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勝者は誰だ

 夜も遅くなりストーンマキガンの街は石職人ギルドの騒動も収まり、人々は明日への準備をしつつ雨の晩を過ごしていた。風の神殿にも雨のお陰で来訪者はないようだ。

「ネアス、宝物を増やすチャンスよ。たくさん持っていたほうが得かな。ホントに要らないのかな、ネアス」

 レテは最後にネアスに揺さぶりをかける。

「要らないと言い切りたいけど、迷いはある。それでも今ここで手に取る気持ちはない。後で後悔しても構わないさ」

 ネアスは瞬時に答える。

「ネアス殿が決めたのなら仕方がないのじゃ。風の槍はあきらめるのじゃ、この槍は別の人が使って大活躍するのだろうな、うらやましいのじゃ」

 ガーおじは嫉妬で心が狂いそうだ。

「レテ様にお任せします。私にはモテない気持ちは分からないようです。どうしようもありません」

 アーシャは完全にあきらめた。

「ネアス殿、近くに行くだけでもお願いしたします。精霊伝説のセットをお譲りします」

 ドロスがネアスを買収しようとする。精霊伝説にネアスは反応してドロスに顔を向ける。神官長も見逃さなかった。

「今、お持ちしましょう。これは精霊伝説のセットはお礼です。風の神殿に訪れて頂いた感謝の印です。風の槍は何も関係はありません」

 神官長はすぐに図書室に駆け込んでいく。

「やるわね、ネアス。精霊伝説を手に入れたわ。子供の頃に欲しかった物って意外な形で手に入るものかな。良いことね」

 レテは精霊伝説を貸せなくなってちょっとだけ残念な気持ちになる。

「必ず必要になる時が来ます。よろしいのですか、ネアス様」

 ミヤが厳しい顔つきでネアスを問い詰める。

「ミヤ殿、先程からどうしたのじゃ。様子が変なのじゃ、いつものイタズラ好きなミヤ殿に戻って欲しいのじゃ」

 ガーおじはミヤが遠くに行ってしまったように感じて悲しくなる。

「ガーおじの言う通りかな。あんまり様子がおかしいとごまかしきれなくなるわよ。あなたは何者なの、ミヤ」

 レテは頃合いと見てミヤを問い詰める。ミヤは表情を変えない。

「私が最初に気づくべきでした。ミヤさんは眠くて機嫌が悪いのでしょう、ネアス様の決断が遅すぎるのです」

 ドロスはミヤを寝室に連れて行こうとするが彼女は嫌がる。

「確かにミヤちゃんは大人っぽい所がありますが、さっき話した時はこんな風ではなかったです。亡霊にでも取り憑かれたのでしょうか」

 アーシャの発言にレテがビクッとする。

「亡霊、レイレイ森林や王宮に住み着いているって噂のアレ!」

 ネアスはびっくりしてミヤをじっくりと観察する。ミヤはネアスと目を合わせない。

「過去に囚われし者たち。ミヤ殿に取り憑いて何を求めているのじゃ!」

 ガーおじは活を入れる。効果はない。

「亡霊であれば祈りを唱えるのみです。時間がないにはあなたの責任です。ミヤさんの体から出ていくのです。我らが神官の魔力を込めた祈りを侮らないことです。望みを言いなさい」

 ドロスは試しに祈りを魔力を使って唱える。ミヤが白い輝きに包まれる。

「申し訳ありません。私はかつてこの神殿で神官を勤めていた者です。私はレイレイ森林で他の亡霊たちと楽しく暮らしていたのです。ですが、レイレイ森林にもゴブリンが集まるようになりました」

 唐突に亡霊は身の上話を始める。ドロス以外はうろたえてしまう。

「ホントにレイレイ森林には亡霊がいるのね。冒険者たちは不思議な音を聞いたり、噂話をしているみたいだけど、ホントにホントなの?神官と冒険者が騎士をビビらせようとしているだけでしょ?」

 レテは話に割り込み、ドロスに確認する。

「不幸な人々はいつの時代もいるものです。彼らは亡霊となり世をさまよい歩きます。私も経験は少ないですが亡霊の相談に乗った事は数回あります。本来は風の神殿の役割ではなかったようですが、世の移り変わりで私達の役目になりました」

 ドロスはミヤにやさしく話を続けるようにお願いする。

「どういう理由で亡霊になったかは忘れましたが穏やかに暮らしていました。しかし、ゴブリンが毎晩、毎晩歌を歌うので静かに暮らすことが出来ません」

 ミヤの周りの光が強くなる。

「お主も記憶喪失か、亡霊になっても記憶がなくなるとはコワイのじゃ」

 ガーおじはため息をもらす。

「ドロスさん、ミヤちゃんは大丈夫でしょうか。意識を乗っ取られているなら危険です。今すぐに対処しましょう」

 アーシャは槍をミヤに向けて威嚇をする。ドロスはアーシャの槍にそっと手を当てる。

「悪気はないのです。彼らは生の世界から離れすぎて我々の気持ちを理解することが難しいのです。どうか話を聞いてあげてください。ミヤさんも神官ですので訓練は受けています」

