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分断の危機

 ストーンマキガンの街の人々は明日に向けて静かな眠りについている。風の神殿ではレテが興奮して最後の戦いに挑もうと決意を新たにしていた。

「このままじゃ終われないわ。眠る時間って言われても、そうですかと受け入れられないかな。これはもうネアスと私の勝負ではないわ。これからは共同戦線といきましょ、ネアス」

 レテはネアスに微笑みかける。ネアスは瞬時に首を横に振る。

「レテ、キミの申し出は受け入れる事は出来ない。僕にとって勝負は勝ち負けも大事だけど、最後までやり切る事も大事なのさ。一人で最後まで精霊伝説を僕は追い求める」

 ネアスは毅然とレテの提案を断って、マリー特製ドリンクで口を潤す。

「流石じゃ、ネアス殿。ワシの一番弟子ではないことが本当に惜しいのじゃ。出会いの差が運命を分けるのじゃ。ワシはネアス殿の勝利を信じているのじゃ」

 ガーおじはネアスの近くに行って、レテに威圧感を与えようと胸を張って立つ。

「二人は私の敵に回るのね、悲しいかな。でも、それがキミたちの選択なら私は止める事が出来ないわ。徹底的にやっつけて間違った選択をしたことを理解してもらおうかな」

 レテの闘争心が燃え上がり彼女は心地よい感覚に包まれる。

「私は余計なことを言いました。勝者が精霊伝説十巻全てを手にする事が出来るなんて言わなければ良かったです。本はみんなで仲良く読むものです」

 アーシャは反省する。精霊伝説はネアスが離れると風の槍の周りをふわふわと浮いている。レテはその様子をしっかりと観察している。

「十巻全て一気に?!良い考えです、アーシャさん。夢のような話だ、こんな事が起こるなんてレテはやっぱり僕の幸運の女神様だ」

 ネアスのやる気がさらに上がる。

「幸運の女神様に勝負を挑むなんて身の程知らずよ、ネアス。私はきれいでやさしくてかわいいから気にしないけどね」

 レテはネアスが元気になってうれしい。

「そこがモテないワシには分からない所じゃ。どうして女神と試合をするのじゃ、ワシに課されて難題じゃ」

 ガーおじは気になって眠るのが遅くなるのが心配だ。

「幸運の女神に勝負を挑むラトゥールの末裔。素晴らしい対決です。幸運の女神が悪の化身なのでしょうね」

 ドロスがとんでもないことを言う。レテは軽くドロスの足を踏む。アーシャも冷たい視線を送る。ミヤは楽しそうに眺めている。ドロスはすぐにネアスの方に移動する。

「レテが悪の化身なんて面白いわね。噂はたくさん聞いたけど、そこまでヒドイ話は聞いたことはないわ。貴族を王都の風の神殿の上に放置して下ろすのに苦労したのは実際に見たけど……」

 マリーは王都にいた時のことを思い出して笑顔がこぼれる。

「あれはバカ貴族がしつこかっただけよ。ケガはさせていないし、安全に頂上までお運びしただけかな。後始末は前騎士団長がしっかりしてくれたわ」

 レテもマリーに釣られて笑みがこぼれる。

「話だけは私も聞いたことがあります。あれ以来、貴族に声をかけられる事が少なくなったそうです。私の憧れのお話です」

 アーシャにも笑顔が戻る。

「王都は大変です。王族の方も街で見かけるので気を使います。この街の方が気楽で良いです。しばらく王都には帰りたくないです」

 ミヤは神官長にお願いしているようだ。

「ミヤさん、時期が来たら帰らないといけません。人にはそれぞれ役割があるのです。私の役割はこの日にラトゥールの末裔をこの神殿に迎え入れる事だったのです。一世一代の役目です。私の名は歴史に残るかもしれません。ミヤさんも私のような幸運に恵まれます」

