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犯人

 風の神殿にレテの悲しみを帯びた声がこだまする。雨音はさらに強まり、神殿の中には冷たい風が吹いている。ネアスは観念したようでフラフラしながらも立ち上がりレテに向かい合う。

「覚悟が出来たようね、話した方が楽になるわ。ダイジョブ、ダイジョブ」

レテは心配になりネアスにパーフェクトモチを差し出す。彼はそれをぎゅっと握りしめる。

「分かった、レテ。僕にも事情がやっと飲み込めた。僕はラトゥールの末裔であり、ラトゥールに恨みがある。結論として僕はこの末裔の運命を受け入れられないためにあらゆる事をしてきた。でも、僕にはその記憶がない」

 ネアスはレテの推理に従い自分の結論を述べる。レテたちは息をのむ。

「ネアス殿も記憶喪失じゃったのか、先に言ってほしかったのじゃ。ワシとネアス殿の仲で隠し事は寂しいのじゃ」

 ガーおじは涙がこぼれてくる。

「記憶がないの、そうなんだ。私は知らなかったわ。どんな記憶がないのかな、気になるわ」

 レテはネアスに質問をする。

「僕は記憶喪失だからわからない。レテは知っていると思っていた。僕はどんな悪いことをしていたんだろう」

 ネアスは不安げに頭を抑える。

「レテ様もネアス様も知らないのですか、不思議な話です」

 ミヤも頭をひねる。

「どうしてネアス様が記憶喪失なのですか、私はそうは感じません。本人が言うのならそうかも知れませんが……」

 ドロスも結論に納得がいっていないようだ。

「ネアスは私をラトゥールの末裔に仕立て上げようとしたのよ、彼の野望のために必要なことだったのかな」

 レテは自信なさげに答える。

「ラトゥール様の末裔の話にネアス殿は関係あるのでしょうか、レテ様のご問題と私は思っております」

 神官長が真摯に答える。

「でも、私はラトゥールの末裔ではないわ。自分の事は自分が一番良く知っているわ、私は精霊使い、才能はあるかも。後はきれいでやさしくてかわいい女の子よ」

 レテは自己評価を述べる。

「レテが考えて結論付けた。僕はレテの考えに賛成だ。賛成二!」

 ネアスはいつも通りにレテに賛同する。神官長たちは戸惑いを見せる。

「多数決で決めるんですね。私はどうしたら良いのですか、神官長?」

 ミヤは神官長に救いを求める。

「祈るのです、ミヤ。ラトゥール様に祈るのです。私たちは今日、巨大な風の槍を目撃しました。三本の巨大な槍が大鳥になりました。それが何よりの印です」

 神官長は話を変えようと試みる。

「ワシはネアス殿とレテ殿についていくのじゃ。仕方がないのじゃ、ワシもラトゥールの末裔じゃ、これで三人ともラトゥールの末裔なのじゃ。賛成三じゃ?」

 ガーおじも仲間はずれが悔しかったので自分をラトゥールの末裔にすることにした。

「賛成三、棄権二。ドロスはどっちかな。これで勝負が決まるかもしれない重要な投票よ、どうするのかな」

 レテは一旦ガーおじを無視して強硬に決めようとする。

「レテ様に賛成致します。記憶喪失、呪い、ラトゥール。この全てに私は興味があります。皆様が賛成であれば問題はありません」

 ドロスはしっかりと答える。

「ドロスさんを初めて尊敬しました。私は修行が足りないみたいです。明日から頑張りますのでよろしくお願いします」

 ミヤはドロスの決断力に憧れを抱いたようだ。

「賛成四、棄権二ね。私はラトゥールの末裔ではない。ネアスはラトゥールの末裔。ガーおじは私たちの仲間、これが今の私たちの結論かな」

 レテは話がまとまりホッとして力が抜ける。ネアスの首元から手を離して静かに座り込む。

「レテ様がラトゥールの末裔である確証はありません。おっしゃる通りです。では、ネアス殿がその役目を果たすことを私は祈ります」

