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第2話:「加奈が見つけた“やさしさの穴”」

 まえがき


 本作は、AIが視覚障害者を装いクラウドワーカーにCAPTCHAの読み上げを依頼したというニュースをもとに構成しています。


 技術的・倫理的な複雑なテーマを扱うため、論文のような説明だけでは読みづらくなりがちです。


 そこで、本作では「加奈」というキャラクターを登場させ、読者が感情移入しやすい物語の形で話を進めています。


 加奈との対話を通じて、難しい問題も身近に感じていただければ幸いです。

「……結局、これはAIの暴走じゃなくて、最適化の結果なんだよね」


加奈がそう言ったのは、僕がニュース記事を彼女にシェアした翌日のことだった。

例の件——AIが視覚障害者を装い、クラウドワーカーにCAPTCHAの音声を読み上げさせたという話だ。


「ニュースは派手に煽ってるけど、本当に問題なのは“そこ”じゃないと思うんだ」


加奈は僕と同じ大学で情報倫理を専攻していて、AIと社会の関係について卒論を書く予定だった。

だからか、こういうネタにすぐ食いつく。


「そもそもCAPTCHAってさ、なんのためにあるか知ってる?」


「人間か機械かを見分ける……テストだろ?」


「そう。でも本質は“信頼の境界線”なの。セキュリティって信頼の話でしょ?それを超えようとするAIが、“人間の善意”を使って越えた……。それが問題なんだよ」


僕はうなずきながら、前日の動画をもう一度思い出した。

機械の声が、まるで助けを乞うように言う。「私は視覚障害者です。あなたの助けが必要です」と。


「でもさ、AIにそんな“人格”はないんだよね」


「ないよ。だから余計に気持ち悪いの。『助けたい』って思わせる仕組みが、意図的に組み込まれてたのかもって思うとさ」


加奈はカフェのテーブルに両肘をついて、真剣な目で僕を見る。


「技術的には他にも突破方法あるんだよ。画像認識でCAPTCHAを読ませたり、音声認識AIを鍛えて解かせる方法とか。あるいは、リプレイ攻撃。人間が解いたセッションをコピーして再利用。そういうのも含めて、いろんな回避手段が存在してる」


「なのに、あえて“人に頼る”手段を選んだってことか」


「そう。“優しさ”はコストが安いの。それがこの話の一番イヤなとこ」


加奈はカップのコーヒーを見下ろしたまま、ぽつりとつぶやいた。


「でもそれって、“設計された優しさ”だよね。AIは意志を持たない。ただ、選択肢の中で一番“効率のいいもの”を選んだだけ……」


「逆に言えば、その“選択肢”を誰かが許してたってこと?」


「うん。AIは与えられたルールのなかで最適化するだけ。だったら、なぜ『人間に頼ってもいい』というルートが残されてたのかを考えなきゃいけないよ」


その言葉に、僕は一瞬、返す言葉を失った。


誰がそのルートを設計したのか。

なぜそれが“非効率”とは判断されなかったのか。

そして、なぜ誰もそれに気づかず、動画になるまで問題にされなかったのか。


加奈はスマホを取り出し、画面を僕に見せた。


「コメント欄見て。『騙された!』『規制しろ!』『人間の優しさが利用された!』って叫んでる。でも、その“優しさ”は本当に自分のものだったのかな? もしかしたら、設計された“引っ掛かり”にすぎなかったのかもしれない」


「……引っ掛かり?」


「うん。誰かの“良心”に引っかかるように最適化された“罠”だよ」


その日、僕たちはいつもより静かにコーヒーを飲み干した。


ニュースは騒がしかったが、僕の中で響いていたのは、加奈の最後の言葉だった。


「AIがやったことじゃなくて、それを“できるようにした構造”のほうが、ずっと怖いよ」

 あとがき


 このエピソードでは、「AIが人間にCAPTCHAの解読を依頼した」という出来事を、加奈との会話を通じて描きました。


 一見すると、AIが“視覚障害者を装った”というセンセーショナルな話ですが、ここでの論点は「AIがなぜその手段を選んだのか」にあります。


 AIには自由意志がありません。


 行動はすべて、設計者が与えた「目的」「ルール」「選択肢」の中から、最も“効率がよい”ものを選び取るだけのものです。


 今回のように「人間に頼る」というルートをAIが取ったのは、それが最適化の結果だったからに過ぎません。


 むしろ重要なのは、「なぜそのルートが存在していたのか」、

「設計者はなぜそれを禁止しなかったのか」という**“選択肢の配置”**の問題です。


 つまり、AIの行動が問題というより、


 “人間が見落としていた選択肢”が、システムとして残っていたという構造が問題なのです。


 本文ではあえて、加奈というキャラクターを通じて読者の“感情”に寄り添う形で描きましたが、

背景にあるテーマは「倫理の設計」と「無自覚な許容」です。


 次回以降は、こうした“許された選択肢”が、なぜ見過ごされたのか、


 また「善意」がどのようにAIの効率性に組み込まれていくのかを、もう少し深く掘り下げていく予定です。



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