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特別待遇

 ストーンマキガンの街の人々は仕事が終わり、家路につく時間帯であった。しかし、石職人ギルドでの騒動と空にそびえたつ巨大な槍の出現でいつもの生活は乱されてしまった。みな、意気揚々と騒動の中心部へと向かっていく。

「この街の人たちでは話にならないわ、グラーフ出身のお二人なら中立な立場で協力してくれる。だから、招待したわ」

 レテは二人に丁重に話を持ちかける。

「この街はウルサイだけ、ほんとにそれだけね。人も街もウルサイ、王都育ちのレテにはよく分かるのね。きっとグラーフの街も気に入るわ」

 ラーナはレテの丁寧さに機嫌が良くなる。

「グラーフ出身なのはラーナだけだが細かいとはどうでも良いか。職人ってのは気難していけない、我々冒険者のように大らかであらねば」

 クロウもレテに相手をしてもらい嬉しいようだ。

「グラーフ、聞いたこともない街だ。その街も性格の悪いヤツラが多そうだ」

 ファレドはギルドの人々が心配で心に余裕が失くなってきたようだ。

「かわそうな、レテ。こんな女を相手にしないといけないのね、騎士も大変ね。一気にドカンとケリをつければ良いのよ」

 ラーナはキラキラした目で上空を見る。

「最初はそうしようと思ったけど、みんなが反対するのよ。セオも反対かな」

 レテはセオに問いかける。

「もちろん、反対です。出来るだけ穏便に解決するのが得策です。私は厄介事、いいえ、静かに住民に過ごしていただいたいです」

 セオは自分の意見をしっかり述べる。レテは静かにうなずく。

「ラトゥールの末裔。この話は真実だったようです。土産話に困らなくなります、これがラトゥールの力ですか」

 クロウはレテに笑みを浮かべて同意を求める。

「ラトゥールの末裔、何を言っているの。ラトゥールは謎の存在で末裔とか聞いたこともないわ!

 レテはクロウの発言に不快感を示す。クロウは笑みを浮かべたままだ。

「精霊使いについては私も本を読み漁ったわ。集められるだけの魔術と精霊の本は集めたわ。たいした本はなかったけど、精霊使いはちょっと自然の力を使えるだけなの。これはちょっとだけではないわ、断言できるわ」

 ラーナが大声でまくしたてる。

「ラトゥールの末裔、レテ様は精霊使いではなくてラトゥールの末裔?やはり!」

 話を聞いていたセオが驚いて大きな声で叫んでしまう。集まっていた街の人々がラトゥールの名を敏感に聞き取る。人々がそれぞれラトゥールの名を唱え始める。

「セオのせい、どうしてくれるの!私はラトゥールの末裔じゃない、また厄介事に巻き込まれていたわ」

 レテはセオを睨みつけてしまう。セオは済まなそうな顔で黙ってしまう。

「この女がラトゥールの末裔、信じられない!」

 ファレドは言葉とは裏腹にレテに恐怖を感じ始めたようだ。ファレドの大声でさらにラトゥールが街の人々に伝わっていく。ギルドの前にいる石職人はひれ伏してしまう。

「ラトゥールの名は偉大です。誰もが実在を疑っているのに名前が出るとこのザマだ。素晴らしい」

 クロウは笑みを浮かべて観察している。

「そうよ、風の神殿はいつも閑散としているわ。誰も信じているわけじゃない、気にしない、気にしない」

 レテは自分の都合の良いふうに解釈する。

「信じていなくても、あの風の槍を見ればラトゥールの力は一目瞭然。冒険者達が必死で伝説を追い求めたわけも分かるわ」

 ラーナは上空から目を離さない。

「偉大なるラトゥールの加護を!」

 セオは我慢しきれずに叫んでしまう。彼は毎日欠かさずに風の神殿に一日の平穏の祈りを捧げている。彼の声で街の人々が一斉にラトゥールに願いを込める。

「セオ!あなたはラトゥールを信じていたの?」

 レテは驚きの声をあげる。

「レテ様はラトゥールの末裔です。私を含めて一部の騎士はずっとその事を秘密にしていました。有志でたまにお酒を飲んでいます」

 セオはドサクサに紛れて告白する。

「グラーフの街でもレテ様がラトゥールの末裔であるとの話は聞いています。もちろん誰も信じてなどいません、タダの噂話、茶飲み話です。直接レテ様に言うバカはいないでしょう。今日、この日までは、おお、もちろんです」

