ララリ
泉のそばにネアスが落ちていく。シルフィーのやさしい風が一面に広がる。レテは風を感じると彼の方に駆け寄っていく。
「二回目だから一回目より楽しめたかな。最初は緊張するよね。私も初めての時はドキドキの方が強かったな。チョット、思い出しちゃった」
レテはネアスを見つめる。
「シルフィーさん、ありがとうございます。あなたのやさしさをとても感じました」
ネアスはそっと大地に置いてくれた、彼女に感謝を述べる。
「私にはないのかな、ネアス。二人で一緒に頑張っているのよ。私にもカンシャ、カンシャ」
「レテもありがとう。空も良いね、好きになれそうだよ」
ネアスは女性を見る。
「そっか、今度はもっと勢いよく空に飛んでいけるようにシルちゃんにお願いするね。期待して待っていてね、ネアス」
レテは心底うれしそうに空を見上げる。モラはまだ上空の風で遊んでいる。
「いや、このくらいで十分かな。刺激は求めすぎないようにしたいと思っているし、空は高すぎるかな」
ネアスは初めてのレテの到着を思い出して、ビビってしまう。
「何事も慣れよ。前より恐くなくなったなら大丈夫。空に飛ばされる才能があるのよ。ネアス、自信を持つのよ。イケる、イケる」
レテはネアスを励ます。
「飛ばされる才能か。才能は欲しかったけど、役に立つのかな。贅沢は言えないけれど、神官の才能があるといいな」
ネアスは空に願いを込める。
「あの、よろしいでしょうか。お礼の話なのですが……」
美しい女性が二人に近づいてくる。ガーおじも一緒だ。
「お二人とも、貰えるものは何でも良いものじゃ。世の中、タダが一番ですじゃ。余計なことを何も気にしなくて良いのじゃ」
ガーおじは二人に教える。
「無事でしたか。僕は役に立たなかったけど良かったです。お礼か、何が良いかな。初めての経験だ」
ネアスが考えこもうとする。
「一万二千ララリで交渉しているのよ、ララリはみんな必要だから。私も街でおいしもの食べたいしね、楽しみ」
レテが笑みを浮かべる。
「もっと他のお礼もご用意できますが、いかがでしょうか」
美しい女性はおずおずと提案をする。
「他のお礼。名剣があれば、欲しいのじゃ。名剣さえあれば、ワシも大活躍できるのじゃ。体当たりではイヤなのじゃ」
ガーおじは期待する。
「素晴らしいですわ。ガーおじ様。名剣こそ、私がお礼にと心に思っていたのです。ガーおじ様は心をお読みになれるのですか!」
美しい女性は両手を叩く。
「心など読めなくても、あなたの様子を見れば一目瞭然なのですじゃ。貴方はきっと高貴な生まれの女性だ。間違いないのじゃ」
ガーおじはまんざらでもない様子で、胸を張って答える。
「名剣ね。武器を持っているなら自分で戦えば良いじゃない。ゴブちゃんなら、ちょっと手に傷つけるくらいで逃げ出していくわよ」
レテは警戒心を高め、剣をいつでも抜けるようにする。
「女性に剣の扱いはムズカシイよ、レテ。実際に戦うとなると体が動かなくなることの方が多いよ。元冒険者の経験談さ」
ネアスはめずらしく自信満々に答える。
「それは認めるわ、ネアス。でもね、名剣を持っているような高貴な生まれのお方なら、護身術くらいの剣の腕前はあって当然よ。王国の名家にこんな人、いたかな、ウ~ン」
レテは女性をじっと見つめて、思い出そうとする。
「ううん、なんでもない。私は高貴な方とは付き合いないわ」
レテは首を横に振る。
「そうじゃな、レテ殿が精霊使いの騎士であっても、上流階級との付き合いは難しいはずじゃ」
ガーおじはうんうんとうなずく。
「名剣か、楽しみだな。僕には関係ないけど、ガーおじとレテのどっちに向いている剣なのかな。名剣は持ち主を選ぶはず」
ネアスは答える。
「私は剣を持っているからいらないかな。やっぱりララリの方がいいかな。上流階級の方なら、十二万ララリでどうかな。ご家族の方と相談すれば、大丈夫よ」
レテは女性を見る。
「たくさんのゴブリンに襲われて、危ないところを助けていただきました。今回のゴブリンは凶暴で、怖かったですわって言えば良いわ。十二万ララリなら一人四万ララリ」
レテが冗談めかして、女性と交渉を再開しようとする。
「四万ララリ!日当四万ララリは盗賊の匂いがしてくる。まずいよ、レテ。僕は盗賊にはならない」
ネアスは焦る。
「ほう、四万ララリとはそんなに大金なのじゃな。街で盾と鎧を揃えて、記憶探しの旅に出発できるのじゃ」
ガーおじの鼻息が荒くなって、女性に詰め寄ろうとする。
「ネアスは変に融通がきかないわね。人助けしたのよ。当然の報酬をもらうだけ、彼の言うことは気にしないで。このパーティーのリーダーは私よ」
レテはリーダーになった。
「あの、私の方から事情を説明させていただきますね。少しだけお時間をいただきますね。長くはなりません」
美しい女性は気にしない。
「私は没落貴族の生まれです。病気の母と父を抱えて、この泉に毎日通っていました。もちろん病気には効かないことは知っていました。ちょうど一年前のこの日にいつもどおり泉に訪れると、ここで泉の女神を名乗る女性に出会ったのです」
彼女は続けた。
「そんな話、聞いたことないかな。すぐ王都中に広まるはずね。ヒマな国だからね、怪しすぎる。何さんだっけ?」
レテはキツめに尋ねる。
「私の名前など、どうでも良いのです。話を続けさせていただきます」
女性はイライラし始めているようだ。
「意地悪ですぞ、レテ殿。話を最後まで聞くのじゃ。決断はその時でも遅くはないのじゃ」
ガーおじはレテに注意する。
「女神様は私の願いを叶えてくれると言ってくださいました。私に残されているのは病気の母と父のみ。たとえ騙されたとしても、失うものはない。それほど、私は疲れ切っていました。
「悲しいな、王都も大変なのか。良いことが起きると良いな」
ネアスの反応に女性は調子を取り戻し、話を続ける。
「私は両親の病気の回復を祈りました。女神様はその願いを聞き届けてくださいました。女神様はすぐに家に帰るようにと言ってくださり、私は急いで帰宅しました。家に帰ると両親は私の幼い頃のように元気に夕御飯の用意をしていました。私は感激で涙を流し、両親に女神様の事を伝えました」
美しい女性は続ける。
「長いかな、飽きてきたな。昨日からちゃんと寝てないし、ネムネム」
レテが小さなあくびをする。
「両親がその事を黙っているようにとのこと。次の日に泉で名剣の場所を教えて頂いた事。流星の降る日の次の日に勇者が現れる。名剣は大地に眠る剣。その日まで絶対に掘り起こしては行けないと。力が失われる」
美しい女性は焦りだして、矢継ぎ早に話を終える。
「早い、早い。貴方とは気が合いそうね。ナナシさん」