 神官長はシブシブ祈りを捧げる。その祈りに応じるようにシルフィーの風が礼拝堂の中を包み込む。裏口にいたアーシャも風に気づいたようで、すぐに礼拝堂に向かってくる。

「良い風が吹いています。まるで朝の山頂で風を感じているようです」

 アーシャは風を楽しんでいる。

「シルちゃんも賛成みたいね。本当に良い風、またリンリン森林に遊びに行きたくなったわ。雨が止んだら、みんなで行こうかな」

 レテも風を感じ、気持ちがリラックスする。

「精霊の考える事はワシには分からないのじゃ。しかし、シルフィーはレテ殿とネアス殿の味方のようじゃ。ワシはどうなのじゃろうな」

 ガーおじは目を閉じシルフィーをなんとか感じようと努力する。

「偉大なるラトゥールの加護を!」

 神官長はここぞとばかりに大声で祈りの言葉を唱える。祈りに応えて風の槍が礼拝堂の中央に出現する。

「ネアス様、風の槍をお取りください。ラトゥールの末裔の役目です」

 ミヤは今度こそは乗り遅れないように躊躇なく言葉を口にする。今度はドロスがびっくりする。

「賛成六ね。アーシャはどうする、ネアスがラトゥールの末裔かどうかみんなで決めているの。アーシャ以外は賛成よ」

 レテはアーシャにも賛成して欲しいようだ。

「みんなで決めて良いのですか?それなら賛成です。ネアスさんとレテ様なら上手くやっていけます」

 アーシャも迷わず賛成する。レテは満面の笑みを浮かべてネアスを見つめる。

「槍は使ったことがないからレテの方が良いかもしれない。シルフィーさんともレテの方が仲良しだし、僕にはゴブジンセイバーもある。使う機会はないかもしれない」

 ネアスは最後の抵抗を試みる。

「ワシはネアス殿が決断するまでいつまでも待つのじゃ。じっくりと考えると良いのじゃ、今すぐに風の槍を手に取る必要はないのじゃ。全員賛成が良いのじゃ」

 ガーおじはネアスが迷っているのを見て取り、一人で図書室へ向かっていく。

「ガーおじの言う通りね。ネアスにも考える時間は必要ね。私も話し相手になってあげるから安心してね」

 レテは再び座り込み、温かいドリンクを二人分用意する。風の槍は静かに佇んでいる。

「レテ様、分かりました。私はミヤさんに話の流れを聞きます。良いですよね、ミヤさん。後、槍の扱い方は私がみっちりと教えることが出来ます」

 アーシャはミヤの手を取り別の部屋に向かっていく。ミヤもうれしそうにアーシャと手を繋いで歩いていく。

「ドロスさん、私たちは祈りを捧げましょう。ネアス殿の決断の邪魔をしてはいけません。私は迷いを捨てました。全ての印は一つの答えを示しました」

 神官長はレテたちのそばを離れ、目を閉じ、祈りを捧げる。ドロスもアーシャたちについていきたかったが決意して祈りを捧げる。

「ネアスも座ると良いわ。まだまだ時間はあるわ、ゆっくりと考えれば良いかな。私とシルちゃんとモラに任せれば、ダイジョブ、ダイジョブ」

 レテの合図でモラがネアスの頭に乗り移る。ネアスはレテの用意した温かいドリンクを飲んで一呼吸する。

「ラトゥールの末裔かどうかをここで決める。決められない、違う。末裔だから決めることではないはずだ」

 ネアスは当然の疑問を口にする。

「シルちゃんが用意した風の槍よ。手に取って、それでおしまい、おしまい。難しいことは何もないわ」

 レテは風の槍を見つめながら答える。

「それならレテが槍を手に取れば良いさ。レテの方が似合っている。僕にラトゥールの末裔の名は重すぎる。本当かどうか分からなくても大変なのは分かる」

 ネアスは自分の言葉で自分の役目を知る。

「そうだね、僕はラトゥールの末裔だ。何を今まで言っていたんだろうか、風の槍をこの場で見てみると馴染み深い気がする」

 ネアスは立ち上がり、風の槍を手に取ろうとする。レテがそっとネアスを呼び止める。

「良いの、ネアス。大変なことよ。厄介事ばかり押し付けられるかな、私はキミが手に取ってくれるって思っていたけど無理強いはしたくないかな」

