の実とドライフルーツを取り出し、大きな葉の上に並べる。
— こっちが本物の食べ物だ……
サミが黙々と段取りを整えている間に、ジョンはチップとニナを脇へ呼んだ。
— あいつ、どう思う? 一緒に来てもらってもいいか?
ニナは焚き火を見つめ、それから答えた。
— 分からない。
まだ自分の感情がよく分からないし、どう振る舞うべきかもはっきりしない。
私は今、こういう出来事の「体験」を学んでいる途中。
感情が固まっていないから、明確な基準は出せない。
一呼吸おいて、淡々と続ける。
— でも、心理学や他の知識で分析するなら……彼は相当つらい過去を持っている。
何もかもへの興味を失い、「面白いもの」だけを探す人は、たいてい何か大切なものを失っている。
空洞が残っているの。
ジョンは視線を落とした。
その言葉は深く刺さった。
両親を失った日。
葬儀。
親族。
支えではなく、争いだけがそこにあったこと。
それでも、ニナはそばにいた。
軍曹タナカも、ときどき顔を出してくれた。
ジョンは完全な独りではなかった。
それでも——裏切りの記憶は消えない。
信じた者に裏切られたこと。
そして、両親に起きたこと。
ジョンの目は、さらに重く沈んだ。
空気が張りつめ、沈黙が落ちる。
チップが口を開いた。
— 俺が助けたんだぞ。お前が誰かも知らないままでな……
少し俯き、ほとんど聞き取れない声で囁く。
— まあ……ニナがいたからだけど……
気まずさを隠すように、控えめに笑った。
ジョンは数秒見つめ、それから息を吐いて、微かに笑った。
— 世話になった……助けてくれて、ありがとう。
チップは小さく跳ね、得意げに言う。
— 俺の価値が分かればそれでいい。
そして声を落として近づいた。
— あいつを活用しよう。強いし、ニナに興味津々だ。
AIや人間のこと、もっと色々学べるはずだ。
ジョンはしばし沈黙し、やがてチップを真っ直ぐに見た。
— ふん……やっぱり商人らしいな。
チップは胸を張った。
— 当たり前だ。
話を終えると、三人は焚き火へ戻った。サミは肉を見ながら、軽く微笑む。
— もうすぐ焼き上がる。
ジョンは一歩前に出た。
— 相談した。もしよければ、一緒に来てくれ。友達として。
兎を倒すときも助かったし……君がいてくれると心強い。
サミは数秒見つめ、顎に手を当てた。
— いい話だ……だが一つ問題がある。
ジョンは眉をひそめた。
— 問題?
— 俺は最初からお前たちと行くつもりだった。
だが、お前たちはこの世界で生き残れるのか?
ジョンは黙り、戸惑う。
— どういう意味だ?
— この世界を知りたいなら、強くならなきゃいけない。
外にはお前たちを殺すものがいくらでもある。
俺は一人でも守れる。だが——お前たちは?
俺の興味はニナにある。
お前たち二人は……何を示せる?
ジョンは言葉を失い、チップも沈黙した。
サミは鞄から鉄の簡素な剣を取り出し、ジョンの足元へ放った。
— いい機会だ。
ジョンはまだ飲み込めない様子で、それを見下ろした。
サミはチップへ顔を向ける。
— お前は? 何を使う?
チップは戸惑いながらも、鞄から杖を引き抜いた。
その時、茂みがざわめいた。
闇の中に、赤い目が三対、ぽつりと浮かんだ。
サミは腕を組み、平然と言った。
— 二人とも、健闘を祈る。俺とニナはここで見ている。
生き延びたなら……いい仲間になれるだろう。
もし駄目なら——
サミは口元だけで笑った。
— ……運が良いことを祈る。
ジョンは唾を飲み込み、剣を構えた。
チップは両手で杖を握りしめ、冷や汗をにじませる。
赤い眼は、ゆっくりと——静かに——読めない軌跡で近づいてくる。
それが何なのかは、まだ分からない。
だが、確かにこちらへ向かっていた。
ジョン「……なぁチップ。さっきの赤い目、三つ見えたよな?」
チップ「見えた。てか、増えてないことを祈る。」
(サミ)「うふふ……面白くなってきた。」
ジョン&チップ「(ゾクッ)」
(ニナ)「フフフフフ……フアッハッハッハッハッハ!!」
ジョン「やめろ、その笑い方が一番怖い。」
チップ「同感。完全にホラーだ。」
ジョン&チップ「(ぎゅっ…)」
――次回、「最初の戦い」