表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

第2章 ― 未知の世界と不思議な羊

目を覚ました時、そこは知らない世界だった。

なぜ自分がそこにいるのかも分からず、誰も信じられないはずなのに――

「ニナ」の声が、心の奥に火を灯した。


そして、“あの羊”と出会ってしまった時、すべてが変わり始める。

笑ってはいけない。

あれは、ただのマスコットじゃない。

ジョンは突然目を覚ました。頭がズキズキと痛み、目を開けると、見慣れない光が視界を照らしていた。彼は完全に未知の場所に横たわっていた。


遠くから声が聞こえる。


「ほら、目を覚ましたよ」

落ち着いた少年のような声だった。15歳くらいの若者だろうか。


「ジョン……ジョン、聞こえる?」

今度は甘くてどこか懐かしい声。ジョンにはよく知っている声だった――ニナだ。しかし、以前のような人工的な響きではなかった。そこには、感情がこもっていた。


やっとの思いで目を開けた彼の前に現れたのは……羊だった。


「な、なんだこれは!?」

驚きのあまり、ジョンは叫んだ。


それは羊だった。いや、正確には“羊に進化した何か”だった。

身長は一メートル少し、大きな瞳に星型の飾りがついた角。青いマントを羽織り、額には星のシンボル。そして――しゃべった。


「大丈夫? 一週間も寝てたんだよ。疲れ切ってたみたい。もう目を覚まさないかと心配したよ」

羊のような存在は、優しく微笑んだ。


混乱しながら、ジョンは身を起こそうとした。


「ここはどこだ? お前は誰だ? 一体何が起きてるんだ!?」


「落ち着いて、落ち着いて」

その羊――チップは前足を上げて制した。

「僕の名前はチップ。ここは僕の家さ。君を見つけたのは“静穏の森”だったんだ。そこに落ちててね、幸運だったよ」


信じられない思いで周囲を見回すジョンの視界に、ニナが映った。


「なんで……君のホログラムがここに?」


もう一度目を凝らした。だが、これは幻じゃない。ニナはそこに、実際に立っていた。


「ジョン……私は今、本物よ」

表情の少ない、けれどどこか柔らかくなったその目で、彼女は答えた。


何も考えずに、ジョンは立ち上がって彼女を抱きしめた。


「ニナ……ようやくだ」


その様子を見ていたチップは、内心で怒りに震えていた。


(ちくしょう……俺の女神に触れやがって……)

目に憎しみをたたえながら。


だが、ジョンとニナが振り向いた瞬間、チップはニコニコ顔に変わった。


「えへへ……元気そうで何よりだよぉ〜」

甘ったるい声で言う。


ニナはジョンの肩に手を添えた。


「本当に大丈夫?」


「……体が変な感じがする」


そのとき、ジョンは首元にある青いペンダントに気づいた。強く光っている。


「来てからずっと、それが光ってたの」

ニナが言う。


ジョンはそれを手に取り、じっと見つめた。


「これは……誰がくれた? ……でも、なんだかすごく大切な気がする」


すると、光はゆっくりと消えていった。


「ニナ、ここは一体……?」


「正確な位置はわからないわ。動植物も、鉱物も、空気さえも地球のものとは違うの。参照できるデータがひとつもない」


ジョンは目を閉じ、必死に考えを巡らせようとした。


「でも……何が起きた?」


ニナは説明しようとした。科学的で高度な用語を使って。だが、その瞬間――激しい頭痛がジョンを襲った。


彼はひざをつき、息を荒げる。


「うぐっ……頭が……!」


「ごめんなさい! まだ無理だったみたい」

ニナが焦りの表情を見せた。


沈黙。


お互いに顔を見合わせる。


その空気を破ったのは――

ぐぅぅぅ〜〜〜〜っ


ジョンの腹の音だった。


チップが跳ねた。


「ごはんの時間だね! さあ、行こう!」


ニナが微笑んだ。


「……食欲って、こんな感じなのね。知識としてはあったけど、実際に感じるのは全然違うわ」


テーブルには、温かい野菜スープ、新鮮なパン、果物のジュースが並んでいた。


ジョンは座り、微笑んだ。


「……ありがとう。すごく、美味しい」


———


食事の後、ジョンは窓辺へ歩いた。そこから見える森の風景を眺め、どこか懐かしさのような感情が湧いた。


何も言わずにドアを開けると、陽の光が顔に降り注ぎ、爽やかな風が肌を撫でた。空気が澄んでいて、どこか力が湧いてくる。


「……この感覚、久しぶりだ」


バンカーに閉じこもり、研究に没頭していた日々。自由の感覚は、夢のようだった。


ジョンは森へと歩き出した。木々は一見普通に見えたが、近づくと幹が滑らかで金属のように光っていた。


彼は近くにあった斧を手に取り、思いきり幹に振り下ろした。


――ガンッ!


