コンビ結成
レテたちはまぶしさに耐えつつ食事を終えた。部屋の中にはウィルオーウィスプが漂い帰る様子はない。レテはどうしようかと迷っていた。
「ウィルくん、今日はどうしたのかな。雨の日だけどキミの力を借りるほど暗くはないわ。ラトゥールも偉い子でしょ、簡単に外に出ても良いのかな」
レテの問いかけにどちらも応じず、光は消えない。
「まだまだ遊び足りないみたいです。このまま外の案内をしたら喜んでくれます。きっとそうです」
ミヤが無邪気な発言をする。
「ミヤさん、無理は言わないでください。外にはラトゥール様の姿を一目見ようと人々が集まっているんです。大騒ぎになります」
ドロスは後始末のことを考えてゲンナリする。
「私は一日中ここにいても良いわ。こんな機会に恵まれる事は今までなかったわ。レテは私の幸運の女神様に認定してあげるわ」
ラーナはネアスの真似をする。
「ラーナの女神様ね、お役に立てて光栄ですって言えば良いのかな。男の子ならすごく喜ぶんだろうけど、私には関係ないかな」
レテは興味がない。
「元気がないわね、レテ。ネアスの事をすぐに忘れるのは難しいと思うけど切り替えが大事よ。ラトゥールがいれば男なんて役には立たないわ」
ラーナなりにレテを励ます。レテも静かにうなずき光を見る。
「展開が早いように思います。ネアス様のお話を伺う事も必要かと思います。もちろん、レテ様のお気持ちが一番です」
ドロスはネアスの弁護を最後と思い試みる。
「気持ちか、私の気持ちはいつも一つかな。それが分からない人とお話をする必要はないかな。すれ違う二人」
レテはまぶしいので光から目をそらす。
「レテ様を悲しませるなんてネアス様はひどい人です。しかも、朝寝坊までしています。人として信じられません」
ミヤはネアスを軽蔑する。
「言い過ぎよ、ミヤ。悲しいことはたくさんあるわ、レテもそれは承知の上で行動しているのよ。私にはどうにも出来ない問題ね」
ラーナは腕で目を抑えながらも光の様子を観察している。
「ネアス様が目覚めたら私の方から事情を説明しておきましょうか。それとも黙っていたほうがよろしいでしょうか。私には判断しかねます」
ドロスはレテに素直に質問する。
「どうしようかな、どっちでも変わらないけど……」
レテはラーナを見つめる。
「ネーくん、わかりやすい行動に出るとは思うけど。レテが悲しんでいるって知ったら何をするか、ちょっと考えてみるわ」
ラーナもまぶしさに負けて目を閉じて考える。
「追いかけてくるんじゃないですか、ごめんなさいって謝ると思います」
ミヤはとっさに答える。
「何を謝るのでしょうか、ネアス様は理由を理解出来るのでしょうか。私には疑問です。私には何も分かりません」
ドロスは完全にあきらめた。
「私にも分からないことを謝られても困るかな、何で謝るのって聞いちゃうかも」
レテはドロスの疑問に答える。ドロスは驚く。
「そうよね、理由がなく悲しいのに謝るって意味が分からないわ。ネーくんはやっちゃいそうね。何も話さないほうが良いかもしれないわ」
ラーナはレテに同意する。
「ネアス様のせいで悲しかったわけではないのですか。私は聞き間違いをしていたのですか、お二人は何の話をしているのですか?」
ドロスは二人に混乱して質問する。
「悲しくもないかな。ラトゥールも一緒にいてくれるみたいだし、ネアスがいなくても構わないかな。そこが今の悩みどころね」
レテは自分の心が分からない。
「レテ様も悩んでいるんですね。私も考えすぎると訳が分からなくなってきます。お父様はいつも困った顔をします」
ミヤは王都の父親の顔を思い出す。
「離れてみて本当に必要な事か分かる事も多いわ。今日はネーくんとは会わないで過ごす事が正解ね。二人とも色々あったから考える時間が必要なのよ」
ラーナが回答を導き出す。レテは彼女の考えに惹かれる。
「ネアス様から幸運の女神様が去っていったらどうなるのでしょう。予想がつきます。ゴブリンの呪いが残り、今日の運勢は最悪です。考え直してください、レテ様」
ドロスは友情からレテにお願いする。
「一日で起こるヒドイ目なんてたかがしれているわ。私だって騎士の任務もあるし、ずっと一緒にいる訳にはいかないわ。街から出ていくわけじゃないし、運勢も少し下がるだけで済むかな。幸運の女神の話も本気じゃないしね、ちょっとした遊び、遊び」
レテはドロスたちに微笑みかける。
