表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

第13章「チップの過去・第3編

眠りは甘く、夢は短い。

そして――朝は、容赦なく訪れる。


痛みで目覚める朝ほど、

勇者にとって“地獄”はふさわしい。


今日もまた、小さな羊に試練の時がやってくる。


朝日はまだ昇りきっていなかった。

小さな羊男チップはベッドの上で気持ちよく眠っていた。

――その平穏は、一瞬で終わった。


バァァァン!!


部屋のドアが爆音と共に吹き飛び、壁ごと消し飛んだ。

その残骸の中から、黒いフードをかぶった男が全力疾走で突っ込んでくる。


「えっ……ちょっ、なに――」


ドゴォッ!

木の剣がチップの脇腹に突き刺さった。


「ぎゃああああああっ!!」


その衝撃でチップは二階の窓から吹き飛び、庭の芝生にダイブ。

転がりながら、体に冷たい液体がかかる。――回復ポーションだった。


傷はすぐに癒えた。

……が、痛みはまったく消えない。


「いったぁぁぁぁぁ……! な、なにが起きてるの!?」


フードの男がゆっくりと着地する。


「……ふむ。勇者がこんなに無防備でいいのか? いつ暗殺者や魔物が襲ってくるか、わからんのだぞ?」


「はぁ!? なに言って――」


「油断したら、即死だ! 身をもって覚えろ!」


「身をもって覚えろって、文字通りじゃないよね!?」


男はフードを外すと、無駄に風が吹き、どこからか雷鳴が響いた。


「これより――お前の兄ではない! オレは……マスク・レイダー!!」


「マスク……なに!?」


「命がけで走れぇぇぇぇ! 命がけでな!!!」


――そして地獄が始まった。



「ひぃぃぃっ! ま、待って! もう足が!」

「勇者が息切れとは情けない! 走れ! 走って! 走って! 走れぇぇぇ!!!」

「死ぬぅぅぅぅ!!」


バシィン!


また木の剣が飛んできた。

チップは涙目で走り続け、息を切らし、何度も転びながらも立ち上がる。


限界を迎えるたび、マスク・レイダーはポーションをぶっかけた。

傷は治る。……だが、疲労は消えない。


「み、水……ごはん……」

「水? 飯? 走りながら飲め! 英雄は止まらん!!」


二時間後。チップの足はプルプル震えていた。

五時間後。もはや目がうつろ。


「……ボク、たぶんもう死んでる……」


パシィン!


頭に木剣直撃。


「誰が休めと言った!?」

「うわぁぁぁん! 鬼ぃぃぃ!!!」

「腹筋200回、腕立て200回!」

「悪魔ぁぁぁぁ!!!」

「1000回だ! 聞き間違えた!」


十時間後、チップはミイラのようにフラフラになっていた。

「……もう……終わった……?」

「訓練は月末まで続く。」


「…………」


チップは真っ白になった。

「ボクの人生……終わった……」


「さて、次は楽しい時間だ。」



マスク・レイダーは鉄の剣をチップに投げた。

「最終テストだ。敵を倒してみろ!」


「て、敵!? どこに――」


男が指をさす。

そこには――


緑色の肌、尖った耳、鋭い牙。

巨大な棍棒を持つゴブリンがいた。


「嘘でしょぉぉぉぉ!!?」

「チャンスだ! やってみろ!」


「チャンスじゃなくて死亡フラグだぁぁ!!」


ゴブリンが吠え、突っ込んできた。

チップは必死に剣を構えるが――


ガァンッ!


衝撃で吹き飛ばされた。

体中が悲鳴を上げる。


「なんでこんな理不尽な訓練なのぉぉぉぉ!?」


それでも立ち上がり、再び構える。

「うおおおおおおっ!!」


カァン!

剣と棍棒がぶつかる。腕が痺れる。


「くっ……ボクは……勇者になるんだぁぁぁぁ!!!」


渾身の力で踏み込み、剣を振り抜いた。


シュパッ!