 クロウは満足気に人々を眺めている。

「ち、私たち石職人が間抜けだったのか。ラトゥールの末裔の命令を無視しようとしたんなんて、申し訳が立たない」

 ファレドは倒れ込み、ラトゥールの名を唱え始める。

「あなたの勝ちね、レテ。掌握完了、素晴らしい手際ね。私たちは上手く利用された訳ね、見物料としては安い方だから不満はないわ」

 ラーナはじっと風の槍を見続けている。

「考え過ぎ、ラーナ。私はそこまで予測していないわ。でも、今日はシルちゃん、シルフィーの調子が良すぎね、どうしたのかな」

 レテは周囲の反応に飲み込まれないように頭を落ち着かせようとする。

「シルフィー、精霊の名ですね。今日からはラトゥールと呼んだ方よろしいのではないですか、レテ様」

 クロウが出しゃばってレテに申し出る。レテは無視しようとしたが招待したのは自分なので彼にうなずいてあげる。

「クロウさん、検討するわ。ラトゥール、もう少しだけ頑張ってね。私もラストスパートを頑張るわ。一緒にネアスとガーおじを助けるのよ」

 レテの予想に反してシルフィーはラトゥールの名に反応を示す。風の神殿の方角から大きな音が鳴りひびく。

「偉大なるラトゥールの加護を!」

 セオの声に応じて街の人々は一斉にラトゥールの名を唱える。ファレドも一緒に唱えている。

「レテ、何をするつもりなの。教えてちょうだい、何が起こるの。ラトゥールはどんな力を秘めているの?」

 ラーナの興奮が止まらない。上空ではさらに風が激しく巻き起こり始める。

「ネアスとガーおじを無事に助けるのよ、私の願いはそれだけ。シルフィー、それともラトゥール?その力を示して!」

 レテは強く願いを込める。その時、ギルドの中からアーシャが顔を出す。

「レテ様、何が起きているのですか。私のいない間にさらにすごいことになっています」

 アーシャは上空を見上げると二つの槍が空で重なり合う。

「これは何事じゃ、ラトゥール?!戦いの始まりなのか、ワシは今度こそ置いていかれなかったのじゃ、やってやるのじゃ」

 ガーおじがすごい速さでレテのもとに駆けつける。

「ガーおじ、無事だったのね。心配したのよ、ケガはなさそうね。ほんとに良かったわ」

 レテはガーおじをきつく抱きしめる。

「レテ殿、ワシはまだまだ元気なのじゃ。やることがたくさんあるのじゃ」

 ガーおじはレテをやさしく振りほどき、空を見上げる。三つ目の槍が出現する。

「ガーおじ救出作戦成功だ。ドキドキしたけど僕にしては上手くやれたハズだ。失敗は……」

 ネアスもギルドから出てくる。

「ネアス!遅いわ、何をやっていたかは後でゆっくりと聞かせてもらうわ!」

 レテはネアスに急いで駆け寄りガーおじと同じようにキツく抱きしめる。

「レテ、僕は無事さ。何も問題はなかった、順調にガーおじを見つける事が出来た」

 ネアスは照れて顔を赤くしてしまう。

「ネアス殿、気にすることはないのじゃ。ワシもレテ殿に抱きしめてもらったのじゃ、作戦成功なのじゃ」

 ガーおじは空からレテたちに視線を戻す。

「そ、何も問題はないわ。ガーおじとネアスは一緒、一緒」

 レテはネアスにだきついたまま話をする。上空では三本目の槍が重なり、大きな風が巻きおこっている。人々はその様子に釘付けのようだ。

「ラトゥールってあのラトゥールですか。どうして急に皆さんは合唱をしているのですか、レテ様」

 アーシャは状況をつかめずにレテに問いかける。

「知らない、ホントよ。私にも知らないことはたくさんあるみたい、こんな事になるなんて今日の朝は思っても見なかったわ」

 レテは素直に感想を告げる。

「ラトゥールの名は特別なのじゃ。皆が唱えているという事は意味があるのじゃろう、ワシには分からないのじゃ。神官長に聞いてみるのが良いのじゃ」

 ガーおじは仲良くなった神官長に聞くことを提案する。

「そうだね、ガーおじ。ドロスさんにも聞いてみよう、風の神殿で話を聞くのが一番だ。でも、もう日が暮れるし人もたくさん集まっているし……」

 ネアスは状況を把握するのはあきらめている。後でレテに聞けば良い。

「みんな、お空に夢中みたいだから私たちはこのまま退散しましょう。厄介事はセオがなんとかしてくれるわ」

 レテはもう一度空を見上げる。三本の槍は形を変え始めており、人々は期待を持って空を見上げている。

「あちらに小さい通りがあります。人がいるかは分かりませんが大通りを突っ切るよりは安全だと思います」

 アーシャはすぐに通りの様子を確認するために走っていく。

「アーシャは頼りになるわ、私の直感は正しかったかな。副団長の世話なんて任せないで良かったわ」

 レテは少し疲れを感じ始めてネアスに体重を預ける。

「レテ殿は頑張ってのじゃ、休憩するのが一番じゃ。ワシは箱の中でゆっくりと眠っていたから元気なのじゃ。全てガーおじに任せるのじゃ」

 ガーおじは石職人からハンマーを奪い取り臨戦態勢になる。石職人も空に夢中で気づいていない。

「レテ、レテ」

 モラがネアスのカバンから飛び出しレテの胸の中に潜り込んでいく。

「モラは無事に決まっているわ。頭脳明晰で私のサイコウの相棒!」

 レテはちょっと元気を取り戻す。アーシャが先回りした小道を見ると彼女が手招きをしているのが確認できた。

「ネアス、ガーおじ、脱出するわ。これ以上ここに留まっていたら、面倒な事になりそうかな、名残惜しいけど、出発、出発」


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