「レテ様は幸運の女神様ではないんですか。私は信じていましたし、これからも信じています。皆さんとお話出来ているのもレテ様のおかげです」
ミヤはレテの事を信頼している。
「そうよ、そうよ。ラトゥールに呼びかける事が出来るなんて尋常なことじゃないわ。クロウもあなたの力に興味を持っているみたいだったわ。長話になるから私は紹介するだけ」
ラーナはレテにウィンクする。ドロスはうらやましい
「ネアスには第二の師匠のガーおじがついているからダイジョブ、ダイジョブ。私はこの光をどうにかしないと出かけることも出来ないわ」
レテは試しに食堂に向かって歩いていく。光の風とフラフラした光の玉も一緒についていく。
「三人は仲良しです。ピカピカしてかっこいいです、レテ様」
ミヤはレテの後ろをついていく。
「興味深いですが専門外なのでアドバイスは出来ません。ずっとこれでは生活にも困りますね。解決策はあるのでしょうか」
ドロスは精霊の様子を観察して何かをつかもうとする。
「分かりやすくて良いわ。レテの存在を誰でも分かって良いじゃない、心配することはないわ。グラーフの街でも話に聞くくらいなんだから変わりないわ」
ラーナはしばらく観察できそうなのでありがたがっている。
「ネアスもピカピカ光るのかな、二人で光輝いていたら楽しいかもしれないわ。一人だけだったら寂しいかな」
レテはそのまま礼拝堂の扉を開けようとする。
「レテ様、かっこいいですけど外に出かけるおつもりですか。もう一度ラトゥール様にお祈りしてみた方が良いかと思います」
ミヤは心配になり提案をする。レテは浮かない顔でうなずく。
「イヤな予感がするのよ。私の直感が告げているわ、ラトゥールは何かを企んでいる。弱みを見せたらイケナイかな。それでもこのままではダメね!」
レテは不安ながらもミヤの提案を受け入れるつもりだ。
「試すしかないでしょう。失敗はするでしょうが成功する事もあります。立ち止まっていては何も起こりません。私もネアス様の呪いを解く手がかりを探します」
ドロスは自分の出来る事に集中することに決めたようだ。
「魔術も失敗は付き物よ。予測はしっかりして万全の対策はするわ。それでも魔力が暴走することが良くあるわ。何も起こらないほうがコワイくらいね」
ラーナもミヤの提案に賛成する。
「ラトゥール、これじゃ出かけられないから光を弱めてくれないかな。私のお願いは聞こえているはずよ。さっきは呼びかけに応じてくれたわ、町長の家に行って街の事を聞いてくる事に決めた。キミの噂も広まっているかな」
レテはやさしくラトゥールに呼びかける。ラトゥールはレテの呼びかけに反応して光を強める。部屋を照らしていた光輝く風がレテを包み込む。ウィルオーウィスプはレテの頭上に移動する。
「レテ様、もっとかっこよくなりました。でも、今日は出かけない方が良いです。目立ち過ぎます」
ミヤは上手くいかなかったので下を向いてしまう。
「気にしない、気にしない、ミヤ。さっきよりはまぶしくなくなったし成功かな。私が思っていたよりもずっと良いわ」
レテが腕を動かすと光も一緒に動く。彼女は礼拝堂に行ってジャンプしてみる。
「あいまいな結果です。ラトゥールの考える事は私には理解できないようです。やはり私には神官は向いていないのかもしれません」
ドロスがボソッとつぶやく。
「魔術師に転職するのも一つの手段ね。呪いの魔術は研究している人は聞いた事がないからドロスが初めての呪い専門の魔術師になるわね」
ラーナがドロスを勧誘する。
「呪いは私の専門ではありません。興味はありますが薬草や亡霊の研究もしたいですし、もちろんラトゥール様の事も敬愛しております」
ドロスはラーナの誘いをきっぱりと断る。
「私もドロスさんは魔術師の方が合っていると思ってしまいました。でも、ドロスさんは神官も似合っています。昨日はありがとうございました。すっかりお礼を言うのを忘れていました」
ミヤは恥ずかしいのでレテの後に急いでついていく。残された二人も駆け足で進む。
「魔術師ドロスね。ごろは良いかな、本人の意見が一番大事だけど私も似合っていると思うかな。ラトゥールはどう思う?」
レテはラトゥールが問いかけに答えるのが楽しくなったようで呼びかけてみる。光の風がドロスに吹き付ける。
「お認めになってくださったのですかね、うれしい限りです。偉大なるラトゥールの加護を!」
ドロスは祈りを唱える。神官長が声に気づきレテのもとに大急ぎで駆けつけてくる。
「何かあったのかな、ラトゥール。キミはもしかしてこれを予測したの!」