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デリカシー

 ストーンマキガンの街には雨粒がポタポタと降り注ぎ始める。街の人々は騒ぎの顛末も気になるようだが雨が強くなるのを予想して足早に家路にとついていく。アーシャは偵察から戻らない。

「ラーナはきれい、きれい、きれい。それがきれいでやさしくてかわいい私が疲れている時に近くで話す事かな、ネアスくん」

 レテの声には凄みがある。ネアスは恐怖で言葉が出てこない。ガーおじは勇気を振り絞ってネアスを擁護する。

「ワシが悪いのじゃ、レテ殿。ネアス殿に昨日の晩にラーナ殿はどのくらい美人だったのかを根掘り葉掘り聞いたのじゃ。髪の長さ、目の色、スタイルの良さ、服のセンス、性格、彼氏がいるのか、たくさんララリを持っているお嬢さんなのかはすぐにわかったのじゃ。他の質問に対してのネアス殿の答えがイマイチだったから、今度はしっかりと観察するようにと助言したのじゃ」

 ガーおじはラーナの話題で興奮してしまう。

「黄金色の長い髪に赤い色が入った茶色の目、スタイルは抜群。服のセンスも悪くないわ、ローブには細かい刺繍が施されているわ。クロウは彼氏ではない、満足かな」

 レテは二人を交互に見る。ガーおじは満足して想像を膨らませる。

「性格さ、性格が大事さ」

 ネアスは必死に言葉を絞り出して、レテを見る。彼女は笑みを浮かべて答える。

「性格はキツイかな、後は世間知らずのお嬢様ね。お世辞にも弱いわ。好みは人それぞだけど、ガーおじを支えてはくれないかな」

 レテは冷静に評論する。ネアスも大きくうなずく。

「問題ないのじゃ、ワシは支えてもらう必要はないのじゃ。一人で何でも出来るのじゃ、だから、ラーナさんとお似合いなのじゃ」

 ガーおじはラーナの事を好きになった。

「ガーおじ、まだ会ったこともないのにお似合いって無理がある」

 ネアスはつい大声をあげてしまう。レテは静かに唇に手を当てる。

「落ち着くのよ、ネアス。キミの先入観、会ったことがなくても恋に落ちることは良くあることよ、手紙だけで結婚した人もいるわ。ステキな話よ」

 レテは壁にもたれかかりながら再び目を閉じる。

「そうじゃ、レテ殿。大人の恋は会う必要はないのじゃ、一目見る必要もないのじゃ。ネアス殿、ワシは分かるのじゃ」

 ガーおじの胸はときめく。

「手紙のやり取りは分かるけど、ラーナさんとガーおじは一切関わりがない。僕は結婚しようって言われた」

 ネアスは最悪の言葉を言い放つ。ガーおじのときめきは封じられたがレテがすぐさまに目を開く。

「ネーくん、私も呼んであげようかな。ネーくんはラーナの事が好きなの、アーシャとのデートの約束もあるし、大変ね!」

 レテは攻撃するかからかうか悩んでいる。

「ネアス殿は浮気症なのじゃ、ワシのようにラーナ殿一筋に生きなければいけないのじゃ。思うだけなら迷惑はかからないのじゃ」

 ガーおじはくやしさで胸が張り裂けそうになる。

「僕はそういうつもりで言ったけど、ラーナさんが好きとかではないから安心してガーおじ。僕はララリを稼ぐのが最優先さ」

 ネアスは現実に戻ろうとする。

「ラーナはからかっているだけかな、魔術の研究に興味がありありみたいだったわ」

 レテは先程のラーナの興奮を思い出す。

「ほう、レテ殿!流石の観察力なのじゃ。ワシは風の神殿で魔術の本を読み漁ってラーナさんと楽しい話をするのじゃ」

 ガーおじの胸の高まりが戻ってくる。

「レテの言い通りさ。僕はそれを証明するために今度ラーナさんに会ったら結婚を申し込む。バカにされておしまいさ。スッキリするはずだ」

 ネアスが二人の同意を求めるがレテは話についていけない。

「ネアス殿はチャレンジ精神があふれているのじゃ。ワシには真似できないのじゃ、何がネアスどのを急き立てているのじゃ」

 ガーおじは雨音を聞き、心を落ち着かせようとする。レテも何とか二人についていこうとする。

「結婚すれば街の中に入れるってラーナは思ったのよ、実際に結婚するつもりはないわ。わざわざ蒸し返すことはないかな」

 レテは細部を思い出すことに成功する。

「普通はそれでも結婚しようとは言わない。からかわれたのさ、あるいはそうではないかもしれない?」

 ネアスの言葉には不純さが宿る。レテとガーおじは瞬時に察知する。

「ネアス殿、それは悪しき考えなのじゃ、心を惑わすだけなのじゃ。チャンスを感じてはダメなのじゃ、ネアス殿」

 ガーおじは目を閉じ、静かにネアスに助言をする。レテも目を閉じてうなずく。

「可能性はゼロではないわ、ガーおじの言うとおりよ。ネアスの心は乱れているわ、当然ね。今日はたくさんの事があったわ」

 レテは静かに周囲の音に気を配る。前方から足音が聞こえてくる。

「レテ様、遅れました。神官長とドロスさんと準備をしていました。風の神殿にも人が集まっているようで裏口から入ってほしいとの事です」

 アーシャが一人の少女を連れて三人に報告をする。