斧ははじかれ、手がしびれてジョンは尻もちをついた。木には、傷一つない。


背後から笑い声が響く。


チップが腹を抱えて笑っていた。


「まさか本気で“静穏の木”を力ずくで切ろうとしたの? ははは!」


ジョンは立ち上がり、苦々しい顔をした。


「じゃあ……頭を使えってことか?」


「半分正解。答えは“マナ”を使うこと。斧にマナをまとわせるんだよ。……ま、君の場合はまず頭突きの練習からかな?」


(……ムカつく)


「じゃあ、お前がやってみせろよ、森のマスターさんよ」


チップは斧を取り、目を閉じた。すると、斧が緑色に輝き始め、軽く振ると――木が真っ二つに割れた。


彼はドヤ顔で斧に寄りかかり、腰に手を当てた。


「ね? 楽勝、楽勝」


ジョンは目を丸くした。


「……なんでこのチビ羊にそんなことが?」


「誰がチビだとぉ!?!?」


「……チビとは言ってない」


「ふん……」


(この羊、明らかに身長にコンプレックスあるな)


———


家に戻ったジョンは、壁にかかった手描きのポスターに気づいた。どれも魔法陣や生き物の図、へたくそな文字が並んでいる。


その横には、乾いた枝がバケツに立てかけてあった。


チップは勢いよく箱に飛び乗り、枝を指揮棒のように振った。


「さあさあ注目! 偉大なるマスター・チップによる魔法講座の始まりだ!」


ジョンは腕を組み、眉をひそめた。


「マジでやるのか……これ……?」


チップは布切れで作った即席の教師コスチュームに着替え、眼鏡をかけて演台に立つ。


「準備万端!」


彼は、魔法の仕組みについて説明を始めた――


魔法を学ぶには、まず幾何学を理解すること。魔法陣は完璧な配置でなければならない。


次に必要なのは、生物学と科学。物質を操作するには、それらの構造を理解する必要がある。


魔法陣は、使用者の魂に刻み込まれる。


完璧な魔法陣ほど、魔法の威力と安定性が高い。


不完全な魔法陣は、マナを暴走させ、術者の身体を壊す。


歪んだ魔法陣で作った火球は、かすり傷程度。でも完璧なものなら、青い炎に雷がまとわりつくほどの威力になる。


上位魔法は、すべての基礎を極めた者のみが扱える。


魔物の核を利用する方法もある。あらかじめ魔法が刻まれた核にマナを流し、簡易発動ができる。ただし、核が魔法に耐えられないと壊れる。


魔法を魂に刻む前は、魔法道具や巻物での使用も可能。


最重要事項――“マナ”を操れること。もしくは体内に核を作り、“バッテリー”として使うこと。


———


ジョンは説明を聞いたあと、魔法を試そうとした。しかし、以前のように頭の中がスッと繋がらない。知識はあるはずなのに、思い出せない。


ニナがそばで説明を加えた。


「これくらい、ジョンなら余裕よ」


……だが、思い出そうとするたびに、視界が歪み、頭にノイズが響いた。


「う……なんだ、これ……?」


――そして彼は、倒れた。


「ジョン!!」


「おい! しっかりしろ!」


二人は急いで彼のそばに駆け寄った。

チップ「よーし!これで“魔法初心者コース”、無事に終了っと!」

チップ「……え、気絶した? やっぱりキミ、根性なしだね〜。もっとチップ様から学ばなきゃ♪」

チップ「強くなりたいなら、まず野菜を全部食べること! ボクみたいにねっ☆」


ジョン「そりゃそうだろ。羊って草食動物だし。だからチビのままなんだよな。へへっ。」


チップ「だ、誰が成長しないって!? チビでも! ちょっとずつ伸びてるんだぞぉ!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