第16章 ギルドマスター
強さとは、力ではなく――
守る者を想う心に宿る。
だが、その心を試すのが“血”ならば……
逃げ場など、どこにもない。
ギルドの奥へ進むにつれ、ジョンたちは明るく照らされた長い廊下を歩いていた。
壁には盾や武器が飾られ、ジョンは思わず目を見張った。
それは松明ではなく、壁に埋め込まれた菱形の石が放つ光――まるで魔力で動く“ランプ”のようだった。
「これ……普通の技術じゃないな」とジョンは呟いた。
廊下の突き当たりに到着すると、彼らは幅の広い階段を下り始めた。
その先で――重厚な気配が迫ってくる。
そして、姿を現したのは一人の老人。
いや、“老人”という言葉では足りない。
それはまるで、人の姿をした神獣。
灰色に混じった立派なたてがみ、顔の一部を編み込んだ髪。
鼻筋には古い傷が走り、赤く燃える瞳はすべてを見通すようだった。
その存在感だけで、サミでさえ思わず息を呑む。
――彼こそが、レオニダス・グレイソン。
チップの祖父であり、伝説のギルドマスター。
その厳しい表情が、チップを見た瞬間――ふっと崩れた。
次の瞬間、神速。誰もその動きを目で追えない。
気づけば彼は、チップの目の前に立っていた。
空気が震え、全員の背筋が凍る。
だが――
「わしの孫が帰ってきたああああ!!」
豪快な叫びとともに、レオニダスはチップを抱き上げ、
勢いよく宙に放り投げ、そのまま抱きしめながらくるくると回った。
「や、やめてよ! 恥ずかしいからぁぁぁ!」
チップは必死にもがき、顔を真っ赤にする。
完全に“溺愛じいちゃんモード”だ。
少し後ろからレオンとローガンが歩いてくると、
レオニダスは満面の笑みで二人に声をかけた。
「おお! ようやくわしの小羊を見つけたか!」
そう言いながらローガンを抱きしめ、レオンの肩をバンバン叩く。
説明を終えると、レオニダスはチップの頭を撫でながら頷いた。
「なるほど……そういうことか。――よし、話は後だ。試験を始めよう!」
部屋の中央には、地面に突き刺さった巨大な金属の棒が立っていた。
高さ二メートル、直径一・五メートル。
「まずはこの柱を全力で叩け。力を見せてみろ!」
ジョンが一歩前に出て、剣を抜く。
全力で斬りつけるが――金属はわずかに欠けただけで、すぐに再生した。
「……マジかよ。」
次にニナの番。
彼女は二本の短剣を構えた。
誰も彼女の戦う姿を見たことがない。ジョンも息をのむ。
ニナは静かに地面を蹴り、角度と速度を計算。
身体をひねりながら、二本の刃でクロスカットを放つ。
金属の柱から二枚の破片が飛び、再生が遅れた。
「す、すごい……」とジョンが呟く。
そして、チップの番。
しかし――レオニダスはチップを抱いたまま放さない。
「じいちゃん、ぼくもやってみたい……」
「ははは! わしの孫が一番強いに決まっとる!」
そう言うと、レオニダスはチップの手に剣を握らせた。
「集中して、体と剣にマナを流せ!」
「む、無理ぃ! 自分でやるからぁ!」
「甘えるなぁぁぁ!!」
レオニダスはチップを首根っこから掴み、渾身の力で投げた。
「うわああああああっ!!」
チップは空中で風魔法を展開し、衝撃を減らす。
そのまま体と剣にマナを流し、一閃!
ドンッ!!
金属柱に深い切れ込みが入り、再生まで数十秒を要した。
「ず、ずるだろそれ!」
「ずるじゃないもん! 死ぬかと思ったぁぁ!」
涙目で抗議するチップ。
ニナが柱に触れ、淡々と呟いた。
「検出:鉄、アルミニウム……未知の物質を含む。分析失敗。第一候補、タングステン。確率30%。」
「タングステン……聞いたことあるな」
ジョンが眉をひそめる。
レオニダスは胸を張って叫んだ。
「これがわしの孫だ! 偉大なるレオニダス・グレイソンの血を継ぐ者!」
そして笑顔で続けた。
「では次の試験だ。――魔物を倒せ!」
檻から三匹の巨大なネズミが飛び出した。
犬ほどの大きさで、鋭い牙と赤い目を光らせる。
個々は弱いが、群れると厄介なタイプだ。
ジョンは即座に構え、将軍タケダとの訓練を思い出しながら冷静に動く。
一匹を一撃で斬り倒した。
続いてニナも二匹目を仕留める。
最後の一匹はチップの前に立ちはだかった。
だが、その背後から祖父の視線――プレッシャーという名の殺気が突き刺さる。
「うう……やるしかないっ!」
チップは叫び、突進。恐怖に耐えながらも見事に仕留めた。
「よくやった!」
レオニダスは満足げに頷いた。
「さあ、今夜は宴だ! 明日の朝、結果を発表する!」
階段を上る途中、サミがぼそりと呟く。
「うーん……俺、結局なにもしてないな。」
こうして、笑いと汗と涙の試験は終わりを告げた。
ギルドの奥で、伝説の男――レオニダス・グレイソンが静かに笑っていた。
チップ「ふぅ……やっと終わった……。明日、結果発表だけでいいよね?」
レオニダス「いや、明日は“本番”だ。朝五時から“グレイソン流特訓”開始だ!」
チップ「うわあああああ! それだけは嫌ああああ!!」
ジョン「なんだその“特訓”……名前からして悪夢だな。」
サミ「ははっ、見ものだな。俺は見学でいいや。」
ニナ「記録モード、オン。――“チップの悲鳴”、保存完了。」
チップ「やめてぇぇぇ!! ぼくのプライバシーぃぃ!!」
レオニダス「……冗談だよ。――いや、冗談じゃないかもしれんがな。」
チップ「……こ、怖い。」
――次回、第17章『ギルド初任務』




