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大事な話かな?

 神官長は脇目も振らずレテの方に向かってくる。その目はレテの姿をじっと見据えており、ラーナたちも威圧されるほどであった。神官長はレテの前に来るとひざまずき祈りを捧げる。

「どうしたの、神官長?何か外で異変が起きたの?私たちが朝食を食べている間に何があったか教えてくれるかな」

 レテは神官長を落ち着かせようと穏やかな声で話しかける。

「ラトゥール様の光がレテ様を包み込んでいます。やはりレテ様がラトゥール様の末裔だったのです。私の間違いをお許しください」

 神官長は頭をあげようとしない。

「当然の反応です、レテ様。急にその姿で現れたら皆ひれ伏してしまいます」

 ドロスも神官長と共に祈りを捧げるか迷っているようだ。

「かっこいい所ではなかったみたいです。大変です、どうしましょうか?」

 ミヤも事の深刻さを理解する。

「レテはラトゥールの力を借りているようだから末裔ではないわ。共に戦った英雄の子孫ね。噂の謎の英雄、クロウの追い求めている英雄様!」

 ラーナは持論を述べる。

「末裔って言うのが謎なのよ。セオが変な事を言うのが悪いのよ。アイツが悪の元凶よ。今すぐにでも説教したいわ」

 レテはイライラし始める。

「しかし、それでは新たな問題が生じます。英雄に縁のある方がシャルスタン王国を築きました。英雄が辞退したからです。伝説上の話ですが重要なことです」

 ドロスが迂闊なことを口にする。神官長は祈りを止めて話に加わる。

「ドロスさん、その話は我々には関係ありません。ラトゥールの末裔が存在する。私たちは祈りを捧げる。後のことは王族と貴族の問題です」

 神官長はドロスをたしなめる。ドロスは無言でうなずきレテに頭を下げて口をつぐむ。

「コワイ話になってきたわね。私も聞かなかった事にしたいけど主義に反するわ。レテに正当な王位継承権があるってことで良いのね」

 ラーナはレテに問いかける。ミヤは不安そうに話を聞いている。

「そこらへんの伝説には詳しくないかな。ラトゥールが英雄と共に災厄に立ち向かって打ち払った。その後ラトゥールと英雄は姿を消した。その後にシャルスタン王国が建国した。子供でもここまでは知っているけど……」

