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ピクニックに行きたいかな

 レテが了解したことでガーおじ抜きの三人でリンリン森林にピクニックに行くことが決まった。ネアスは女の子と初めて遊びに行くのですでにドキドキし始めている。ガーおじは一緒にいくか考えている。

「ラトゥール様もピクニックが好きだと良いかな。シルちゃんは森に遊びに行くのが楽しそうな気がするかな。神官長は何か知っている?」

 レテは一番詳しそうな神官長に尋ねる。

「ラトゥール様は大空を飛ぶ方です。森はどうなのでしょうか、ドロスはどう思いますか。森と空は似ていますか?」

 神官長はドロスに質問を振る。ドロスは慌てながらも答える。

「きっと好きなはずです。森と空は似ている気がします。空だけが好きで森がキライな人はどうかしている人です。森に恨みでもあるのでしょう」

 ドロスはネアスを見て救いを求める。

「聞いてみるのが早い。ラトゥール様、ピクニックに一緒に行きませんか。仲良くなるには良い方法です」

 ネアスは大声で風の槍に向かって叫ぶ。穏やかな風がネアスたちに吹いてくる。レテは心地よく感じる。

「賛成みたいね。じゃ、ネアスはさっさと風の槍を取ってきなさい。そうしないとラトゥール様を一緒に連れていけないかな。私もネムネム」

 レテは忙しい一日で眠気がマックスのようだ。

「これでネアス殿が風に押しつぶされたらラトゥール様もイジワルなのじゃ。あれほど気持ちの良い風を我らにくださった後に罠にかけるのはレテ殿くらいなのじゃ」

 ガーおじも眠気で発言がキツくなる。レテは華麗にスルーする。

「ネアス様、よろしくお願いします。私もラトゥール様と一緒にピクニックに行きたいです。レテ様、ネアス様と一緒!楽しみです」

 ミヤは無邪気にお願いする。

「ニャンも楽しみにゃん。ネアス様が勇者への一歩を踏み出す瞬間を目撃出来るにゃん。故郷の村で一緒に夢を語った夜を思い出すにゃん」

 ニャンはネアスの手をギュッと握って激励する。ネアスは感激で涙ぐむ。

「ニャンさん、ありがとう。ニャンさんと一緒にこんな日を迎えられるなんて信じられない。怖そうな先輩がいない日で本当に良かった。あのニャン族の先輩商人は厳しかったなあ。一緒にアルバイトした時は悪い思い出だ」

 ネアスは商人も目指したことがある。

「商売はきびしいから仕方がないわ。どうしてもキツくなっちゃうのよ。私も注意しないとコワイ女将になっちゃうわ。ネアスさん、頑張ってね」

 マリーはやさしくネアスを元気づける。

「先輩はコワイものよ。気にしない、気にしない。これからはきれいでやさしくてかわいい私と一緒よ。私も一緒に行こうか」

 レテはネアスに提案をする。

「ありがとう、レテ。でも、その前に勝負の決着をつけないといけない。精霊伝説はラトゥール様の目の前にある。どっちが多く取れるか勝負だ。スタート!」

 ネアスは不意打ちを仕掛けて勝負に出る。レテは完全に出遅れてしまう。

「ネアスも成長したわね、まさか私がだまされるなんて!でも、実力の差は歴然。勝利は常に私の手に入り込むかな」

 レテは彼の後を軽やかな足取りで追いかけていく。

「二人とも元気なのじゃ。もう勝負は終わりで構わないのじゃ、ラトゥールも興味がないのじゃ。夜も遅いのじゃ」

 ガーおじの発言とは裏腹に精霊伝説は再び不規則に動き始める。ネアスは渾身の力でジャンプするが届かない。レテもピョンとジャンプして間合いを図るが動きが読めずに手間取っている。

