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第17章 ギルド初任務

初めての任務。

それは栄光への第一歩――

……のはずだった。


剣を握り、心を燃やし、夢を語る。

だが現実は、臭くて暗い下水道。


英雄の道は、意外と泥臭い。


グレイソン邸での晩餐が終わったあとも、四人は夜遅くまで語り合っていた。

笑い声と食事の香りがまだ残る中、それぞれがこれまでの出来事を振り返る。


チップは例によって、少し大げさに話を盛っていた。

「それでね! 森の中でこのジョンを見つけたんだ。もう全身ボロボロで、ゾンビみたいだったぞ!」

「おい、ゾンビ扱いすんな。」ジョンが腕を組む。

「えへへっ、細かいことは気にしない! 大事なのは、英雄チップ様が救ったってことだよ!」


そんな冗談交じりの会話が続いていたが――

ジョンがサミとの出会いを語り出した瞬間、空気が変わった。


レオニダスとレオンが視線を交わす。

「……お前たちもAIのことを知っているようだな。」

重々しい声が響く。

そしてレオニダスはゆっくりと、黙って座っていたサミに目を向けた。

「旅人よ。貴様はいったい何者だ?」


サミはワインのグラスを置き、足を組み直した。

「俺の名は――サミ・ロックハート。」


その名が響いた瞬間、場の空気が止まった。

ジョンは眉を上げ、チップは思わずむせる。

レオンとレオニダスは、まるで何かを思い出したように顔を見合わせた。


「ロックハート……?」

「聞き覚えがあるな……。」


サミは軽く笑った。

「ただのよくある名前ですよ。気にしないでください。」


レオニダスは顎に手を当て、じっと見つめる。

「しかし、貴様はプラチナ級の冒険者だ。なぜこの三人のような初心者と行動している?」


サミは静かに微笑む。

「……俺は長い間、放浪者として世界を旅してきた。戦闘術や武術を学びながらな。

 冒険者ランクを上げたのは単なる利便性のためだ。上位ランクには恩恵が多い。

 住居も食事も無料、魔物の素材の買い取り価格も高いからな。」


「ふむ……なるほど。」レオニダスは頷く。

「だが、それでも納得はできん。なぜ彼らと旅を?」


サミはジョンたちを一瞥し、静かに言った。

「――俺は、ニナに興味がある。」


沈黙。


「わ、私に?」とニナが首をかしげる。

「そうだ。これまで何体かのAIに会ったが……君のような存在は見たことがない。

 君には“オーラ”がまったくない。まるで存在していないかのように。」


レオンとレオニダスが目を細める。

「確かに……」

「生命の気配が一切感じられん。不思議なものだな。」


サミは軽く頷いた。

「だからこそ、俺は彼女を見届けたい。それが理由だ。」


重い空気を破ったのは、チップだった。

「な、なるほど! つまり先生は、ニナちゃんを研究してるってことね!」

「……まあ、そんなところだ。」とサミが肩をすくめる。

「分解とかしなけりゃいいけどな。」ジョンがぼそりと呟く。

「分解……?」ニナが不安そうに瞬きをした。


――場が一気に和やかになった。


そのタイミングで、レオニダスが手を叩いた。

「さて、そろそろ本題に入ろう。お前たちは今日から正式な冒険者だ。ギルドの仕組みを教えておこう。」


立ち上がった彼は、低く響く声で説明を始めた。

「ギルドの等級は六段階――真鍮しんちゅう・鉄・銅・銀・金・白金プラチナ

 任務をこなし、功績を積めば昇格できる。ただし、昇格には再度試験が必要だ。」


そう言って、レオニダスは三枚の金属板を差し出した。

「お前たちは当然、一番下の真鍮級からだ。」


ジョンは手に取った。

それは小さな四角いプレートで、中央には竜を中心に剣・槍・弓が刻まれていた。

チップは横目でサミのものを見て叫ぶ。

「ねぇ、先生のはなんで違うの!?」


サミは自分のプレートを見せた。

そこには槍の周りで舞う竜の紋章。

「プラチナ級になると、得意分野に応じて紋章が変わる。俺のは“竜槍のりゅうそうのまい”。」


「かっこよすぎる!」チップの目が輝く。

「要するに、有名になるとプレートも特注になるってことか。」ジョンが肩をすくめる。

「その通り。」サミが微笑む。


レオニダスがニヤリと笑った。

「では――お前たちに最初の任務を与えよう。」


三人が姿勢を正す。


「マルシカ市の下水掃除だ。」


「……えええええええっ!?」チップが絶叫した。

「おれ、英雄志望なんですけど!?」

「英雄も下積みは大事だ。」レオニダスは愉快そうに笑う。

「三日以内に終わらせれば、鉄級に昇格だ。」


ジョンは苦笑いしながら立ち上がった。

「最初の一歩ってやつだな。」

「ふん、仕方ない! ボクのマジックバッグはいつでも準備OKだ!」

「任務、受諾しました。」とニナ。


サミも立ち上がる。

「今回は俺も同行する。だが手は出さん。訓練の一環として見届ける。」


レオニダスは頷く。

「うむ。同行者――プラチナ級冒険者、サミ・ロックハート。

 ジョン、ニナ、チップの三名、真鍮級として初任務に挑む。」


「ロックハート……」とレオンが呟く。

「やはり聞き覚えがあるな。」

「私もだ。」レオニダスが目を細める。

サミは軽く笑った。

「ただの名前ですよ。」


「……ふむ、まぁいいだろう。」

レオニダスはテーブルを軽く叩いた。

「では――健闘を祈る。」


――夜のマルシカ。


静かな街を抜け、四人は石畳の裏路地にある階段を下っていった。

下水道の入り口。暗く、湿った風が吹きつける。


「ひぃぃ……ここ本当に入るの?」チップがランタンを震わせる。

「文句言うな、行くぞ。」ジョンが前を歩く。

サミは無言で先導し、ニナが青い光球を浮かべて足元を照らした。


――ぽちゃん、ぽちゃん。


水滴の音が響く。

何も起こらない。ただ、妙に静かすぎる。


その時――


闇の奥で、赤い二つの瞳が光った。


フードをかぶった影が、動かずに彼らを見つめている。

まるで獲物を狙う獣のように。


……そして、誰一人として――サミでさえ――その存在に気づかなかった。

チップ「うぅぅ……なんでボクの初任務が“下水掃除”なのさぁ!」

ジョン「おい、英雄志望なんだろ? 現実を見ろ、羊。」

チップ「現実なんて見たくなーいっ! せめて“伝説のトイレ”って名前にしてよぉ!」

ニナ「それはただのトイレです。」

チップ「ぐはっ……!」


ジョン「ま、せいぜい頑張れよ。俺は上の空気吸ってるから。」

チップ「サボる気満々じゃん!」

ニナ「ジョン、逃げたら報告します。」

ジョン「おい、それは裏切りだぞ!」


チップ「ふっふっふ……ボクのマジックバッグの中には、最終兵器“消臭ハーブ”があるのだ!」

ジョン「それ一番必要なのはお前だろ。」

チップ「な、なんだとぉー!?」


――チップは得意げにハーブの瓶を取り出した。

だが次の瞬間――


「……あっ!!」


ツルッ! ポチャン。


瓶が滑って下水の水に落ちていった。


チップ「ボ、ボクのハーブぅぅぅぅ!!!」

膝から崩れ落ち、涙目で水面を見つめるチップ。


チップ「……次回、“フェドール”……!」

ジョン「違ぇよ、バカ。第十八章“マルシカの下水道”だ。」

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