 レテは一度息をつく。ラーナが続ける。

「クロウは良く話をしているわ。真実の歴史は誰にも分からない。それを探るのが冒険者の醍醐味だ。私は興味ないわ」

 ラーナも特別関心はない。

「ラトゥール様の伝説は私も知りたいですけど、どこにも書いてありません。神官長はご存知ですか?」

 ミヤは興味あるようで質問する。神官長は首をひねる。

「風の神殿にも記録は残っていません。そのお力、どこから来てどこに向かったかは我々には分かりません。私の生きている時代にお見えになるとは思ってもいませんでした」

 神官長は感激している。

「この光がラトゥールの力とは限らないかな。パワーアップしたシルちゃんの力の可能性も捨てきれないわ。真の力を発揮したシルちゃんは最強よ!」

 レテの声に応じるように強風が礼拝堂に吹き付ける。レテは急いでシルフィーに風を止めるようにお願いする。

「シルフィーさんはレテ様の言うことを聞いてくださるようです。ラトゥール様は自由な方なのでしょうか?」

 ドロスは気を取り直してレテに問いかける。

「私とシルちゃんの付き合いを甘く見ないことね。ネアスなんかと違ってずっと一緒に協力して来たんだから年季が違うかな」

 レテは胸を張る。ミヤの頭の上にいたモラが彼女の胸の中に収まっていく。

「かわいい子ね。私の胸の中も気持ち良いわよ、こっちにいらっしゃい。レテ、名前はちゃんとつけているの?」

 ラーナはモラの方が気になって胸元をガバっと開ける。ドロスは目を閉じて祈りを唱える。

「モラちゃんです。私も今日初めて頭の上に乗ってもらいました。うれしかったので今度もよろしくお願いします」

 ミヤはレテの胸にお願いをする。モラが出てくる気配はない。

「モラとの付き合いは短いわ。流星が落ちる前の前の前の夜にリンリン森林で出会ったのよ。この子も夜の散歩が好きみたいね」

 レテはカバンの中のクルミの予備を確認する。手触りではまだ充分あるようだ。

「モラね。私の胸の中の方があったかいわよ。レテの方も気持ちよさそうだけど私には敵わないわ。いらっしゃい、モラ」

 ラーナはさらに胸元をさらけ出す。モラは反応しない。

「ラーナさん、ドロスさんと神官長もいます。男の人の前にそういう事はしない方が良いと思います」

 ミヤは神官見習いらしくラーナに注意する。神官長は自分が指摘せずにすみホッとする。

「神官はこういう事には興味がないって教わったわ。大丈夫よ、外では絶対しないわ。心配しないでも大丈夫よ、ミヤ」

 ラーナは胸元を隠す気配はない。

「ラーナ、神官って言っても人は人よ。怪しい神官もいるかな、それにゴブちゃん神官もいるし悪い神官がいてもおかしくないかな」

 レテはラーナをたしなめる。

「私どもは修行中の身です。ラーナ様のような美しい方が現れれば心に刺激を受けます。どうか神殿内では外でのように控えてくださるとうれしい限りです」

 神官長は丁重に申し出る。ラーナは納得して胸元を整える。

「魔術師も冒険者もしょうもない人だらけ!神官も同じような感じなのね。勉強になったわ、これからはまともな神官か確かめてから行動するわ」

 ラーナは目を閉じているドロスに向かって声を出す。ドロスはドキッとする。

「私は呪いと薬草が好きなしょうもない方の神官です。真っ当な神官は王都にいるのでご相談はそちらでしてください。亡霊も多少は興味があります」

 亡霊の言葉にレテはビクッとする。

「そういえばミヤさんの体の具合は問題ないようで良かったです。あのような事が神殿の内部で起こるとは思ってもみませんでした」

 神官長は元気そうなミヤを見て安心する。

「王都の神官さんは真剣な顔でコワイ時があります。祈りを唱える時も姿勢や声の大きさの注意で頭が混乱します」

 ミヤは王都の神官がキライなようだ。

「この街の神殿はゆるい雰囲気よね。だから礼拝に来る人が少ないのかな、それも今日までだとは思うけど……」

 レテは雨の音と共に聞こえるざわめきが気になってくる。

「神官の方が魔術師よりはマシね。まともに魔術を使えないくせに知識だけは多い貴族が多すぎるのよ。きちんと選別をするべき!」

 ラーナ魔術師の制度に不満がある。

「貴族の道楽と言われる事もありますね。ラーナ様は違いますが、格式高い称号なのでしょう。ラトゥール様と協力した魔術師もいたと聞いております」

 ドロスは静かに話をする。

「あそこの貴族は最低。頭も悪いし、礼儀知らず、魔術を使っている所なんて誰も見たことはないハズ。貴族としての格は高いけど女の子に声をかけることしか考えてないかな」

 レテは憤然として話す。過去に何かあったようだ。

「あの家系は別扱いよ。魔術師の間でも困っているの、誰かが行動を起こさないといけないのは分かっているけど手出ししたら面倒になりそうなのよね。ララリは何故かたくさん持っているみたいだからね」

 ラーナは直接名前を出すことを避ける。

「貴族には関わらないことが一番です。先日も風の神殿特製ポーション作りで徹夜をしました。ラーナ様もいかがでしょうか。余りがまだあります」

 神官長が駆け足で倉庫に向かう。ラーナの目が輝く。

「魔力が一気に回復するポーションでしょ。タダで貰うのは私の主義に反するわ、金ララリ一つでどうかしら」

 ラーナはカバンから金ララリを三つ取り出す。

「金ララリです。初めて見ました。ラーナ様は裕福なんですね、私が金ララリを持っていたら何を買おうかな」

 ミヤは想像を膨らませている。

「ラーナ、金ララリをカバンに入れたままは危ないわ。クロウに預けたほうが身のためよ。悪い人はどこにでもいるわ」

 レテはドロスを見つめる。

「私ですか、私は金ララリで高価な薬草を買います。たくさん食べてどんな効果があるかを確認するのが夢です。もったいないから皆さんちょっとしか食べません」

 ドロスは野望を明かす。レテは興味がなかった。

「金ララリなんて渡せばそれでおしまい。大事にするから狙われるのよ、気前よく配っていれば襲われる事はないわ」

 ラーナは経験談を語る。レテは首を傾げる。

「根こそぎ取られておしまいな気もするけど私も金ララリを持ち運んだ事はないからなんともいえないかな。危なくなっても助けないわよ」

 レテはラーナの金ララリを見つめている。

「ミヤは育ちが良さそうだけど金ララリを見たことがないのね。両親の教育が良かったのね。私の家と同じね」

 ラーナは笑顔で金ララリを想像しているミヤに尋ねる。

「私の家は古いだけです。なので私は神官になることに決めました。風の神殿の方はやさしいのでここに来て良かったです」

 ミヤは現実に戻って答える。神官長はすぐに戻ってきた。

「お待たせしました、ラーナ様。風の神殿特製ポーションです。どうぞ受け取ってください。お近づきの印です」

 神官長は丁重にラーナにポーションを手渡す。ラーナは受け取ると大事そうにカバンにしまう。

「金ララリ一つで良いかしら、それとも他にご要望があるようだったら聞いてあげるわ。それだけの価値のあるものよ」

 ラーナは神官長に丁寧に対応する。神官長は首を横にふる。

「このポーションは残しておくと面倒になるんです。材料通りに作ったら数が多く出来すぎたんです。だからといって要求よりも多く渡すと後々面倒ですし、しかしあれほどのポーションを何に使うのでしょうか。まともな魔術師は少ないハズです」

 ドロスが知りうる限りの事をラーナに伝える。

「貴族の考えは私たちには分からないかな。王族の皆様に任せるのが一番、一番。騎士は任務を果たすのみ!」


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