一閃――ゴブリンの首が飛んだ。


「や、やったぁぁぁぁ!!!」


……しかし次の瞬間。


ゴンッ!


倒れたゴブリンの棍棒が頭上に落ち、チップの頭に命中。


「うぐっ……」


そしてそのまま意識を失った。


遠くからマスク・レイダーが腕を組み、見下ろす。


「ふっ……見事な一撃だったな。ただし、オチも完璧だ。」



夜。

マスク・レイダーは動かないチップのそばに歩み寄り、静かに毛布をかけた。

そして小さな焚き火を灯す。


夜風が吹き抜ける中、炎が優しく揺れた。


――その夜だけは、少しの贅沢を許された。



朝。


パシィン!


「ぎゃあああああ!!」

「おはよう、勇者! 今日も訓練だ!!」


「お、おは……よ……う……?」


再び地獄が始まった。

走り、転び、殴られ、治され、また殴られる。

日々が過ぎ、夜と朝の区別さえ曖昧になっていく。


二十日目。

マスク・レイダーは腕を組み、満足げにうなずいた。


「ふむ……よく頑張ったな。一度も気絶しなかったとは。」

「はぁ……はぁ……で、でも、もう……終わり……?」

「もちろん終わりだ。――残り十ヶ月でな。」


「じゅ、十ヶ月ぅぅぅぅ!?」


「一年の訓練は、まだ始まったばかりだ。最初の一ヶ月は体力づくりだ。」


「死ぬ……絶対死ぬ……」


「さて、次は“オーラ”の修行だ。」



チップは剣を構え、何日も集中した。

……しかし、なにも起きない。

八日間挑戦しても、一滴のオーラも出ない。


「む、無理だぁ……」


マスク・レイダーが顎を触る。

「うーん……お前、オーラタイプじゃないな。魔力タイプかもしれん。」


そう言うと、突然消えた。


「やっと……静かになった……」


だが――静寂は続かなかった。


黄金の光が空から降り注ぎ、

そこから一人の女性が現れた。


銀色の仮面。青いローブ。黄金の耳と尾。

その姿はまさに「魔力」の化身。


彼女の周囲の草は、魔力の風に揺れていた。


「あなたが……訓練中の小さな勇者ね?」


優しい声――だが背筋が凍るほどの威圧感。


チップの目が見開かれる。

この声、この香り……まさか――!


マスク・レイダーが再び現れ、満面の笑みを浮かべた。


「紹介しよう! 新しい魔法の師匠だ! 魔力操作のスペシャリスト!」


女性がゆっくりと顔を上げ、仮面の下で優しく微笑んだ。


チップの心臓が止まる。


「ま、まさか……その声は……!」


「ふふふ……最初は優しくしてあげるわ。少しずつね?」


マスク・レイダーが嬉しそうに叫ぶ。

「肉体の地獄はオレ! 魔力の地獄は彼女だ!!」


風が吹き、光が渦を巻く。

仮面の下で――


“懐かしい笑み” が浮かんだ。


その瞬間、チップは悟った。


――本当の地獄は、まだ終わっていなかった。

チップ「うぅぅ……思い出しただけで体が痛い……今でもあの時の傷が疼くんだよ……」

ジョン「そんなに酷かったのか?」


(ジョンが隣のロガンを見る)


ロガン「……あぁ。オレ、あの時オーラ使いで本当によかったと思ってる。」


(ジョンの視線の先――)


チップの母と三人の姉、そして……ニナまでもが立っていた。

彼女たちの顔には、同じ銀色の仮面。


ジョン「……え?」

チップ「う、うそだろ……ニナ、お前まで……!?」


5人の“マスク”が同時に微笑む。


チップ「いやあああああああああああっ!!!」


――バタン。


チップ、見事に気絶。


ジョン「……気絶したな。」

ロガン「フッ……まだ甘いな、弟よ。」

ジョン「じゃあ……次回、“チップの過去・第4編”だな。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