「頑張るにゃん、ネアス様、レテ様」

 ニャンの声にネアスが手を振る。ネアスはすでに風の槍に手が届く位置まで到達している。風の槍の前で精霊伝説がネアスを挑発するように動いている。

「ネアスさんも風の槍を取ってからレテ様と競争をすれば良いのに……」

 アーシャはヤキモキし始める。

「私が押しつぶされた所より先に到達しました。ネアス様がラトゥール様の末裔で間違いないでしょう。にわかには信じられません。しかし、早く取って頂きたい」

 ドロスも気が気でない様子だ。レテもネアスの位置に気づき恐る恐る風の槍に近づいていく様子が目に入ってくる。彼女も射程圏内に入る。

「レテ様もラトゥール様に認められたようです。二度目で成功とは素晴らしいことです。挑戦することは良きことです」

 神官長は安心して柔らかな微笑みを浮かべる。

「レテ様、頑張ってください。ネアス様の事は気になさらずに槍を取ってください」

 ミヤはラトゥールに気づかれないように小声でつぶやく。

「レテには作戦があるみたいだ。僕はどうしようか、突っ込んできたけど無理っぽいな」

 ネアスは疲労で頭と体が働かない。レテは彼を心配して近くに寄っていく。

「スタートダッシュはバッチリ。でも、今日のハードスケジュールで体力はないみたいね。ここは一緒にガンバロ、ガンバロ」

 レテはネアスに助け舟を出す。

「ここは一人で頑張りたいと言いたいけれど、どうしようもない。レテに助けてもらうことにする。僕はどう動けば良いの、レテ」

 ネアスはレテの耳元でつぶやく。

「ネアスの狙いは風の槍、精霊伝説のどっちなのかな。私にだけは教えて欲しいな。そうしないと作戦もないもないかな」

 レテはずっと疑問だったことを伝える。

「精霊伝説の三巻さ。場所は常に把握している。左から二番目のところで宙を舞っている。レテならすぐに分かるハズさ」

 レテはネアスの言った所を見ると三巻の字が目に入る。

「今日は三巻を手に入れて終了かな。上手く行けばの話だけど……」

 レテは小声で作戦を伝える。ネアスはうなずき、頭の中で作戦を唱える。

「やることは一つ。僕にも出来る!」

 ネアスは風の槍を見据える。レテは彼の肩を叩いて、緊張を緩めようとする。

「スタート!」

 レテの合図でネアスは風の槍に突進していく。レテは精霊伝説三巻の方に駆け出していく。

「ラトゥール、ネアスが一番欲しい精霊伝説の三巻は私が貰うわ。きっと彼はよろこぶかな、きれいでやさしくてかわいい私からのプレゼント!」

 レテは風の槍に向かって大声で話しかける。レテに向かって強風が巻き起こり、精霊伝説の三巻は風の槍の方に向かっていく。

「ラトゥール、遊びの時間はおしまいだ!」

 ネアスは風の槍の前に立つ。風は彼を遮らない。精霊伝説が風の槍の周りをクルクルと回っている。モラがカバンから飛び出し穏やかな風に乗り、本と戯れだす。

「ホントにネアスがラトゥールの末裔なのね、信じていたけど実際に見るとびっくりするかな。私の役割はおしまいかな」

 レテの言葉に答えるように風が彼女をふわふわと風の槍の近くに運んでいく。レテはのんびりとネアスの様子を見ている。その時、神殿の裏口の扉が大きく開く音が聞こえる。彼女は精神を集中する。

「ワシに任せるのじゃ、アーシャ殿はレテ殿とネアス殿を頼むのじゃ。皆は後ろに下がっているのじゃ」

 ガーおじはハンマーを構えて裏口に向かっていく。他の者たちはガーおじの指示に従いその場を離れていく。

「驚かせて申し訳ありません。デフォーです、ラトゥール様のお導きであれば良いのですが、気になって来てしまいました」

 デフォーは雨に濡れたフードを脱いで顔を出す。彼の背後からは光が見える。

「もう朝みたいなのじゃ。ワシの時間の感覚では真夜中のはずじゃが、お昼寝をしすぎたみたいなのじゃ」

 ガーおじは眩しさで目を抑えるがデフォーを警戒している。

「ガーおじ殿、大変な目にお会いになったようで。神殿の外は大変な事になっています」

 デフォーが扉から離れる。

「どきなさい、おじいちゃん。女性が後ろに控えているのを忘れるほど年は取っていないでしょ。雨は止んだけどビショビショなのには代わりはないわ」

 デフォーの背後から女性が現れる。彼女は濡れたフードを無造作に地面に置いてズカズカと礼拝堂に進んでいく。ガーおじは見とれている。

「ラーナ、俺を置いていくな。何か会ったら報酬のララリが目減りする。旅人の翼を持つ冒険者は運命に祝福されているのさ」

 後ろからクロウがラーナの後をついていく。扉はバタンと閉じる。

「ラーナ殿、お美しい方じゃ。ワシの直感は正しかったのじゃ。待つのじゃ、お二人共。デフォー殿も急ぐのじゃ」

 ガーおじはハンマーをしまい礼拝堂に戻っていく。

「ネアス、お客様のご到着よ。それともラトゥール様の案内かな」

 レテはネアスの隣に到着する。彼女はふわふわと風に乗り、のんびりしている。

「ラーナさんたちにデフォーさんも来てくれた。色んな人と出会った、旅に出て良かったと本当に思う」

 ネアスはちらっとラーナたちの方を見る。ラーナは大きく手を振ってアピールする。

「ネーくん、頑張るのよ。私がついているわ、ヒロインは最後に到着するものよ。早く私に風の槍を見せてね!」

 ラーナは礼拝堂の光景にすっかり興奮している。

「外も異様な雰囲気でしたが中の様子も素晴らしい。なぜ、本が槍の周りに浮かんでいるのでしょうか」

 デフォーはガーおじに質問するが彼の心はラーナに囚われている。

「光に包まれた風の神殿。その中では風の槍を二人の若者が手にしようとしている。しばらく、この話で飲み屋で楽しめそうだ」

 クロウもその光景を目に焼き付けようとしている。

「レテ、僕はどうしたら良いのかな。実は何も考えていない。レテが突っ込めって言ったからここにいるだけだ」

 ネアスはレテに小声で問いかける。レテはふわふわしながら微笑む。神官たちは祈りを込めている。アーシャはじっと二人の様子を見ている

「ネアスはどうしたいの、私はキミに手に取ってほしいのかな。ピクニックにも行きたいしね。後はキミの選択かな」


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