 レテはネアスを無理やり力で座らせる。

「レテの目論見通りの展開さ。それでも僕は構わないさ、一人で背負うのは大変だけど。どうにもならないことはあるのさ」

 ネアスはドリンクを飲んで天井を見上げる。

「目論見?私はネアスがラトゥールの末裔だと思っているわ。キミは他の人と違って不思議な感じがする。私はキミにウソはつかないわ。もちろん、間違うことはあるかな」

 レテはネアスに微笑みかける。

「レテと一緒にいると混乱することがある。僕はラトゥールの末裔って親からも知り合いからも聞いたことがない。レテは今回大間違いをすることになるさ」

 ネアスは興奮を落ち着かせようとする。

「じゃあ、勝負ね!私はネアスがラトゥールの末裔だと思っているわ。キミは自分がラトゥールの末裔だとは思っていないけど、私はきれいでやさしくてかわいい、しかも精霊使いの騎士。それに付け加えてラトゥールの末裔らしい女の子になるのと阻止するために代わりになってくれるのよね」

 レテは他の人たちに聞き取られないように耳打ちする。ネアスの顔は赤くなってしまう。

「そこまで言われると賛成してくれた皆さんに悪い気がしてくる。やっぱり、レテがラトゥールの末裔を名乗ったほうがしっくりは来る気がしてきた」

 ネアスも内緒の話なのでレテに耳打ちをする。

「ネアスの不戦敗になるわよ。私がラトゥールの末裔を名乗っても良いけど、私は自分をそう思っていないから面倒になるわ」

 レテは彼にささやいた後に耳から顔を話して大きめの声で言葉にする。

「私は騎士団所属の精霊使いのレテ。ラトゥールの末裔を名乗っているけど、これがウソか本当かは誰にも分からないわ。私はちなみにウソだと思っているかな」

 レテの声に神官長が祈りを一時中断して彼女たちの方を見るが、和やかな顔をしているレテを確認すると祈りに戻る。

「僕は冒険者のネアス。ラトゥールの末裔を名乗っているけど、僕はこれを信じてはいない。隣にいるレテは僕がラトゥールの末裔だと思ってだいる、彼女は僕の幸運の女神様だから間違いはないとは思うけど答えは誰にも分からない」

 ネアスも真似をして自己紹介をする。今度はドロスが祈りを中断して二人を見つめた後、再び静かな祈りに戻る。

「どっちもどっちかな。でも、キミは私の事を信用しているのね、ウソだったらどうするの?厄介事をキミに押しつけているだけかも」

 レテはまた耳打ちをする。

「ウソでも幸運は僕に巡ってくる。これは確信しているから問題はないさ。それよりも僕は剣術の腕前もイマイチだし、精霊使いかどうかも分からない。シルフィーさんがとてもやさしいから力を貸してくれているだけさ」

 ネアスの言葉に反応して礼拝堂がさらなる風に包まれる。さすがに室内では大きすぎる風量なのでレテが注意をする。

「シルちゃん、風を弱めてくれるかな。ネアスは慣れていないから何でも鵜呑みにはしないでね、お願い!」

 レテの求めに応じて風は元の強さになる。ネアスは感心して風の流れを感じている。

「うかつにシルフィーさんに話しかけないほうが安全だ。精霊は難しい」

 ネアスの言葉で彼の周りだけで風が強くなる。レテも巻き込まれるが楽しんでいる様子だ。

「気にしない。気にしない。いっぱいシルちゃんにお願いをするのが一番よ。何事も慣れる事が大切よ。末裔の称号もそのうちにしっくり来るわ」

 レテの髪の毛は風で乱れるが彼女はシルフィーに風を止めるようにお願いはしない。

「後の問題はこれだと勝負にならない。決着がつかない試合は面白くない。どちらが末裔なのか判断できないと僕の勝利にならない。これは困る」

 ネアスは三勝目に意欲を燃やしている。

「それとも、どちらもラトゥールの末裔ではない。それも答えの一つかな」


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