「ガーおじ様、また会いましたね。今日はご縁があります」

 少女はガーおじのそばに駆けつけていく。

「ミヤ、こんばんは。案内をしてくれるのかな、夜にご苦労さま」

 レテは少女の顔をすぐに思い出す。

「ミヤ殿はしっかりしているのじゃ、全て任せて問題ないのじゃ。出発進行じゃ」

 ガーおじの合図に従いミヤが小走りで先頭に立ってレテたちを案内していく。

「ラトゥール様が現れたと大人たちは大騒ぎです。大きな鳥みたいな姿が空に出現しただけであんなに感動出来るなんて不思議です」

 ミヤはレテたちに感想を告げる。

「空ではそういう事があったのか。やっぱり見ておけば良かったかな。でも、ラトゥール様がいるならこれからは安心だな。ゴブリンも少なくなって旅もしやすくなると良いな」

 ネアスはのんきに感想を述べる。

「私の槍の腕前を披露する場所がなくなります。どこで訓練の成果を発揮するか考えないといけません」

 アーシャは槍を片手に周囲を見渡している。

「王国はもっと平和になるのですか。大人たちが興奮している理由が分かりました。もう私も毎日お祈りをしなくても良いんですね」

 ミヤはうれしそうな声で答える。

「ミヤ殿、お祈りは大事なのじゃ。ラトゥールといえども万能ではないのじゃ、ワシがラーナさんと結ばれることには協力してくれないのじゃ」

 ガーおじがラーナの名前を出すとミヤは興味があるようで一度足を止めるが、神官長との約束を思い出して、さらに早足で道を進んでいく。

「ネアスの意見をまともに受け止めたらダメよ、みんな。彼はなんでも好意的に受け取りすぎ、世の中には悪いことを考えている人もたくさんいるのよ。ミヤも知っているでしょ」

 レテはふんわりと訂正をする。

「レテ様、ラトゥール様が現れたら皆さん良い人になるのではないのですか。神官長に毎日教えてもらっています」

 ミヤはレテに鋭い質問をする。レテは返答に困る。

「良い人か、僕は性格が悪い所があるから王国にはいられない。でも、レテもガーおじも性格がすごく良いわけじゃないから大丈夫さ、大丈夫さ」

 ネアスは良い人になれないと確信している。

「ワシは良い人じゃ。しかしネアス殿が悪い所があるというなら仕方がないのじゃ、一緒に王国から旅立つのじゃ。後の事はラトゥールが頑張るのじゃ」

 ガーおじはネアスに賛成する。

「賛成二、私はきれいでやさしくてかわいいけど良い人かは分からないかな。だから、ネアスと一緒に行こっと。賛成三ね」

 レテは楽しそうに会話に加わる。

「武術を極めることが私の最優先事項です。ラトゥールは他の皆さんを守っていただければ問題ありません。でも、交渉事も勉強しないとです」

 アーシャはブレない。ミヤは四人の返事に満足する。

「これからずっとラトゥール様にお祈りをするのは大変だと思っていました。皆さんの意見を聞いて安心しました。面倒になったら王国から旅に出ます」

 ミヤの決心にレテはドキッとする。

「ウ~ン、この事は神官長やドロスには秘密よ。私たちはラトゥール様を敬っている、今回の出現にも喜びを隠せない、これが私たちの共通の見解よ!」

 レテの指示にアーシャとミヤは黙ってうなずく。

「嬉しいことか、ラトゥール様には悪いけど僕はレテと出会ったときが一番うれしかったかな。僕はホントに信じる心が薄いな、簡単に喜びは隠せるさ」

 ネアスは静かに語る。

「それで良いのじゃ、ネアス殿。ネアス殿の幸運の女神はレテ殿なのじゃ、ラトゥールではなのじゃ。シルフィー殿とモラ殿も仲間に入れるのじゃ」

 ガーおじはうれしそうに語る。

「ガーおじ様とネアス様はいつもこの調子なのですか。レテ様が一緒にいる理由が分かります」

 ミヤはキョトンとしながらも風の神殿が近づいてきたので急ぎ足で裏に回る。

「いつもの通りです。私もレテ様と訓練をしている時が一番楽しいです。確かにラトゥールは関係ありません」

 アーシャは断言する。

「気にしない、気にしない。ラトゥール様の出現に喜びを隠せるって神官長に伝えてね、ミア。ダイジョブ、ダイジョブ」

 レテは上機嫌でミヤに伝える。彼女は立ち止まりレテに確認をする。

「良いのですか、ラトゥールの末裔のレテ様がそのような事を言うとは思わなかったです。神官長の驚く姿が目に浮かびます」

 ミヤも楽しげに話し、神殿の裏口にダッシュしていく。レテもダッシュする。

「レテがラトゥールの末裔、僕だけが知らなかったのか。いつもの事さ」

 ネアスもダッシュする。

「ワシも知らなかったのじゃ、ワシはラトゥール様を敬愛しているじゃ。レテ殿はイジワルすぎなのじゃ、ヒドイのじゃ」

 ガーおじは騙されたと思ってダッシュする。

「言われて見ればそうかも知れません。私はレテ様についていきます」

 アーシャは背後を警戒しつつ後をついていく。後方に気配は感じない。

「置いていくわよ、みんな。ちなみに私も知らなかったかな」


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