第15章 冒険者ギルド
人は仲間と歩む時、
力だけでなく「絆」を試される。
新たな道の扉が開く場所――
そこが、冒険者ギルド。
グレイソン家の屋敷に、再び笑いと混乱が戻ってきた。
四人の雌ライオンたちは、チップを抱きしめて離さない。可愛いフリルとリボンをつけた服を無理やり着せようとして、彼は必死に抵抗していた。
ジョンもニナもサミーも、そしてアンソニーさえも、今の光景を見て笑いをこらえている。
だが、四姉妹の鋭い眼光が一斉に向けられた瞬間、空気が凍りついた。
――「笑ったら、喰われるぞ」
そう言わんばかりの殺気。
誰も止めようとしない。レオンでさえ腕を組み、無言で様子を見ていた。
やがて、低く重い声が響く。
「……お前たちも分かっただろう。あのバカ息子の過去を知った以上、理解できるはずだ。
あいつは違っていても――いや、むしろ誰よりも愛されている。」
父の声には圧倒的な威厳が宿っていた。
「もしチップを傷つける者がいれば、グレイソン家の怒りを受けることになる。」
その言葉に、空気がさらに重くなる。
リボンまみれのチップは必死に逃げながら叫んだ。
「い、今はやめてくれぇ! ジョンやニナ、そしてサミーに出会って……俺はもう一度ヒーローになりたいんだ!
短い時間だったけど、何かが胸の奥で燃え始めた! 死んでた夢が……もう一度、生き返ったんだ!」
涙を浮かべながら叫ぶチップに、姉たちは悲しそうな顔をした。
「だめよ、チップ! あなたは私たちの子羊なんだから、休まなきゃ!」
「逃がさないんだから!」
チップは全力でジャンプして距離を取る。
「母さん! 今までの訓練で分かってるだろ!? 俺は行かなきゃならないんだ!」
イリアは優しく、それでいてどこか誇らしげに息を吐いた。
「……そうね。私の子供たちはみんな自由。愛していても、縛ることはできない。
あなたは“捕食者”の家に生まれた子。だからこそ、私はあなたを他の兄弟たちと同じように鍛えたの。
信じてるわ、チップ。あなたなら大丈夫。」
一瞬の静寂のあと、イリアはにっこりと笑った。
「でも――まずは一つ、やってもらうことがあるの。」
「……え?」
「あなたの仲間と一緒に、冒険者ギルドに登録してきなさい。」
「ちょ、ちょっと待って! それは――」
「それとね、いいニュースがあるのよ。」
イリアは意味深に微笑んだ。
「あなたが家を出た後、おじいちゃんはとても寂しがってね。軍を退役して、今は冒険者ギルドのギルドマスターをしているの。」
「……は?」
「あなたを探すために、活動範囲を広げたんですって♪」
ぞくり。
チップの背筋を冷たい汗が流れる。
「ヒ、ヒーローの人生って……マジで休む暇ねぇな……! 商人に戻るわ!!」
逃げ出そうとしたその瞬間、魔法の鎖がチップの体を縛った。
イリアの声は静かだが、サミーですら背筋を伸ばすほどの圧を感じた。
「約束したでしょう? “家の名を汚すな”って。責任を果たしなさい。」
「ひ、ひぇ……イエス、モン……」
返事をした瞬間、イリアはいつもの優しい母の顔に戻った。
鎖で拘束されたままのチップに、クッキーとお茶を差し出す。
「はい、あ〜ん♪」
ジョンは噴き出しそうになりながら呟いた。
「こ、これはもうコメディの域だな……」
ニナがメモを取る。
「説得プロトコル、非常に効果的。」
その瞬間、部屋中に笑い声が響いた。
しばらくして、レオンが立ち上がった。
「よし。俺も同行しよう。父上に用がある。」
ちょうどその時、ノックの音がして秘書が入ってきた。
「失礼します。チップ様、木材の代金をお持ちしました。それと……そういう趣味がおありとは知りませんでした。」
「ち、違うんだ!!」
「データ更新完了。チップの嗜好を登録。」
「やめろぉぉぉ!!!」
再び爆笑。
――そして数刻後。
一行はマルシカの街にある巨大な冒険者ギルドへと到着した。
人々が出入りし、クランの旗が揺れ、冒険者たちが酒を飲み笑い合っている。
まさに活気の中心。
だが、グレイソン一家が入った瞬間、空気が一変した。
「グレイソン家だ……!」
「大陸最強の一族が来たぞ……!」
「王国軍の中枢を担う家系……!」
周囲がざわつく中、ジョンは隣のアンソニーに尋ねた。
「そんなに有名なのか?」
「当然だ。だが我々と並ぶ勢力がもう一つある。ラカティ家――人間の一族だ。」
「人間……?」
「能力と規律では互角だが、身体能力では我々の方が上だ。
だからこそ、我々は“オーラとマナ”を同時に鍛える。もし遺伝がなければ、実力はほぼ同等だろうな。」
「……すげぇ世界だな。」
ジョンが感嘆の息を漏らすと、受付嬢が彼らに声をかけた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ! 本日はどのようなご用件で?」
レオンが堂々と答える。
「この三人を登録してほしい。チップ・グレイソン、ジョン、そして――ニナだ。」
受付嬢が名簿を書きながら顔を上げた。
だがジョンは、ふと気づいた。
ニナには、まだ“姓”がなかった。
数秒の沈黙。
彼の脳裏に、研究所の光景と共に懐かしい名が浮かぶ。
――プロジェクト・ソラリス。
両親と共に過ごした日々、その名が今も胸の奥に刻まれていた。
静かに微笑み、ジョンは口を開いた。
「彼女の名前は……ニナ・ソラリスだ。」
「承知しました。では、お客様のお名前は?」
「ジョン・ショウトク。」
受付嬢は満足そうに頷く。
「登録完了です。ただし、正式なランクとクラスを決定するため、テストを受けていただきます。」
ジョンとチップは顔を見合わせた。
「……嫌な予感しかしねぇ。」
二人の声が重なり、ニナが小さく首を傾げる。
「新たなトラブル、予測確率92%。」
チップ「うぅ……やっぱり、逃げればよかったぁ〜!」
ジョン「もう遅い。お前の“じいさんボス”が待ってるぞ。」
チップ「や、やめてぇ! “ギルドマスター”って聞いただけで胃がキリキリするんだよぉ!」
ニナ「心拍数上昇、冷や汗確認。チップ、完全にトラウマ反応。」
チップ「トラウマじゃないっ! “生存本能”だよ!!」
サミー「……ふっ。まぁせいぜい頑張れ、英雄様。」
チップ「誰が英雄だって!? オレはただの羊だぁ〜!!」
ジョン「じゃあ次回は――“チップのじいちゃん登場”か?」
チップ「ちがぁーうっ!! “第16章・ギルドマスター”だってばぁ!!」