 ドロスの冷静な言葉にアーシャは槍を収める。

「本当に申し訳ありません。皆さんに迷惑をかけない事がレイレイ森林での決まりごとです。私は破ってしまったのでしょうか、ああ、どうしたら良いのか」

 亡霊は焦っているようだ。

「ミヤさんが無事なら迷惑ではないと思います。僕個人の意見ですが、もし、レイレイ森林で問い詰められたらネアスの名を出してください。必要ならラトゥールの末裔の名もだしてください」

 ネアスは亡霊を安心させようとする。

「ありがとうございます、ネアス様。ミヤ様に危害はありません。了解は取りましたが子供ですので良かったのか、ダメでしょうね。親御さんは怒ります」

 亡霊は悲しみを隠せない。

「ミヤ様の親御様には私が伝えますので問題ありません。全ては了解済みです。彼女は神官見習いです。話を続けてください」

 ドロスはサクッと解決する。

「ドロス様、ありがとうございます。私は勝手に飛び出してレテ様に救いを求めに来たのです。しかし、生きている人々に迷惑をかけないようにとなると難しくて。昔勤めていた風の神殿にお祈りに来ました」

 亡霊は話を続ける。

「ちょうどラトゥール様の風の槍が空に出現した話を聞きまして、ここでレテ様を待っていました。その後の事は皆様ご存知の通りです」

 亡霊は話を終える。

「待っていたのね、レイレイ森林でも私は有名なのかな。あなたがたまたま、きれいでやさしくきれいでかわいい私を知っていただけかな」

 レテは待ちきれずに亡霊に質問をする。

「ワッ!」

 ガーおじがレテの背後から大声で脅かそうとする。レテは何も反応を示さない。

「ガーおじ、バカみたいな事はしないの。大事な話をしている最中よ。遊びたいなら町長の家にでも行きなさい」

 ガーおじは当てが外れたようで静かになる。

「亡霊にも有名なレテ、しかも頼りにされている。すごい!」

 ネアスは素直に感心する。レテはビクッとする。

「レイレイ森林でもレテ様の活躍はお聞きしています。ゴブリン退治はレテ様にお任せとの話で盛り上がっています」

 亡霊は明るい声で答える。レテの顔色が徐々に悪くなる。

「アーシャの名前はどうですか、亡霊さん?」

 アーシャも気になって尋ねてみる。亡霊はミヤの体で首を横にふる。

「レテ様ほどの活躍が必要のようです。私も明日から槍の訓練をより一層頑張ります」

 アーシャは決意を新たにする。

「話は分かりました。しかし、あなたはどうしてネアス殿の風の槍を取るように強く勧めるのですか。何かご存知なのですか」

 ドロスはやっと聞きたかったことを質問する。

「それは私にも分かりません。ミヤ様の体を借りようなんて思ってもなかったんです。信じてください。風の槍の近くにいたら急に気持ちが高ぶったんです」

 亡霊は心底済まそうに語る。

「ワシもきれいな女性を見かけると気持ちが高ぶるのじゃ。話しかけたい衝動を抑えられないのじゃ」

 ガーおじは同意を示すが女性陣は冷たい目線を送る。

「僕も初めてレテに出会った時はドキドキした。ガーおじと一緒さ」

 ネアスが場違いな発言をする。

「ネアスさん、今はそういう話をする時ではありません。訂正しますがネアスさんの気持ちとガーおじさんの気持ちは違います」

 アーシャはガマンできずに口に出してしまう。すぐにレテを確認する。

「アーシャの言う通りよ。ネアスはモテない期間が長いでしょ、経験不足をもっと意識するべきかな。私はきれいでやさしくてかわいいから気にしないけどね」

 レテはほんの少し落ち着く。

「風の槍の近くにいると私も気持ちが高ぶります。好奇心が抑えきれません、神官の習性なのでしょう。理由は分かりました」

 ドロスは納得する。

「待ってください、ドロスさんも特殊です。参考になりません、風の槍で興奮する気持ちは分かりますがネアスさんの事は未解決です」

 アーシャの言葉にドロスはショックを受ける。彼の思考が特殊に囚われてしまった。

「特殊、特殊」

 ドロスが役に立たなくなったのを見てとりレテは亡霊に話しかける。

「今はどんな気分なの、亡霊さん。ドロスのお祈りが効いてミヤに取り憑けなくなったのかな。私達も亡霊の事は分からないのよ」

 レテは恐る恐る尋ねる。

「ミヤ様と一緒にいた時は不思議な感覚でしたが今は何も感じません。言葉も頭に思い浮かんできません」

 亡霊は丁寧に質問に答える。

「ミヤさんに尋ねた方が早い。亡霊さん、ありがとうございました」

 ネアスは亡霊にお礼を述べてミヤの様子を確認する。ミヤはボーッと立ったままである。

「お世話になりました。お役に立てずにもうしわけありません。私はレイレイ森林に帰ります。本当にご迷惑を掛けました」

 ミヤから白い光が消える。ミヤが倒れるのをアーシャが受け止める。

「ミヤちゃんは私が寝室に連れていきます。ドロスさんも一緒に来てください、体に異常がないか診てください」

 アーシャの指示に従い、ドロスは彼女についていく。

「亡霊さんはラトゥールについては何も知らなかったわね。当たり前と言えば当たり前かな、そうなると謎は深まるばかりね」


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