 神官長は食事を取って元気になったのか興奮してしまう。

「レテは神官長の幸運の女神様でもあるのか、僕だけの女神様でいるわけにはいかない。仕方がないことさ」

 ネアスは静かに神官長の幸運を喜ぶ。レテが異論を言う。

「私が神官長の幸運の原因とは限らないわ。ここにはたくさんの人が集まっているわ、誰のおかげかは分からないかな」

 レテは神官長の幸運の女神は避けたい。

「未来の英雄であるワシのおかげじゃ。今は記憶喪失じゃがワシには明るい未来が約束されているのじゃ。神官長殿、遠慮せずにワシの幸運を受け取るが良いのじゃ」

 ガーおじが役割を果たすようだ。レテは納得して大きくうなずき神官長に睨みを効かせる。神官長は静かに受け入れる。

「ミヤさんは誰の幸運の女神様になるんだろうか。それともガーおじのような人から幸運を授かる人になるのか、未来が楽しみだ」

 ネアスがミヤを見ると彼女はいたずらっぽく笑う。

「私もネアス様の幸運の女神様かもしれません。レテ様だけがそうだとは限りません」

 ミヤはレテを見て反応を確かめる。レテは微笑んでいる。

「モテモテね、ネアス。これでキミもモテない同盟は卒業かな。今からキミはモテる子に生まれ変わるよ」

 レテはいつも通りにネアスをからかう。

「ネアスさんがモテない卒業は早かったわね。元々出会いが少なかっただけよ、これからはしっかり女性の気持ちを理解してくのが良いわ」

 マリーはネアスにアドバイスをする。ネアスは混乱に陥る。

「ミヤが僕の幸運の女神様?マリーさんの気持ちが分かる男でガーおじはモテない。これから僕は毎日ナンパをしないといけないのか?」

 ネアスは正気を失う。ガーおじが彼をもとに戻そうとする。

「ネアス殿、あれが女性のやり口じゃ。気をつけるのじゃ、早く教えておくべきじゃった。世界は変わらない、安心するのじゃ。ネアス殿は今まで通りで良いのじゃ」

 ガーおじがやさしく語りかけるとネアスの心は落ち着いてくる。

「ガーおじの意見には反対だけど、ネアスが問題ないなら良いのかな。今まで通りで構わないのは賛成ね。でも、いつかはマリーの言う通りになるわよ」

 レテの最後の言葉にネアスはビクッとしてしまう。マリーはその様子を見て反省する。

「レテ、ごめんね。余計な事を言っちゃったわ、私はおせっかいな所があるのよ。良くないことなのは分かっているのに……」

 マリーはレテに真剣に謝る。レテは気にしていないようだ。

「マリーは悪くないわ、ホント、ホント。ネアスの事は私も良く分からないの、モテるの意味を分かっていないのかな」

 レテはマリーを抱きしめる。

「ネアスさんは女性とデートをしたことがないみたいです。それを理解した上でモテる話をするのが良いようです。いいえ、私には分かりません」

 アーシャは武術に専念することにした。

「モテは厳しいのじゃ、レテ殿たちには分からないと何度言えばよいのじゃ。聞く耳を持たないものはいつか大きな失敗をするのじゃ」

 ガーおじは女性陣に説教をする。

「ガーおじ様のおっしゃる通りです。我々が女性の気持ちを間違うようにあなた方も私たちも歪んだ目で見ているのです」

 ドロスはガーおじの後ろに隠れつつ牽制する。

「そこまで二人に言われる筋合いはないかな。モテない同盟の二人こそ不純な感情しか持っていないのよ。ミヤはきちんと見定めるのよ」

 レテはミヤに語りかける。

「いつか私もステキな出会いがあると良いです。幸運の女神様、よろしくお願いします」

 ミヤはレテにお願いをする。レテはちょっとびっくりするが答えてあげる。

「ミヤにステキな出会いがある事をリンリン森林に行った時にお願いするわ。ネアスも一緒に行こうね、ガーおじはどうするかな」

 レテは二人を交互に見つめる。

「リンリン森林か。もう一度行ってみたいね、僕らの出会いの場所さ。シルフィーさんの故郷でもあるハズ。きっとミヤさんの願いは叶うさ」

 ネアスもミヤの願いを伝える事にした。

「ワシはどうするべきなのじゃ、こういう時にモテない身はツラいのじゃ。この選択肢はワシには難しいのじゃ」

 今度はガーおじが訳が分からなくなる。

「私ならついていきます。好奇心です、しかし、ついていかないのが正解ですか。私が間違っているならば……」

 ドロスが何とか回答を絞り出す。

「ついていかないのが正解だと思うわ。でも私のおせっかいが不正解の事が多いから正解はついていく?」

 マリーは自信を失っている。

「私がガーおじ様であればどうするのでしょうか。神官長ではない。私には想像できません。私は風の神殿の神官長です」

 神官長は突然宣言する。

「みんな、考え過ぎかな。私はガーおじがどんな返答をするか気になったから質問しただけよ。どっちでも構わないかな」

 レテは他のみんなも巻き込んでしまったことを申し訳なく思う。

「レテ殿はイジワルなのじゃ、レテ殿特製サンドイッチをまずいと言ったことをずっと覚えているのじゃ、三日も立ったのじゃ。忘れても良い頃合いじゃ」

 ガーおじが口を滑らす。レテの顔が曇る。

「女の子の手料理に不味いはないです。ガーおじさん、食の好みは人それぞれです。気遣いが大事です」

 アーシャはレテの特製サンドを知っている。

「皆さんでレテの特製サンドをたべましょう、それが解決策です。ガーおじさんの味覚が変な事を全員で確認しましょう」

 マリーが健全な提案をする。ガーおじの目がキラリと光る。

「マリーさんに僕も賛成です。レテの特製たまごサンドの味はみんなで味わうべきさ。僕は味覚がないけど、思い出で食べるから問題ないさ」

 ネアスはうれしそうに同意する。

「ネアスが食べたいなら良いかな。みんなにもごちそうしてあげるわ。言っておくけど騎士団でも私のたまごサンドを美味しいって言ってくれる人はいないわ。私のたまごサンドは味の分かる人かネアスみたいな不思議な人だけが分かるのよ。私は前者かな」

 レテはつい長く説明してしまう。

「ワシは味が分からないのじゃ、この中にレテ殿のたまごサンドの良さが分かる人物がいると良いのじゃが、ミヤ殿なら分かるかもじゃ」

 ガーおじはレテを追い詰めようと画策する。アーシャは心配そうに様子を見守っている。

「私もリンリン森林に一緒に行きたいです。三人で特製たまごサンドを作って食べたいです。連れて行ってください」

 ミヤは思い切って二人にお願いする。ネアスはうなずこうとするがレテを確認する。

「三人でリンリン森林に行きましょう。今度の晴れた日にシルちゃんとモラも一緒にね。あの子はどうしようかな」


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